最近チラホラと聞かれる「同意」という言葉、ご存知ですか?
実は不肖ワタクシが担当して6月に刊行した本は『こんにちは!同意』という本。一昨年の秋に担当して刊行した本も『子どもを守る言葉「同意」って何?』。いずれも「同意」をテーマにしていて、おかげさまで2冊とも大変好評です!
どちらもカラフルなビジュアルが楽しい本たちです(クレジットは文末をご参照ください)
でも、「その『同意』って何のこと?」「何で注目されてるの?」と、ピンと来ない人も多いかも。
「同意」は、近年新たな意味を持ってフォーカスされている言葉。話題なのは「人間関係」や「性犯罪被害/加害」などの、微妙さの整理に役立つからじゃないかなー、とワタシは思っています。
上記の2冊も、それぞれに人間関係の基本を紹介しつつ、性的な被害や加害を防いだり、安心できる関係を築くための知恵や方法にも触れているところが評価されているよう。そう、「同意」って知っておくと役に立つものなんです!
ワタシも「同意」という言葉を知る前は、ずーっとモヤモヤ気になっていることがありました。例えば「酔って意識不明の被害者に性的暴行を行い逮捕」などといった記事に、こんな反論をよく見かけるからです。
(今どきはニュースサイトやS N Sにコメントとしてぶら下がっていることも)
「酔っ払ってる時点で相手もその気でしょ? 何が問題? 訴えるほうがおかしくね?」
……え? ぜい弱な状態につけ込んだ、卑怯な犯罪としか思えないけど?
と画面に言い返しつつも、コメントのように考える人がそこそこいるのかと思うと「これじゃ、おちおち飲みにも行けない」と、なりそうで、モヤモヤ。
そういえば、昔から「スクリュー・ドライバーを飲ませたがるヤツは怪しい」とかって言われてたっけ。そんな手が長年まかり通ってきたのも「酔った私も悪かった」とか、「世間」に思わされてきたからかも…?
でも、被害にあった側が自己責任論で非難されるなんてひどくない? なんで加害する側でなく、狙われる側が不自由な思いをさせられるのかな? などとモヤモヤ、プンプンしてきたのです。
お茶を例えに、いろんな場面の「同意」が示される3分足らずの動画が世界中で大反響に!
でも、そんなモヤモヤが数年前に解消しました。それは、たまたま流れてきたSNSで見た動画のおかげです。
Tea Consent というタイトルのこちらの動画がそれ。文章はイギリス人のブロガー、エメリン・メイさんが書いているので「紅茶」の例えが効いています ©︎Blue Seat Studios *自動字幕から日本語を選択できます
初めて見たのはTwitterの動画で、ちい〜さなスマホ画面でしたが、もー目からウロコ&爆笑! で、膝を100万回打つほど納得しまくり! 世界中で大反響、というのも納得です。
ここでは「あること」を「お茶(紅茶)」にたとえています。
〈誰かに紅茶を入れてあげるとします。あなたが「紅茶はいかが?」ときいて…〉から始まるこの動画、展開が秀逸です。
(説明を続けますが、できれば、まずは一度、動画を見てください。たった2分49秒です!)
後半になると、どこかで聞いたような例が出てきます。
ベッドで眠っている人にお茶を入れて飲ませようとするもう一人の人の絵。
「もし、相手に意識がない時にはお茶を入れてはダメです」「寝てる相手の喉に無理やり流し込んではいけません」
そして、こう結びます。
「紅茶を飲みたくない人に無理やり飲ませることがどれほど馬鹿げたことかが理解でき(るなら・中略)…セックスだって同じです。」
普段はできていることが「性的なこと」になると難しいのはなぜ?
