睡眠時間を取るか感動を取るか。パリオリンピックが始まり、体の健康と心の健康、どちらを優先すべきか悩んでいるライブ大好き編集者です。
特にスケートボード男子ストリート、堀米雄斗君の劇的な逆転優勝はオンタイムで見ればよかったと後悔・・。近頃はタイパ重視でネタバレ歓迎という若者が多いそうですが、やっぱり驚きや感動が断然違いますよね。
ドラマチックなアスリートの人生
この先も気になる競技が目白押しですが、私がぜひ応援したいと思っているのが陸上3000m障害の三浦龍司選手です。
『ワイドナショー』で注目の選手として取材されていたのを見たところ、「島根県浜田市出身、自然豊かな環境の中で子供の頃から走り回っていたため足腰が鍛えられ・・」と、どこかで読んだようなエピソードが!
それがこちら。池井戸潤さんの『俺たちの箱根駅伝』です。
主人公のチームメンバーの一人が、青森県にある浅虫(あさむし)温泉の出身で、子どもの頃から走るのが好きで、「自然との向き合い方を身につけてきた」「大抵の悪コンディションは得意とするところ」というキャラクターだったのです。
(後で知ったのですが、三浦選手は順天堂大学で4年間、毎年箱根駅伝に出場していたんですね)
『俺たちの箱根駅伝』をかいつまんでご紹介
小説の主人公は、かつての強豪校・明誠学院大学陸上競技部の主将で4年生の青葉隼斗(はやと)。
箱根駅伝の予選会で惜敗し、敗退した大学から個人タイムの良い者を集めた関東学生連合チームに参加することになります。
どんなに頑張っても公式記録には残らない、いわば「寄せ集め」のチームです。
監督は、明誠学院大学の全盛期に1年の時から箱根を4度走った伝説のランナー・甲斐真人。大学卒業後は一流商社に就職し、陸上競技からは一切足を洗っているため、指導者としての実績はゼロ。
高い目標を掲げる監督を馬鹿にし、やる気を見せない選手もいる中、彼らはどこまで戦えるのか?
そんなアスリートたちの物語と並行して描かれるのが、箱根駅伝を生中継するテレビ局のインサイドストーリー。
スポーツ局と編成局の対立や社内政治といった内容は池井戸さんが得意とするところですし、面白くならないわけがありません。
ちなみに100年の歴史を持つ箱根駅伝の、生中継が始まったのは1987年のこと。今やお正月2日、3日のビッグコンテンツとなった番組の歴史や苦労など、興味深い話もいっぱい。
実況アナウンサーに求められるものは何か? 天候に大きく左右される状況で、どんな困難が待っているのか? 選手や大学への事前取材や、魅力的な映像を撮るためにカメラの設置場所を探して交渉することなどなど・・。
私が一番驚いたのは、この番組のために1000人のスタッフが関わっているということでした。
「本作品はフィクションであり、実在の場所、団体、個人等とは一切関係ありません」と書かれていますが、大日テレビは日本テレビだと思って読んでしまいます。
架空の大学名と、青山学院大学や早稲田、駒澤といった実在する大学が入り混じって登場するのもイメージが湧いて面白い。
上下巻とも目次のあと2ページに渡って、往路1区から復路10区までの中継所(タスキが渡される場所)や見どころとなる地名が記された「東京箱根間往復大学駅伝競走コース図」が掲載されています。
地図だけでなく、それぞれの区間の距離や標高の変化がわかるグラフもついているという親切さ。
これまで、なんとなくテレビはつけていても、真剣に箱根駅伝を見たことがなかった私ですが、2025年はこのコース図を片手に、選手はもちろん、駅伝に関わるさまざまな人を想像しながら観戦したいと思います。
・・なんて「にわか」な興味を抱いたら、2024年は駅伝100周年記念の特別ルールで学生連合チームは編成されておらず、このまま廃止かもとの噂。
え~!? 結論はまだ出ていないようですが、ぜひとも復活してほしいものです。
きっかけは稲垣吾郎さんと池井戸潤さんの対談でした
実はこの作品、存在は知りつつ「上下巻(合わせて704ページ!)はちょっと長いかなぁ」と、しばらくスルーしていました。が、『週刊文春WOMAN』で稲垣吾郎さんと池井戸さんの対談を読み、がぜん興味が湧いて手に取ることに。
やっぱりプロモーションは大事ですね(笑)。
「下巻は読みながらずっと、泣きっぱなしでした」という吾郎ちゃんほどの感性は私にはなかったのですが、グッとくるシーンはたくさん。
臨場感あふれる駅伝コースの描写と、監督や選手一人一人のバックグラウンドが重なり、仲間やスポーツの素晴らしさに感動し・・。
吾郎ちゃんの「読み始めたら止まりませんでした」という言葉には、激しく同意した次第です。