[21年暮らした一軒家から新築マンションへ住み替えた柳井家。「100平米の家から70平米の家へ引っ越したので、最低でも3割はモノを減らしました。断捨離トレーナーの腕の見せ所です」]
家が散らかっていて、くつろげない。
使いたいものがすぐ見つからなくて、いつも探しものをしてばかり。
おまけに料理や掃除をするにもモノが邪魔して、家事動線が悪くてイライラ。
そんな時ついあなたがしてしまうのは、次のどれでしょうか?
A 自分を責める
「私が片づけが下手だからいけないんだ」
B 周り(家族など)を責める
「みんなが散らかすから、うちはいつも汚い」「誰も片づけを手伝ってくれない」
C 環境のせいにする
「家が狭いから」「うちは収納が少ないから片づかない」
私はふだん断捨離のセミナーを開催したり、ご相談をいただいた方のお宅へ出向いて断捨離のサポートをしていますが、見ていて一番多いのはAタイプです。
「片づけられない」と自分を責め、劣等感を抱えている方のなんと多いことか。
でも片づけって、もともと才能があるからできるとか、センスの良し悪しの問題ではなく、片づけを教えてもらわなかっただけのこと。
方法を学べば誰でもできるようになるのです。
ですから自分を責めないでください。
「あなただけが悪いのではありません」。
(そう言うと最初はみなさん、驚きますが)
[キッチンマットもシンクの三角コーナーも置かない主義。その理由は「必要性を感じないし、ないほうがすっきりするから」。ちなみにゴミ箱は上の写真右手のキャビネット下段内に収納(下の写真)]
[無印良品の『やわらかポリエチレンケース』をゴミ箱に。「汚れたと感じたら、すぐに水洗いします」]
片づけの基本、それはずばり「自分が管理できる量しかもたないこと」。
今の時代、どこのお宅もモノが多すぎるのです。
とはいってもやみくもに捨てればいいのではありません。
ではどうすればいいのか?
その方法はとってもシンプル。
「今」の「私」に必要なモノだけにするのです。
たとえば食器を例にとります。
①食器棚にはいっているモノをいったん全部取り出し、全てが見えるように並べます。
②そうしたら、ひとつひとつを手にとり、次のことを自分に聞きます。
・今の私に「必要?」or「不必要?」
・私はコレを「好き?」or「嫌い?」
・私はコレを「使いたい?」or「使いたくない?」
③「必要」、「好き」、「使いたい」と思ったモノを残します。
(判断がつかないモノはいったん「保留」とし、後ほどもう一度手にとってみる)
この3つのステップです。
でも実際にやってみると②でつまずく方が多いのです。
たとえば私が断捨離のサポートに伺ったお宅でひとつの食器を指さし「これは好きですか?嫌いですか?」とご相談者に尋ねると、「好きか嫌いか……そんなこと今まで考えたこともないので、わかりません」と戸惑われます。
ではなぜその〝好きか嫌いか考えたこともない食器〟が家にたくさんあるのでしょうか?
[現在の食器棚①:タッパーは写真に写っていないものを含め、大中小合わせて計6個。「つくりおきするのに足りないのでは?」ときいたら「作り置きはしません。そのときに食べたいものをつくるのが断捨離の考えです」。食前酒や前菜をちょこっと盛るとき用のボヘミアグラス、ふたりの娘が小学生のときに作ったグラス、ラ・ロシェールのパフェグラス、イッタラのグラスなど。「3段目の湯飲みは小石原焼で、愛媛県にある断捨離トレーナー講習生の土居香さんが経営するセレクトショップで購入しました」]
[現在の食器棚②:「食器はふだん使うものしかありません、お客様用とかはなし。ブランドにこだわることもありません」ボヘミアクリスタルやリーデルのワイングラス、ニトリで購入したガラスの小鉢、ベトナムの焼き物など気に入ったモノだけを置いている]
たとえばY子さんの場合。
理由として言ったのは
「それは亡くなった義母が生前揃えたもので、義母はもういませんが、何となくそのまま置いてあるんです」
「これは夫が海外出張のときに買ってきたカップで、使ってはいないけど、処分したら夫が怒るかもしれないからとってあるんです」
など。
つまりどれも
自分が使いたい(好きだ)と思って家に入れたモノではなく、いつのまにか家にたまってきたモノ。
嫌いとか、捨てたいとかあえて考えないようにしてきたモノ。
義理のお母さんとうまくやっていくため、あるいは夫の機嫌を損ねないため、自分の好みに目をつぶり、考えないようにしてきたのでしょう。
そして、そうこうしているうち、家にはどんどんモノが増えていった……。
でも問題はモノが増えたことだけではありません。
[吊り戸棚の中:上段右のモスグリーンの器具はタコ焼き器。「夫が大阪人なので(笑)、よく作ってくれます」。下段左端は夫の海外赴任先、ベトナムのスタッフから贈られたショットグラス、その隣は母の日に娘からもらったミントンのマグカップ。ウェッジウッドのティーカップは新婚時代から少しづつ買い揃えてきた]
一番の問題は、「それを自分が好きかどうか」「必要としているかどうか」などを考えないようにして暮らしているうち、Y子さんのモノに対する思考・感覚・感性もマヒしてしまったこと。
モノに対する本来の思考・感覚・感性というのは、『自分にとって』必要か必要でないのか、相応しいのか相応しくないのか、心地よいのか不快なのか。
そのマヒした感覚を取り戻すことが大事なのです。
Y子さんには時間をかけて食器をひとつずつ手にとってもらい、「私はこれを好き?」「私はこれを使いたい?」と自問してもらいました。
