OurAgeの人気の旅連載「世界中からいただき!美&元気のモト」を執筆していただいているのは、トラベルライターの小野アムスデン道子さん。アメリカ人男性と結婚され、ポートランドと東京を行ったり来たりしながら旅に関する情報を発信しています。
小野アムスデン道子さん/トラベルライター
世界有数のトラベルガイドブック「ロンリープラネット日本語版」の編集を経て、旅の楽しみ方を中心としたフリーランス・ライターへ。旅と食や文化、アートなどライフスタイルについての執筆や編集、翻訳多数。日本旅行作家協会会員。
トラベルライターって楽しそう。ちょっと憧れますよね。小野さんに今のキャリアを築くまでをお聞きすると、楽しいばかりではない、かなりの努力家であることがわかりました。
編集長として邁進した若い頃
最初のキャリアはリクルート。27歳で住宅情報誌の編集長に抜擢されます。
「私は関西出身で、大阪のリクルートに11年。現在のSUUMOの前身である住宅情報事業部で、関西版の編集長をしていました。不動産業界の人たちと仕事をするので宅建も取得し、不動産を極めた時期ですね」
その後、東京に異動になり、『月刊HOUSING』という建築や設計などをメインとした雑誌の編集長に就任。その後、不動産と建築業界のキャリアを買われ、モデルルームを作るグループ会社のマネージャーとして請われ、編集の仕事とは一旦離れることに。
「その部署では、インテリアコーディネーターの資格がないとお客さまと対等に話ができないんです。編集とは業種が違いますし、勉強あるのみ。建築や法規、壁紙などの素材などを学び、一次試験を通過したら次は実技、論文に進んで、1年で資格を取得しました。そして、そのタイミングで妊娠。現場に立ちながら、出産予定日の1か月前まで働き、あのときは大変でしたね(笑)」
与えられた場所で全力投球する小野さんですが、やっぱり編集が好き。当時リクルートの出版部門だったメディアファクトリーに異動が叶い、人生のキーとなる仕事に出会いました。
ロンリープラネット日本版立ち上げ
「オーストラリアの出版社が出している、650タイトルを超える旅行ガイドブック『ロンリープラネット』の日本版を出すことになり『小野さん、旦那さんアメリカ人だから英語できるよね』という理由で、ロンリープラネット日本版の編集を任されることになったのです。編集といっても、基本は英語版を翻訳し、日本人向けに編集しなおすというもの。最初のミッションは、本国との契約や交渉事を電話で話し続けることでした」
ただ翻訳をすればいいわけではない、日本版へのカスタマイズは困難を極めたといいます。
「たとえばインドやイギリス版は1000ページもあるんです。100人しかいないような小さな村の情報まで書いてあります。これは、ロンリープラネットの魅力でもあるのですが、著者が『ここはおもしろい!』と感じたら、収録されるのです。ところが、日本人の旅のスタイルって、たとえば“タージマハールを見たい、そこまでのアクセスはどうなっているのか”そういうことが知りたいわけです。旅慣れた外国人は、行った先で自分の感性に合う、面白そうなものを見つけたい。ロンリープラネットの日本版創刊は、こういった旅のスタイルを日本人の方々にも知ってほしい、というのが狙いでもあるものの、あまりにも細かいエリア情報などは日本人にはフィットしなかったんです」
当時、小野さんはロンリープラネット日本版の編集マネージャーという立場。情報量の調整などを本社オーストラリアと交渉するのに苦労しつつ、日本のマーケットで本を売ることもミッションでした。
「それで、宣伝のために旅行ノウハウのようなコラムを雑誌に掲載させていただいたり、旅行会社のパンフレットに書かせていただいたりする中で、徐々に旅コラムのお仕事をいただくようになったんです。40歳過ぎの頃かな。ロンリープラネットは結局日本から撤退することになり、私もフリーランスとして独立することに。
