アルツハイマー病を早期発見できる検査って?
「こないだ、認知症の専門クリニックに行ってMRIを撮ってもらったら、『お酒を飲んでる人の脳ですね、前頭葉に委縮があります』と言われたんですよー! やっぱりね、とは思ったんですけど」
お仕事の打合せをしていたら、そんな刺激的な話が飛び出してきました。
「え? 脳のMRIなら人間ドックで撮ってるけど」
「いやー、人間ドックのとか、いわゆる一般的な脳ドックのとかとは、解析の方法が全く違って細かいんです。認知症の専門医が詳しく見てくれて、酒をがっつり飲んでいると前頭葉が委縮するので、それが画像ではっきり見られるのです」
なに~! お酒。飲んでますとも、1食でワイン1本くらいは普通に。
ド忘れも出てきたし、こないだも会議日時間違えて大ショック! 申し訳ないことをしでかしたので、これは行ってみよう~と調べてみました。
今、日本の脳ドックはMRI検査が中心で、脳動脈瘤とか、血管性認知症の発見には有効だけれど、認知症の6割以上を占めるアルツハイマー病の早期発見には十分な検出能力はないとのこと。
む、脳ドックではアルツハイマー病の発症の元となる、25年近くかけてゆっくり溜まっていくアミロイドβがどれくらい沈着してるか、わからないとは~!!
このアミロイドβというタンパク質、神経細胞を破壊して脳の萎縮を進め、症状を引き起こしていくわけですが、認知症の初期のMCIの段階で発見されたら、最近は対症療法ではなく、アミロイドβを取り除く作用がある薬、レカネマブを処方すれば、進行を遅くできるようになったのです。
この認知症治療史上、最大に画期的な薬は、日本で2023年12月に保険適用になっています。
何かあっても早く治療出来たら、かなり進行がくい止められるということ。認知症は早期発見がいちばん! 病気の発見はすべてそうではありますが。
で、このアミロイドβが測定できる検査機関があるということで、行ってみることにしました。
東京駅の真横にあるアルツクリニック東京では、健脳ドックという認知症専門医による詳しいMRI,MRA及び、血液生化学検査、認知機能チェック、そしてアミロイドのPET検査ができるのです。
アミロイドPET検査は、去年まで60万円と高額だったけれど、今年から24万円にまで下がったそう。1度だけ保険適用になるので、2.5~7万円くらいで受けられるようになったとのこと。
それでも高いですよね。なので、まずは詳細なMRIを先に受けることに。これは4000~13000円程度です。
まず最初に血液検査で採血してから、11の質問に答えます。
MMSEという物忘れ等の検査で、日常の中での記憶のレベルを診ます。
私は曜日を間違えたので満点にはならず。あとは、前に言われた言葉の復唱、簡単計算、図形問題など。
その後、MRIの検査です。
先生と話していたら、自分の脳が今どんな状態なのか知りたくなり、高額なので迷ったけれど、やっぱりPETも受けてみようと、清水の舞台から飛び降りる気持ちで決意して笑、後日を予約、行ってきました。
結果を聞きに、アポイントを取って、アルツクリニック東京の新井平伊先生のもとへ。
MRIで見つかった白い影は何?
最初にMRIのデータで、張り巡らされた血管を、画像を回転させながら360°チェックしていきます。
上下左右斜めくるくる回転をさせて、いろんな角度から見るので、動脈瘤などもあれば発見できます。動脈硬化の状態もチェック。
「血管は丈夫ですねー」
人間ドックのMRIとはくらべものにならないくらい、きれいで鮮明。
次に画像。
「あー、お酒飲んでますねえ。前頭葉がうっすら白くなっていて、わずかにですが萎縮が見られます」
お酒を飲んでる人は。前頭葉に少し萎縮が見られるのだそう。
画像を8枚くらい見せつつ、他も「海馬は大丈夫、側頭葉も大丈夫」と順に診ていきます。
「頭頂葉にわずかに黒い部分がありますね。普通はスルーされる程度のものです。でも、これがアルツハイマーで注意するポイントなんです。アルツの前々前段階なのか、お酒、寝不足、運動不足、老化、ストレスなどによるものなのか。MRIだとアルツハイマーの後半になってやっとはっきりそうだとわかるんですね。
この段階でそれがわかるのが、PETです。先の前頭葉の白い萎縮がお酒なのか、アミロイドなのか、これもPETで見ると解明できるんです。まさにMRIだけではわからない、PETを撮ってよかった典型パターンですね!」
なんとー! では、PETの結果はいかに?! ドキドキ。。。
PETでわかる、お酒飲みの脳!