すると、作業の途中でポロっとこんな言葉が。
「私って、結婚してから食器ひとつ好きに選んだことがなかったんだ……」
「今あらためて考えてみると、この家にはお箸ひとつ、私がしたいようにできたものはありませんでした」
[整然と並んだ夫婦ふたり分のカトラリ―。「小さいスプーンは無印良品で買ったものですが、ほかは特に覚えていません。ブランドにこだわりはなく、シンプルでよけいな飾りがないものが好みです。食洗器の中にカトラリ―や食器が入れっぱなしにならないようにしています」]
これです。
これなんです。
これが断捨離でよくいわれる「モノを通して自分に向き合う」「モノと自分の関係性を見つめる(俯瞰してみる)」という作業なのです。
世間では断捨離というと、単にモノを減らす・捨てることをさしていると思われていることも多いようですが、そうではないのです。
こうして「自分が使いたいと思ったモノだけを残す」というレッスンを続けていくうち、Y子さんはだんだんとモノに対する思考・感覚・感性を取り戻し、「義母が…」「夫が…」ではなく「私が…」「私は…」と言うことが増えていきました。
そしてモノを選び抜く判断を繰り返すプロセスが、「自分で決められる」という自信につながっていったのです。
そもそも「自分が選びぬいたモノ」「お気に入りのモノ」に囲まれて暮らしていれば、人はごきげんでいられます。
自分にとって不要・不適・不快なモノを手放し、要・適・快なモノだけを残す。
その結果得られた生活が、どれだけ愉しく、気持ちがよいものか。
これは実際にやってみた人じゃないとわからないことだと思います。
だからこの連載を読んでくださった方には、読んでおしまいではなく、トライしてみてほしいのです。
断捨離は行動哲学なのです。
(と、取材で話したら、この連載の担当編集者さんが「それってある意味ダイエットと似てますね。ダイエットの記事を読んだって、読んだだけでは痩せないですから。実践してみてもらってはじめてその記事がお役に立つのですから」と言ったのですが、そのとおり)
[シンク下の収納:右端に立ててあるのはトレイ、丸型のまな板、チーズなどを切るカッティングボード。「丸いまな板って使いやすいですよ」ほかにはバットとその上にあるのは野菜のスライサー、ボウル、サラダの水切り、すり鉢。真ん中の奥にある黒とピンクのものは「ぶんぶんチョッパー!」]
[ガスコンロ下の収納:「お鍋は大中小各1個、フライパンは大中各1個、ミルクパン1個をここにしまってあります」全てティファール。右隅にあるのはタニタのスケール]
こうして不要・不適・不快なモノを手放せるようなれば、心についても同じことが起きてきます。
不安、いらいら、嫉妬といった負の感情から離れることができるようになるのです。
これは私が断捨離を学んで知った一番の醍醐味です。
その仕組みはこうです。
さきほど食器の断捨離方法をご紹介しましたが、たとえば食器棚を自分自身とし、そこにつまっている器を価値観とします。
まずあなたの棚(=心の中)にしまいこまれている器(=価値観)を取り出し、ひとつひとつ確認していきましょう。
例をあげると
・お友達は多いほうがよい(だから友人の誘いは無理してでも断らないようにしてきた)。
・大人なんだから、合わない人とも仲良くしないといけない(だから嫌いな人とも我慢して付き合ってきた)。
・いまどき英語を話せないのは恥ずかしい(だから英語を話せる人に会うとやたら劣等感を感じてきた)。
・家をきれいに整えるのは、女の役目(共働きなのに、と思いながら仕方なく自分が担ってきた)。
これらは自分が欲しい、好きだと思って取り入れた器(=価値観)でしょうか?
親や教師、友人など周囲の人にいつのまにか押し付けられたものはありませんか?
自分の本心ではないもの、親(先生)からの刷り込みだと思ったものがあるなら、それをどんどん手放していけばいいのです。
[水回りの掃除に使うアイテムはひとつの引き出しにまとめてある。「マイクロファイバークロスはレックの『激落ちくん』で、スポンジは無印良品。一週間ごとに交換します。手荒れ防止のため、ディスポーザブルの手袋を使っています。黒いフタの容器には食器用の洗剤が入っています」]
そして自分の本心・感情を認めましょう。
たとえば人間関係でいえば、職場に嫌いな人がいるなら、まずそれ(その人を嫌いだと思っていること)を素直に認める。
決して「仕事なのだから、好き嫌いをいってはいけない」とか「人に対してこんな悪い感情を持つなんて、よくないことだ」などと自分を責める必要はないのです。
人間なんですから、好き、嫌いがあるのは当然のこと。
「私、××さんのこと嫌いだな」と認めて、そこでおしまいにしてみてください。
大事なのは、こうして自分の本心を受けとめること。
本心にフタをせず、向き合うことなのです。
そしてそれでもその人といい関係性を築く必要があるかどうかを考えてみてください。
必要ありませんよね。
そこに煩わされる時間や労力を使いたくないですよね。
そうすればずいぶん楽になるはずです。
【お話を伺った方】
1965年大分県生まれ。高校卒業後進学のため上京し、保健師に。25歳で結婚、40歳まで専業主婦に。子育てが一段落した40歳のとき仕事に復帰。働きながら学び、50歳のときには保育士の資格も取得。51歳で断捨離と出会い、53歳で断捨離トレーナーになる。現在自宅でランチ付きのレッスン会を開催するほか、個人宅の断捨離サポートも行っている
※断捨離はやましたひでこさんの登録商標です