「3大バレエ」といえば「白鳥の湖」「眠れる森の美女」、そして「くるみ割り人形」。花のワルツ、金平糖の踊り、トレパック、葦笛の踊り…チャイコフスキーの名曲オンパレード。今でもCMなど、いろいろなシーンで使われ、誰もが知っている曲の数々といっても過言ではありませんよね。
ではどんなストーリーか、ご存じでしょうか?「ああ、知ってる知ってる。クリスマスの夜、少女クララがくるみ割り人形をもらって、深夜ネズミの軍隊と闘うくるみ割り人形を助けたら、王子様になってお菓子の国へ連れて行ってくれるのよね。子ども向けの楽しいお話」…ざっくりそんな感じですよね。私もそう思っていました。
でもとても“子ども向け”だけでくくれる話ではなかった。ウィキペディアによれば、初演は1892年。つまり130年以上演じられ、愛され続けているクラシック。特に音楽。全幕通して聴いてみると、これがスゴい!聴きごたえたっぷりなのです。
聴き始めると他のバージョンも聴いてみたくなり…いろいろ集めてしまいました。下の左は演奏・ベルリンフィル、指揮者は名匠サイモン・ラトル。彼をして「『くるみ割り人形』は、まさに音楽の偉大な奇跡の一つです」と言わしめています。
なぜ全幕通して聴こうという気になったのか…実は「くるみ割り人形」の全幕公演に出演するチャンスをもらえたからです。
TNballet第10回発表会「くるみ割り人形」全幕
明日、11月29日(金)、会場は大井町きゅりあん大ホールで17:30開演です。当日券もありますので、お近くの方はぜひお越しください。
TNballet主宰:富永典子さん。
ボリショイバレエ学校教師に師事。スロベニア国立劇場に所属した際は「卒業記念舞踏会」「ジゼル」「スパルタカス」「ドンキホーテ」等のレパートリーを踊る。2012年よりTNballetスタジオを主宰。日本バレエ協会会員。厳しくも暖かい、私たちの師匠です。
2幕の公演、そしてオーケストラの生演奏。最初この話を聞いたときは、興奮しました。全幕かつオーケストラの演奏なんて、プロの舞台でしか見たことありません。それに出演していいのですか、この素人かつド下手な私が!…いや、待て。こんなチャンスがなければ、絶対立てない舞台だぞ。下手でもいいからやってみよう!
レッスンやリハーサルを重ねながら、このバレエの楽しさに魅了されていきました。知らなかった名曲もたくさん!たとえば1幕、クリスマスパーティに招待された家族たちが、雪の夜道をさんざめきながら歩いていくシーン。うれしくて踊りだす少女たち、興奮して雪合戦を始めてしまう少年たち。そんな冬のワクワクする情景を、メロディアスかつ軽快な音楽で表現します。
そして1幕のクライマックス、「雪片のワルツ」。バレエも大人数が見事なフォーメーションで踊る、1幕最大の見どころです。音楽は最初はチラチラと降るロマンティックな雪の情景からスタート。雪景色の幻想的な美しさを表現しながら、だんだんスピードアップし、激しい音になっていきます。どんどん吹雪になっていく感じというか…さっきまで可憐に見えた雪の精が、勢いを増し怖ろしい存在になって襲いかかってくるような…その盛り上げ感はメタルロックより過激なくらい。
2幕の楽しさは言わずもがな。スペイン、アラビア、ロシア、フランス…各国の個性を存分に発揮した曲の数々は、音楽も踊りも文句なし!親しみやすいけどとても洗練されています。100年以上愛され続けるのも納得、です。
主役の少女・マーシャを演じる真木奏音(まき かのん)ちゃん。ちなみに少女の名前はクララ、マリー、マーシャと、バージョンによって違うこともあるそう。マーシャに加えて、雪片のワルツなど3つの役を演じる奏音ちゃんは、毎日毎日レッスンを頑張っています。彼女だけでなく、小学校高学年から中学生の少女たちが、くる日もくる日もレッスンを重ねて磨き上げた「葦笛の踊り」をぜひ見てほしい!
子供向けの楽しい作品「くるみ割り人形」…それだけなら、こんなに長く演じられ、愛され続けることもなかったでしょう。洗練された美しい音楽、工夫を凝らした演出、優美かつダイナミックな踊り。100年という時間の中でもっと楽しく、もっと素敵にという努力を多くのアーティストが重ねて今に至っているのではないでしょうか。
それだけの魅力と奥深さのある舞台、全幕で体験してないなんて…ちょっと損してる、かもしれませんよ。