女性ならではの雑談力を生かして
「職場や学生時代からの友だち、地域のママ友など、あまり代わり映えのしない人間関係、いつも同じ話(マウンティングを感じる子どもの自慢話、夫の愚痴等々)。狭いコミュニケーションがだんだん退屈に感じてきました。かといって、現状の友人関係を壊したくもありません。今の年齢から新たに、お互いが成長できるような友だちをつくるにはどうしたらいいでしょうか」(50代・会社員)
――40代、50代の女性は、一見友だちづき合いは多いように見えますが、幸福学でいう多様性という観点では人間関係はやや狭いのかなとも思えます。幸福学の視点から見ると、OurAge世代の幸せな友だちづくりについては、どのように考えればいいのでしょう?
昔からの友だちと愚痴を言い合うだけではなく、できれば新しい友だちと、生産的で面白いコミュニケーションがしたい、ということですよね。趣味ややりがいで、新たに人とつながりたいという、この方のお気持ちはよくわかります。
実際、男性のほうがそれがなかなかできず、孤独になってつらい人が多いんですよ。会社で出世しても定年後、よし地域に貢献するぞと参加しても、同世代の女性方にうっとうしいと思われる。がっかりして家に籠もって、お酒を飲んでずっとテレビを見ていると、今度は奥さんからも嫌がられる…というのが、多くのおじさんのパターンです。
一方の女性は、代わり映えのしない人間関係とおっしゃるけれど、「やりたいことが見つからないのよね」など、よくおしゃべりをするじゃないですか。この雑談力が、幸福学的にはとてもプラスに働く要素なんです。
――そうなんですか? 考えてみると、女性の場合は会話の9割くらい雑談かもしれません。
以前、「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」と言った元首相の発言が問題になりましたよね。でも、話の長いことがいいことなんですよ。話が長いからこそ、幸せにつながる。なぜかというと、9割も雑談をしている中では、情報交換の量もたくさんあるじゃないですか。そこから興味関心が湧いたり、新しい趣味や推しが見つかったりするわけです。だからよく男性にありがちな「早く結論を言って」みたいなことばかり言っていると、決まり切った話しか出てこないし、新しい友だちも増えないと思います。
――あれっ? だったらもう、あまり悩まなくてもいいような気もしてきましたが(笑)、この方の場合は、愚痴も井戸端会議もできる過去の友だちも大事にしつつ、新たな友だちも欲しい、ということですね。
過去の友だち、今の友だち、+新しい世界の友だちをつくろう
――家と職場、学生時代の友だち、ママ友など、そのつながりで満足している人はいいかもしれませんが、お悩みの方のように、「自分は今、世界が狭くなっている」と気づいたこと自体は、とても大事な気がしました。
そうだと思います。人は成長すると、やっぱり新しい自分に合った友だちやつながりが欲しくなるはずなんですよね。だから職場の友だちも学生時代の友だちも大事だけれども、あとひとつ、新しい世界の友だちがあるといいですね。この3グループくらいあると、充実感は増していく。慣れ親しんだ安心感もありつつ、新しい関係性が持てるとワクワクしますよね。
――編集部に、50代からバレエを習い始めたというスタッフがいます。彼女いわく、「10歳以上年上の人がいたかと思えば、30代の人、また小学生の子どもたちもいて、これまでの人間関係とはまったく違う人たちと知り合えるのが刺激になる」とのことでした。年齢がバラバラの人たちと、先生に叱られながら必死で練習するから結束力も強まって、得難い人間関係が生まれた、と。
それはすばらしい経験ですね。ちなみにその方が、バレエを習おうと思ったきっかけはなんだったのですか?
――それが、まさに取材先での雑談がきっかけだったらしいんです。
やっぱり。きっと、新しい友だちをつくろうと思ってバレエを始めたわけでもないですよね。だから幸せも新しい友だちも、探そうと思うと見つからないものなんですよ。でもせっかく、今の人間関係にちょっと飽きてきたといういい兆候が表れているところですから、「人生こんなものかな」と諦め状態には陥らないでいただきたいですね。最初は勇気が必要かもしれませんが、少しずつ、楽しみながら活動の場を増やしていくといいのではないでしょうか。
新たな友だちづくりのカギは、自己表現につながる「創作の場」
バレエのお話に戻るのですが。そこには自分が成長する喜び、同じ生徒さんたちと結束するつながりの喜び、そしてあともうひとつ、とても大切な幸せの喜びを満たしているものがあります。
――何ですか?
それは、アートの喜びです。バレエでいうと、発表会などの場で表現できる喜びですね。自己表現というのは、大きな幸せの要素なんです。「幸せの4因子」のひとつ「ありのままに!」因子に当てはまります。
――確かにアートは、自分らしさを表現する場ですしね。
そうです。さらに、人に見てもらう、というのがとてもいいんですよね。製品づくりの場合、100通りの商品を作ったとしても、売れるものはいちばん出来のいいものです。一方のアートは、100人の作品があれば100通り、すべてそれが正解なんですよね。それがアートのすばらしいところで、まさに「ありのままに!」因子が発揮されます。アートは見るだけでもいいのですが、友だちづくりという文脈でいうと、自分が実際に何かをやることをおすすめしたいですね。何かを創造するのであれば、絵を習うでも、裁縫でも料理でもお菓子でも、何でもいいと思います。
――新しい友だち、新しい居場所を求めている人は、創造の場を持つ。その視点は、とても参考になりますね。OurAge読者の皆さんも、ぜひ幸せを能動的につくっていきましょう!
【教えていただいた方】
1984年東京工業大学卒業、86年同大学修士課程修了。キヤノン株式会社入社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。2024年より武蔵野大学ウェルビーイング学部長兼任。研究領域は、幸福学、イノベーションなど。
イラスト/midorichan 取材・文/井尾淳子