街でこのポスターを見かけるたびに「行かなきゃ!」と思っていました。
イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル
国立新美術館で、12月11日(月)まで開催中です。
「彼の服はとてもモダンだった。私が若かった頃からね」
「彼はショーで歩いている服をそのまま街で歩ける服にしたの。さまざまな束縛を取り払ってね」
これは今回の大回顧展のPR番組で、おそらく80代とおぼしき欧米人女性が語っていた言葉。そう、イヴ・サンローランといえば「モードの帝王」、OurAge世代の憧れブランドのひとつですよね。
彼の輝かしいプロフィールは、今さら語るまでもないでしょう。19歳でファッションブランド「ディオール」に就職。1957年、ディオール氏の死去にともない、なんと21歳の若さでディオールの主任デザイナーに就任。25歳で自分のブランド「イヴ・サンローラン」を立ち上げ、その4年後には早くもプレタポルテラインの「イヴ・サンローラン リヴ・ゴーシュ」を創設。以来、世界中を魅了し続け、40年以上の長きにわたって、モードの最先端で活躍しました。
というわけで、行ってきました!
平日というのに、かなりの賑わい。しかも来館者もみなファッショナブル!おしゃれ大好きな20代の友だち同士、和服のマダムたち、おそらく30代と70代と思われる母娘(二人ともスタイリッシュ!)、外国人の姿も、カップルも目立ちます。
インタビュー動画を観ていたら、隣につえをついた70代くらいのマダムが。ほっそりした体にぴったり合った、しなやかなライダースジャケット、ポルカドットのロングスカート、ハンチング帽。あまりに素敵なので声をかけたら「このジャケットはフランスの友人が送ってくれた子供の古着なの。服ってたいてい、自分で作っちゃうの」と、こともなげに答えて、さっそうと去っていきました。
大回顧展では彼の人生をたどりながら、そのクリエーションや多岐にわたる才能を存分に見ることができます。幼い頃から絵がとても上手、16歳で母親のファッション誌を切り抜いて作った「紙のクチュールメゾン」の緻密さには舌を巻きます。ディオールで働いていた21歳の頃には、同僚をモデルにした「おてんばルル」という漫画を描き、後にフランソワーズ・サガンのすすめで、出版もされました。その才能はデザインの下絵にもおおいに発揮されています。
そして、素晴らしいドレスの数々!ぜひ足を運んでご自分の目で確認ください。ここで、撮影OKだったドレスをいくつかご紹介しますね。
なんといってもアイコニックなカクテル・ドレス!上はピート・モンドリアン、下はセルジュ・ポリアコフへのオマージュだそう。本当にモダン、一切の無駄をそぎ落として、限りなくスタイリッシュです。
≪アイリス≫イヴニング・アンサンブルのジャケット フィンセント・ファン・ゴッホへのオマージュ
イヴニング・アンサンブルのジャケット ピエール・ボナールへのオマージュ
ウェディング・ガウン ジョルジュ・ブラックへのオマージュ 舞台衣装のようですね!
イヴニング・アンサンブル ジョルジュ・ブラックへのオマージュ
カクテル・ドレス ポップアートへのオマージュ
その他にも見ごたえあるドレスがたくさん! 一切の装飾がない、中世風の黒ベルベットのドレスがあるかと思うと、極楽鳥やダチョウの羽を使った派手ーな舞台衣装に目を奪われ、カトリーヌ・ドヌーブが映画「昼顔」で着た禁欲的な白襟の黒ワンピースに「逆にエロい…」と思っていると、ロシアのマトリョーシュカのようなユーモアあふれるウェディング・ガウンが登場し…彼の才能の豊かさには、本当に驚かされます。
そしてクチュール感あるドレスだけでなく、今も定番として誰もが手にする服に、スタイルを吹き込んだのがイヴ・サンローラン最大の功績でしょう。トレンチコート、ピーコート、パンツルック、タキシードスタイル、ジャンプスーツ、サファリルック…今ではごく当たり前に街で見かけるスタイルも、彼が取り上げなければ、私たちは着られなかったかも。こんな服、着ていいの!?って当時は思われていたそうです。そんな時代に「自分の好きな服を着ていいんだよ」と、女性たちの背中を押したのがイヴ・サンローラン。彼にはこんな名言があります。
「ファッションは女性を美しくするだけのものではない。女性に自信と安心を与えるものだ」
帰り道の地下鉄、隣に座った女性は素敵なジャンプスーツを着ていました。降りた駅のホームを、トレンチコートの裾をひるがえして、若い女性が急ぎ足で歩いていきました。