これがPETの機器。MRIとどう違うか、ぱっと見わからないけれど、でも検査前に検査薬を注射するので、ちょっと緊張。
「アミロイドβの量は、全く問題ないですね。今の段階では、正常範囲の蓄積です。よかったですね」
数値的には、1以下は問題なし。1.15がボーダーの値とのこと。
ほっ。しかしでは、この物忘れは老化か。うーむ。 これはこれで対策を教わらないと…。
「PETでは、いろんなことがわかります。例えばこれ。右2枚はアルツハイマー陽性の方の脳です。この周囲からの切れ込みが鮮明でないことからわかるのです」
「真ん中の蝶のような形、これは脳室、脳脊髄液の流れているところです。
これは、大きく膨れてくるとよくない。MRIの方がこれはよくわかるけど、水頭症の疑いになります」
「それよりこれ、小脳をみてください」
な、何でしょう~~~??
「お酒飲んでますねえ~」
え?
「画像下側の逆ハートみたいなのが小脳なんですが、右があなたのです。富士山に雪が積もったみたいになっているでしょう。これ、お酒のせいなんです。
左の人には、白い部分が全然ない。肝機能が強いから飲めるので飲んでしまうのでしょう、富士山に雪がバリバリ積もっていますよ。見事です! これは飲んだ量に確実に比例するんです」
かなーり立派に積もっているらしい。あらー、なんとバレバレ…。
「積もっているからといって、症状が出るわけじゃないんです。でも脳の萎縮はしていくことが予想できますね。今わかって、ちょうどよかったじゃないですか。休肝日作ったほうがいいですね。
高コレステロール、高脂血症、高血圧などに気をつけて、WHOが出している「健康長寿のための12か条」を実践する意識が大切です」
この12か条、特に身体の健康に関わるのは、以下の3か条。
- 食生活:いろいろ食べて、やせと栄養不足を防ごう!
- お口の健康:口の健康を守り、かむ力を維持しよう!
- 体力・身体活動:筋力+歩行力で、生活体力をキープしよう!
「お酒に関していえば、いちばんよくないのは、弱い人がつきあいで無理に飲んで、肝臓に負担かけることです。
ともあれ、強くても、やはりめりはりをつけて、やばいと思ったら調整することですね」
血液検査は、いつものごとく、コレステロールは高め。でも善玉コレステロールが高いので大丈夫。認知症にかかわる、ビタミンB12 葉酸は正常なのでよし、とのこと。
にしても、脳の萎縮、特に前頭葉の萎縮を食い止めないとですよね?
最近、脳トレの本とか、いろいろ出てますけど、どういうことをしたらいいんでしょうか?
「前頭葉を刺激するには、やりがい、意欲がポイントなんです。
脳の活性化についていえば、ドリルは例えば、数式ドリルだとすると、脳の同じところだけ使うわけです。注意力は養えるけれど、でもそれほど楽しくないし、認知症の予防にはならないんです。
それよりは麻雀やトランプだと、相手がいて常にいろんな戦略を考えるからいいんですよ。
ま、あなたの場合はお酒の影響がいちばん。物忘れとか気づいたら、ちょっと注意すべし、ですね」
は、はい~~!
ちなみに、2023年末に保険適用になったと先に書いた、アミロイドβを取り除く作用がある薬レカネマブは、半年でアミロイドβをかなり減らせるそう。
「1年半で多くの人が-60%減ったという平均データがあるんです」
神経細胞が死んでいくと、委縮が加速していってしまうので、
「火事が広がらないうちに火元を消そう」
という意味では、気になる人は一度検査をしてみるのもいいかもしれませんね。
PET写真協力/アルツクリニック東京