数か月前にマレーシアへ旅した時のこと。クアラルンプール滞在中にハイブランドが集まるショッピングビルをのぞくと、日本の百貨店と同様に1Fはコスメカウンターが大賑わい。各ビューティブランドの顔として、K-POPを始めとする男性スターのビジュアルが多くの店頭を飾っていたのが印象的でした。メイクを楽しむ男性が東南アジアでもどんどん増えてるんですね。
日本ももちろん美容感度の高い男子が急増中。メイク男子が当たり前の存在になっていますが、彼らのビジュアルを見るたびに沢田研二さん、いえジュリーのすごさを思うのです。
妖艶な美しさ、とびきりおしゃれなコスチューム、そして圧倒的な歌唱力。
いやあ、今見てもジュリーはかっこよすぎ! そしてメイクが似合いすぎ!
と、偉そうに書いていますが、50代前半の私がリアルタイムで『勝手にしやがれ』や『TOKIO』を聞いていた時は、まだジュリーのかっこよさを理解できないお子ちゃまだったため、“テレビに出ている奇抜な格好の人”という認識でした。
その存在の偉大さに気づいたのはだいぶ大人になってからです。「あれ? ジュリーってめっちゃええやん」とDVD『沢田研二in夜のヒットスタジオ』まで購入して昔の映像を時々堪能していたわけですが、私のようにカラオケの映像で、YouTubeで、大人になってからジュリーの魅力を再発見した人も多いのではないでしょうか。
そんな皆様におすすめしたい一冊が、『ジュリーがいた 沢田研二、56年の光芒』です。
評伝の名手、島﨑今日子さん(『安井かずみがいた時代』『森瑤子の帽子』も名著!)が60人超に取材をして“沢田研二”をひもといた今作。ザ・タイガース時代から令和の現在まで追っていますが、メインとなるのは‘70年代です。ちなみにザ・タイガースの解散が1971年、『時の過ぎゆくままに』1975年、『勝手にしやがれ』1977年、『カサブランカ・ダンディ』1979年。’70年代は名曲だらけ!
ジュリーが唯一無二のスターである理由
エンターテイナーとしても、ひとりの男としても非常に魅力的かつ刺激的なエピソードが次から次へと繰り出されるのですが、何よりも時代を創った人たち(ご本人はもちろんのこと、沢田研二という存在を作ったクリエーターやスタッフたち)の熱量に酔わされます。様々な証言から感じるのは、「新しいことをやってやろう」「本物を見せてやろう」という心意気。
誰もがひれ伏す沢田さんの才能とセンス、そして関わった多くの人が惚れこむまっすぐな人柄。さらに時代の最先端にいたクリエーター&スタッフの熱い想いが加わって……。読み終えた時には、ジュリーが決して色あせない理由が見えてきます。
本書によれば、沢田さん自身は楽しむためにメイクをしたわけではなく、プロのエンターテイナーとしてメイクすることも受け入れた、ということのよう。あの美しさと色気は “スターとして生きる覚悟”があったからこそ生まれたものなのでしょう。時代を超えて輝く唯一無二のスターの物語に、この夏思いをはせてみてはいかが?
『ジュリーがいた 沢田研二、56年の光芒』 ¥1980 島﨑今日子・著 文藝春秋