映画『痛くない死に方』に主演、その演技力を見事に発揮した柄本佑さん。
厳しい撮影に耐え、演技に打ち込むためにも、健康は必須の条件。
かなりの凝り性、オタク気質などなど、さまざまな噂のある彼が、日々実践していることは?
(在宅医療や『痛くない死に方』について語った、インタビュー前編はコチラ)
撮影/萩庭桂太 ヘア&メイク/星野加奈子 スタイリスト/林道雄 取材・文/岡本麻佑
柄本佑さん
Profile
えもと・たすく●1986年12月16日、東京都生まれ。2003年、映画『美しい夏キリシマ』の主人公・康夫役でデビュー。2004年、同作で第77回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞、第13回日本映画批評家大賞新人賞を受賞。2018年公開の映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』『きみの鳥はうたえる』でも、多くの映画賞を受賞。現在、NHKのドラマで話題になった『心の傷を癒すということ』の劇場版や、TBS日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』にも出演中。
水と料理とボクシング
「僕は、水飲んでます。1日に3~4リットルくらい。いろいろな考え方があると思いますけど、僕がふだんから身体を診てもらっている先生に、1日に2リットル以上の水を、一度に飲むのではなく、ちょっとづつ飲むのが一番免疫力を上げると聞いたので。
ウチは500ml入りの水を大量買いしていて、玄関先に並べてあるんですね。で、家を出るときにそれを4本くらいバッグに入れて出て、10分から15分に一度、ひとくち飲むようにしてます。
一度にたくさん飲んでも、身体が吸収しきれなくておしっこになってしまうらしいんですね。あと、冷たい水もおしっこになりやすい。だから常温で、pH6.9から7.1ぐらいの軟水をちょこちょこ飲みます」
意識して水分を摂るように心がけてから、身体は快調。肌の調子も良いという。
さらに、このコロナ禍でオウチ時間が増え、料理に目覚めた人が多い中、柄本さんもそのひとりだったようで。
「やっぱり人は、何かやってないといられない。創造力を使ってないと僕はダメになっちゃうような気がして、料理に挑戦してみました。
ひと月半からふた月くらい、お昼ごはんを作ってましたね。家族も喜んでくれるし、生きている実感がある。ふだんの生活でこんなこと思わなかったけれど、コロナ禍だからこそ、自分が今ここに立っている、生きているみたいな実感が僕には必要で、料理はそのひとつでした。
土井善晴先生の本と沢村貞子先生の献立日記のレシピが僕にはぴったりでした。たとえば1週間作るとして、5日間はレシピ通りに、大さじ小さじまできっちり測って料理して、残り2日はその感覚を応用しながら自分の想像力を働かせて、オリジナルの料理を作ったりしていました」
「一番評判が良かったのは、治部煮(じぶに)ですね」と、柄本さん。映画に注ぐ情熱と同様、何かに取り組むとなったらとことん追求し、研究し、真髄を究めようとするタイプかも。
身体作りに関しては、またさらに踏み込んでいる。
「最近、ボクシングをやっていて、1年、2年弱になるのかな。健康のためというより、やっているうちに楽しくなっちゃって、やめるタイミングが見つからないという」
なぜにボクシングを?
「ウチの妻(安藤サクラさん)が(NHK大阪放送局制作の朝ドラ)『まんぷく』で1年いなかったときに、僕、ひとり暮らし痩せしたんですよ。10キロくらい減って、あるとき階段を昇ったら足腰が疲れちゃって。体重と一緒に筋力が落ちてしまって、これはマズイ、どうしようかな、と。
でもフィジカルトレーニングというのが性に合わないんです。ジムで筋トレとか、3ヶ月くらい仕事のためにやったことあるんですけど、本当につらかった。
筋トレって、トレーニングによって筋肉を損傷させて、それを回復させることのくり返しで筋肉を増やしていくじゃないですか。でも僕の場合はそのダメージが大きいのか、何もできなくなる。頭に血が回らなくて、台本を読んでも台詞が頭に入ってこないんです。向いてないんですね。
それで何かのきっかけでボクシングをやってみたら、面白いんです。頭のスポーツなんですよ。来たパンチに対して、避けるのか弾くのか後ろに下がるのか、瞬時に選択をする心理戦なんです。
パンチを打つときも、踏みだした右足の重心の移動を、そのまま腕に伝えたいんですけど、人はやっぱり不自然に力んでしまうから、力がそのまま伝わらない。いかにリラックスして、弛緩して、踏み込んだ足の力を腕に生かすか。いろいろ考えながらできるのが楽しいんです」
観察して分析して面白がって。日々の暮らしも人生も、まるで映画のように、彼は楽しんでいる。そう思えば確かに誰の人生にも、楽しいことや面白いこと、哀しいこと、いろんなことが満ち満ちているのだ。
もう一歩踏み込んで、聞いてみた。2018年に64歳の若さで亡くなった母・角替(つのがえ)和枝さんのこと。
約1年間の闘病生活を経て、最期はご自宅で亡くなられたという。今回の映画『痛くない死に方』は、柄本さんにとって他人事ではなかったはず、なのだ。
「そのことに関しては、まだ整理がついていないですね。自宅療養は父と母で決めたことですが、それが良かったのか、悪かったのか。
まわりの人は『自宅で最期を迎えられて良かったね』と言ってくれるし、そう言われると、そうなのかなと思いますけど。まだまだ客観視できていない。
いつになったらわかるんでしょうね。たぶん家族は、その結果を受け入れることしかできないと思うんです」
「でも」と、柄本さんは顔をあげた。
「偶然にも、うちの母が亡くなって次の年に、(本作で)ガン患者さんを看取る医師の役と、(ドラマ『心の傷を癒すということ』で)ガンで亡くなる精神科医の役を演じたんですね。
『心の傷~』では、ありがたいことに賞(第46回放送文化基金賞 演技賞)をいただいたりして。
何か、つながっているような気がします。『ああ、和枝ちゃんがもたらしてくれたのかな』みたいなことを、思ったりもしますね」
いろんな質問に、まっすぐにフランクに答えてくれた柄本さんに、感謝! 彼の俳優人生はこれからどんなふうに続いていくのか、ますます目が離せなくなってきた。
『痛くない死に方』
在宅医として働く河田仁(柄本佑)は、末期の肺がん患者を担当する。患者は痛みを伴いながらも延命治療をする病院ではなく、自宅で静かに死を迎えたい意向だったが、結局苦しみ続けて死んでいった。何がいけなかったのか。先輩在宅医・長野浩平(奥田瑛二)の治療現場を見て、多くを学んだ河田は2年後、やはり末期のがん患者・本多彰(宇崎竜童)を担当することになる。
2021年2月20日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
制作:G・カンパニー 配給・宣伝:渋谷プロダクション
監督・脚本:髙橋伴明 原作・医療監修:長尾和宏
出演:柄本佑 坂井真紀 余貴美子 大谷直子 宇崎竜童 奥田瑛二ほか
©『痛くない死に方』製作委員会
公式サイト:http://itakunaishinikata.com/
『けったいな町医者』
兵庫県尼崎市在住、映画『痛くない死に方』の原作者であり、奥田瑛二扮する長野浩平のモデルとなった現役医師・長尾和宏の日常を記録したドキュメンタリー映画。ナレーションを柄本佑が担当。2月19日までシネスイッチ銀座にて上映されるほか、全国にて順次公開予定。©『けったいな町医者』製作委員会