性別のない棒人形の絵でユーモアたっぷりに展開するこの動画。これを観て初めてワタシは「同意」(=CONSENT)と言う言葉の、この意味での使い方を知りました。
ここでは、誰かと一緒に何かをしたいと思ったら、アクションを起こすほうが、相手に向かって、「〜しない?」「〜してもいい?」と聞いて得る承諾が「同意」。同意が得られなければ、アクションは中止です。
日常でも、そういうことって、いっぱいあります。
「荷物持つよ」「髪の毛に触ってもいい?」「エンピツ貸して」などと聞いてからアクションを起こすのは、誰でも自然にしてること。
「荷物持つよ」と言わないで荷物をもぎ取れば、奪っていくのかと間違えられそうだし、突然髪の毛(であれなんであれ身体の一部)に触ったら「ギャー」と言われても仕方ない。エンピツ1本だって、人のものを使うときは、その人に許可を得ます。
『こんにちは!同意』の文中では、同意をTシャツの貸し借りに例えて説明しています
でも、それが急に難しくなるのが「性的」な場面。
性的な接触を始めたい方が、相手に対して「同意」を確認することは、本来とてもとても大事なはず。だって、イヤな時やイヤな相手に、身体に触られたり侵襲されたりするのは、ものすごく恐ろしいことだから。
それなのに、
「そういう時は(とくに女性は)ハッキリ意思を言わないものだ=だから勝手にO Kと判断していい」とか、
「酔って意識を失うなどの無理な展開でも『容易に触れる状況』に持ち込めたら『受け入れた』も同じ」とかナンとか?
誤った思いこみが今もまだまだ残っているかも、と思われる節もあります。そのズレの間で「加害」や「被害」が起きているのでは? という懸念も。
でも「これは人を傷つける『アウトな行為』」で、普通はできないはずだよね!とこの動画を見ればすぐわかる。そのシンプルさに感動したわけです。
簡単にまとめるのは難しいけれど、
「どんな時でもちゃんとお互いの同意を確認しようよ、そのほうが関係がうまく行くし、相手を傷つけず、自分も間違ったことをしでかさないよ。」
「同意を求められても、嫌なら嫌って言っていい。自分のことは自分で決めるものだから。言葉で言えない時も、明確な『O K』を示さない場合、相手は『アクションをやめる』べきなんだ」
などというのが、この動画と2冊の同意の本を通じて、ワタシが受け止めた「同意」のイメージです。(*まだまだ勉強中での理解の範疇ですが)
「同意」の前提には、お互いの「人格」や「権利」を等しく尊重し合うことが必須だと感じました。
子どもむけの動画も合わせて、まずは見ることから「同意」を知っておきたい。大人も知らなかったことだから!
ちなみに、この動画のアニメ担当者が、後に「子どもの頃から同意や、自分や相手のこころとからだの権利の大切さを知っておいてほしい」、と思って作った動画もこちらにご紹介しましょう。より「自分を守る」ほうに、フォーカスされています。
こちらの Consent for Kids も3分足らずの短い動画です。©︎Blue Seat Studios 子ども用に吹き替えたバージョンも。函館性暴力防止対策協議会さんが作成して公開されています
人によって、されていいこと/嫌なことがあると教えてくれたり、ことわり方の例を示すパートも
これらの動画の作者レイチェルさん(米在住)は、担当した2冊のうちの1冊、『子どもを守る言葉「同意」って何?』の作者でもあります。翻訳は、『ワンダー』などの訳でもお馴染みの、中井はるのさん。子ども向け動画を、より詳しくユーモラスにふくらませた本。身近な人との距離の取り方や、自分の心とからだの守り方がわかりやすく紹介されているので、大人からも「自分が読んで救われた」という声が届いています。
もう1冊のティーン向けの本『こんにちは!同意』は、オーストラリアから。ポッドキャストなどで人気のM Cユミさんと、彼女が長年敬愛してきた医師メリッサさんのふたりが「今、若い人たちに絶対に緊急に必要なこと」として書いた本です。翻訳は、フェミニストで「フラワーデモ」の呼びかけ人でもある北原みのりさん。より具体的に、性的同意も含めて説明する本ですが、ちゃんとパートを分けてあります。こちらも「日本では大人も習ってこなかったこと」がいっぱい!
とは言え、まずは「お茶と同意」の動画を見て、笑って、「同意」について知ってもらえたらなー、と思います。
さて、そろそろワタシも、お茶を入れようかな?
●子どもを守る言葉「同意」って何? Yes,Noは自分が決める
レイチェル・ブライアン作・画 中井はるの訳 集英社 1780円
●こんにちは!同意 誰かと親密になる前に知っておきたい大切なこと
ユミ・スタインズ、メリッサ・カン著 ジェニー・レイサム画 北原みのり訳 集英社 1980円