いつのまにか3月! 寒かった冬も、出口が見えてくると、ちょっと名残惜しい気分? そんな思いで銀座をあるいていたら、とても可愛らしい看板を見かけました。
人の姿? でも動物にも近い? 精霊? 不思議な世界なのですが、かわいらしく素朴ながらデザインとしても目を惹くような魅力がにじみ出ています
『イヌイットの壁かけ展 極北の暮らしと手仕事』というタイトルに添えられた絵柄は、胸がキュンとするほど、なんともいえず、やさしくて、素敵で。素朴と洗練、両方が同居する絶妙な美しさ。
「わ! 見たい!」と思って、そのまま、会場のノエビア銀座ギャラリーに吸い込まれました。
中に展示されていたのはカナダのイヌイットの人たちによる、手仕事で作られた8点の壁かけと人形。たとえばこの壁かけには、刺し子のような縫い方を生かした手法と、スッキリ図案化されたようなアップリケの、色といい形といい、なんともいえない美しさと楽しさがあります。
丁寧なステッチは、毛皮などを縫う仕事で長く使われてきたものが多いよう。モチーフや手法を問わず、どの線も、形も、表情豊かなのは、自然を観察してきた目と手のなせる技? と、いちいち驚いてしまいます
会場内の撮影はNGなので、お見せできないのが残念ですが、外側からの写真は許可をいただきましたので、チラ見せ。ご覧の通りコンパクトな展示ながら、ワタシの受けたインパクトは大!でした
北の自然にずっとずっと向き合い、その中で生きてきた人たちの手による、はるか幾世代にもわたりすべてを見てきたからこその暮らしを映し出す絵柄を見ていると、心がその地に飛んでいくような気持ちに。
今回の展示の一部作品の収集者として、長年イヌイット・アートを収集してきた日本人女性、岩崎昌子さんという方の存在を知りました。1970年にカナダに移住された岩崎さんは、カナダに行ってまもなくイヌイット・アートに出会い、その虜になって、壁かけも100点以上収集してきたそうです(下記著書より)。日本でも過去何回も大小の展覧会をされていたんですね。さぞや話題になっていたと思うのに、これまで知らなかったのが不覚! 残念!と思うくらいですが、そのコレクションの一部に、ここで出会えてよかったです。
岩崎さんは、壁かけのコレクションを紹介する本も出されているのですが、今は売り切れのため書店さんで手にすることは難しく、古書店さんからオンラインで購入。じっくり見ているとまた、さらにさまざまな作り手の個性や世界の広がりが見えてきて、味わい深いです。
この鮮やかさ、可愛らしさ、味わい深さ。開くとしばし見入ってしまいます。こちらは2000年に暮しの手帖社から発売された初版に新しい作品も加えて「愛蔵版」として2017年に刊行されたもの。『愛蔵版 イヌイットの壁かけ 氷原のくらしと布絵』/誠文堂新光社(現在売り切れ)
カナダの最北端に住む先住民であるイヌイットの方々が、自然の中で生き抜くために毛皮などで作ってきた上着「パーカ」などを作るときの伝統的な縫い方や手法を生かして作られている壁かけの中には、生活が近代化する中で、パーカの素材に使われるようになったダッフル生地のあまり布をカットして使っているものがあるそう。ビビッドな色を生かした壁掛けにはそうした素材との出会いもあったのかもしれませんね。
岩崎さんのコレクションの一部は現在、網走市にある北海道立北方民族博物館に寄贈されているそう。実はワタシ、こちらの博物館ができたばかりの90年代初めに網走を訪れる機会があり、博物館も訪ねたことがあるのです。そのころはまだ、岩崎さんのコレクションはありませんでしたが、こちらで拝見したものが心に残っていたため、その後訪れたカナダのバンクーバーや、極東ロシアのサハリン、ハバロフスクなどで北の先住民族文化を見ると、自然観や暮らしに共通するものを感じてワクワクするものを感じていたのでした。
世界はつながっていて、文化も共通する。ちょっと心がザワザワするときでも、あらためて色々な国と人の暮らしに思いを馳せることはどこにいてもできるんだな、と感じられた今回の展示は、今月半ばまで。銀座に行かれる機会があったらぜひ覗いてみられると、心のなかに「極北のくらし」への窓が新たに開かれるんじゃないかな、と思います。
ノエビア銀座ギャラリーにて 午前9時~午後5時30分 ~3月18日(金)まで。