プレス向けの取材ツアーに声をかけてもらったことがきっかけでいろいろな媒体の編集者と知り合い、記事を書かせていただくようになりました」
タッチ&ゴーで各国を飛び回る裏には……
ポートランドに移住したのは、娘さんが高校生になるタイミング。夫の母校に入学することになったのだそうです。
「移住といっても、私は日本で仕事があるので1か月おきにアメリカ、日本と行ったり来たりしています。たとえばアジアに取材があるときは、日本から行った方が断然近いわけです。自分の移動ルートを考えながら、無駄がないように取材を組み込んでいく日々ですね。先日も、ポートランドから日本に到着してすぐにタイ取材、台湾取材があり、一旦東京に戻ってから次はシンガポールのThe World’s 50 Best Restaurantsの授賞式に出席しました」
小野さんは小さなノートを見せてくれました。びっしりと文字が書かれた取材メモでした。旅は非日常で楽しいもの。そのエッセンスを切り取って、記事にするのがトラベルライターの仕事です。でも、その記事を作る裏には、緻密なスケジューリングと手配、現場について調べ、間違いのないように取材する。そしてできるだけ魅力的に見えるように、自分で写真も撮り、編集もする。小野さんのバイタリティには驚かされます。
「各国を行ったり来たりして、さらに取材をして原稿を書くというのは確かに疲れますが、私が楽しくないと、その旅の楽しさを皆さんにお伝えすることができません。だから基本的に取材旅行も楽しむのですが、疲れないコツは現地に着いたらまずプールで泳ぐこと。どこの国に行くときも水着は必携です。結構驚かれるのですが、ジェットラグにもならず、おすすめの方法ですよ」
手の届くラグジュアリーと、気づきのある旅を
小野さんはさまざまなメディアで旅や観光、ライフスタイルの記事を書いています。単に旅のプロセスを追って紹介するだけでなく、食や文化、経済問題などにまで内容が及ぶことも。
旅行商品を考える前提で現地チェックをしたり、現地でアーティストなどへインタビューをしたり、多岐にわたります。
「旅はいろんな要素を含むものなので、その中から読者の求めるものを引き出していくのが仕事。OurAgeでは、手の届くちょっとラグジュアリーな旅の情報をお届けしたいと思っています。旅は非日常ですから、いつもと違う自分を演出したいし、やっぱりちょっぴり贅沢したい。そんなOurAge世代の皆さんが満足していただける情報を、これからもお伝えしていきます」
そして、もうひとつ旅の記事で伝えたいことがあるそうです。それは旅からもらえる「元気のモト」。
「私が思う元気のモトというのは、旅先での気づきです。異文化はもちろんですが、たとえば異国の地で目にするサステナブルな社会や、ボランティア、あるいは人との出会いなども。自分の人生にインパクトを与える何かとの出会いは、これからの自分の財産になります。旅をすることは、そういうものとの出会いでもあると思うのです」
東京のホテルも楽しみ方いろいろあります
小野さんは都内にも自宅がありますが、東京のホテルも常にチェック。最近は、個性的でおしゃれなデザインホテルが増えてきて、ちょっとした“非日常感”を楽しむのにおすすめだといいます。
今回、撮影にご協力いただいたのは上野にオープンしたNOHGA HOTEL。小野さんのおススメの都心の隠れ家ホテルのひとつ。
「上野は文化的な街ということもあり、こちらのホテルは地元の職人さんたちとコラボレーションして館内のアートを作るなど “地元を育てる”という心意気がすばらしい。そこに惚れました」
宿泊すれば、ひと時のエスケープを楽しめるし、食事やお茶だけでもそのエッセンスが楽しめる、と小野さんは言います。
「ホテルはただ宿泊するのではなく私にとっては仕事場になることも。気持ちを切り変えるのにもいいんです」
明日からまた、各地を飛び回る旅が始まるという小野さん。次の連載記事が楽しみです。
小野さんの連載記事「世界中からいただき!美&元気のモト」はこちら
撮影/織田桂子 構成/島田ゆかり