俳優という仕事は、感性だけでなく、体力を必要とするハードな仕事。
とりわけ、今回瀬戸康史さんが挑戦するミュージカル『日本の歴史』は、ひとり10役前後を演じ分け、歌って踊って楽器も演奏する、めちゃくちゃ大変な舞台なのだ。
すでに初演を経験している6人の俳優陣の中に、ニューカマーとして飛びこむ瀬戸さん。
心身ともに鍛えて参加するという、その秘策は?
(三谷幸喜さんや『日本の歴史』について語った、インタビュー前編はコチラ)
撮影/萩庭桂太 ヘア&メイク/須賀元子(星野事務所) スタイリスト/小林洋治郎(YOLKEN) 取材・文/岡本麻佑
瀬戸康史さん
Profile
せと・こうじ●1988年5月18日、福岡県生まれ。2005年デビュー。2017年に舞台『関数ドミノ』で第72回文化庁芸術祭演劇部門新人賞を受賞。近年出演のドラマに『透明なゆりかご』(18)、連続テレビ小説『まんぷく』(18~19)、『私の家政夫ナギサさん』(20)、『ルパンの娘』(19、20)、映画は『寝ても覚めても』(18)、『事故物件 恐い間取り』(20)など。舞台では河原雅彦、前川知大、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、白井晃らの演出作品に出演。三谷幸喜の舞台作品は『23階の笑い』(20)に続き2度目。10月15日には劇場版『ルパンの娘』が公開、12月には主演舞台『彼女を笑う人がいても』(作:瀬戸山美咲・演出:栗山民也)も控えている。
低酸素トレーニングで
代謝が良くなり、肌もきれいに
「僕、実は走るのがあまり好きじゃないんです。高校のときサッカーをやってましたけど、大人になってからわざわざ走る気もしなくて(笑)。
それに、筋トレしてもなかなか筋肉がつかなかったんです。でも本格的に身体作りをすることになり、専門家の指導を受けたら、『筋肉を作るには、まず食べなきゃいけない』と言われて、とにかくいっぱい食べました。その、無理して食べるのが本当にしんどかったです。体重も14キロプラスになって、筋肉もついて、それでやっと、『あぁ、ちゃんと鍛えればできるんだな』って」
ドラマ『ルパンの娘』のアクションシーンで見せたスリムでマッチョなボディは、そうやって鍛え上げたものなのだ。
また健康のために、サプリメントを摂っているようだ。
「ビタミンBとD、あと鉄分、ビタミンCですね。これまでおかげさまで病気ひとつしないできたんですけど、30歳を過ぎたぐらいから、疲れを感じることも増えてきた。若い頃は睡眠時間2~3時間でも乗り切れたのに、だんだん無理が利かなくなってきた。代謝も少し落ちてきたような気がしていたんです」
そこで始めたのが、低酸素トレーニング。
「低酸素の状態で走ったり、ヨガをしたり、トランポリンをしたりしてます。けっこう負荷がかかるけど、それなりに効果が出る。心拍数も、いったん上がってもすぐ下がるようになって、疲れるけどすぐに回復する。スタミナがついた実感があります」
マラソンなどのトップアスリートたちが高地でトレーニングするように、酸素の薄い環境で身体に負荷を与えると、換気量が増え、心拍数が増加し、呼吸筋や心臓のポンプ機能が飛躍的に伸びるのだとか。さらにエネルギーを効率良く使えるようになり、バテにくい身体になるという。
今回の『日本の歴史』出演が決まってからは、この舞台に備え、多いときには週3回トレーニングジムに通って、体力作りに励んだ。
「肌にもいいみたいです。低酸素だと不思議と汗をたくさんかくし、走るのは本当にキライなんですけど、そこで走るのはなぜかとても気持良いんですよ(笑)」
一方、メンタル面にも秘策があるようで。
「実は僕、けっこう緊張シイのあがり症なんですけど、20代前半の頃、舞台の仕事で一緒になった方から、良い方法を教えてもらったんです。
本番前、舞台袖の、あまり人の邪魔にならないところに座って、目をつむります。そしてイメージするんです。『今、目の前に小川が流れている。自分は今、笹舟を作った。不安な要素はその笹舟に乗せた。そして小川に流してしまった。もう大丈夫だ』って。
するとスッキリして、失敗しなくなる、と、信じてます。何かあったとしても、それをやっていなかったら、もっと大惨事になっていたんじゃないかと(笑)」
このコロナ禍で昨年来、稽古を重ねた舞台の企画が中止になったり延期になったり、エンタテイメントの世界は混乱の渦の中。俳優として、ストレスも多かったはずだけど。
「そうですね。でも、もともとあまり思い詰めない性質ですし、ひとりで考え込まずに、みんなに話を聞いてもらったりしながら乗り越えてきました。あと、ウチにある植物、季節の花や香りの良いハーブたちから元気をもらってます。それに僕、舞台は発散する場だと思っているので、舞台に立てれば、ストレスなんてなくなります」
撮影日は、ヒゲのあるスタイルで登場。デビュー当時は美少年と思っていた彼がいつのまにか若者になり、大人の男性になっている。ひとりの男性の成長を見守る、そんな愉しみ方ができるのは、アワエイジ世代だからこそ。
「コロナ禍のこういう状況の中で、時間とお金を使って舞台を見に来ていただけるのは、本当に幸せなことだと思います。みなさんに『楽しみにしています』って言っていただくとうれしくて、その言葉を糧にして、稽古を頑張れるんです。
前向きになれるし、ハッピーになれる、そんなミュージカルだと思いますので、ぜひ、生で見ていただけるとうれしいです!」
『日本の歴史』
卑弥呼や平清盛、織田信長など誰もが知る歴史上の偉人たちから市井の人々、テキサスの家族まで登場。長い歴史の中で繰り返される人間の営みが、キャッチーな音楽で紡がれる大河ミュージカル。
作・演出:三谷幸喜 音楽:荻野清子
出演:中井貴一 香取慎吾 新納慎也 瀬戸康史 シルビア・グラブ 宮澤エマ 秋元才加
東京公演 2021年7月6日(火)~7月18日(日)新国立劇場 中劇場
大阪公演 2021年7月23日(金・祝)~7月30日(金)梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
企画・製作:シス・カンパニー http://www.siscompany.com/mitanisaien/