単身赴任していた夫が8年ぶりに帰ってくる! どうしたらいい!?
50代のA子さんは「定年間近の夫が、単身赴任先の北海道から8年ぶりに帰ってくることになった」と浮かない顔です。
8年前に夫を送り出した当時は、「仕事も家事も子育ても、すべてワンオペでやらなくちゃ」と不安でいっぱいだったというA子さん。でも、今では娘さんも成長し、夫がいない生活にすっかり慣れてしまったのだとか。「むしろ、母娘二人だけのほうが楽ちん」と思う日々です。
「夫はようやく東京に戻れるとウキウキしているんですけど、私と18歳の娘は、正直言って憂鬱な気持ちなんですよ」とため息をつくA子さんです。
最近、このような悩みを持つ妻たちが少なくありません。でも、「夫が帰ってきたら困る」と言う妻たちにも考えてほしいのです。あなたたちはこの先、どういうふうに暮らしていきたいのか? 夫とどういう関係性を保ちたいのか?
そこで、A子さんにこんなアドバイスをしました。「これまで離れ離れで暮らし、相手が何をどう思っているのかわからないわけですから、まずはお互いの気持ちを伝え合うところから始めてみたらどうですか」と。
話し合うことで、思いがけない「化学変化」が起こるかもしれません。「夫(妻)はこんなことを考えていたんだ!」「自分はこれまで誤解していたのかも」と相手の気持ちを知り、理解し合うきっかけになることもあるからです。実は私自身、そうした「化学変化」を何度も経験したので、自信を持って言えるんです。
そして、単身赴任先から戻ってきた夫を迎えて、新たな生活がスタートしたら、「夫婦が適度な距離感を保つ」のがポイント。私は日頃の講座で、「妻は夫に一人の時間を与え、夫も妻に一人の時間を与えることが必要」とお話ししています。「卒婚」とはいかないまでも、「相手の時間」を尊重し合うことによって、「適度な距離感」を保つことができるようになっていきます。
夫は長野、妻は東京に拠点を置き、隔週の週末婚を実践。
お互いのセカンドステージを応援し合う
定年夫婦の暮らし方は人それぞれ。夫婦共働きで双方が定年を迎えた人たちの場合、「定年後はこんなことがしたい」と、夫と妻が別々に思いを温めているケースもあります。
60代のB夫さんは「都会から離れて、農業をやりたい」と、長野に移り住んで3年目。妻のC子さんは東京の自宅に残り、月に2回くらい、長野に通う生活を続けています。
現役時代は二人とも忙しくて、「自分はこんなことをしてみたい」と話し合う機会がなかったそうです。ですから、B夫さんから「長野に移住したい」と打ち明けられたC子さんは、「えーっ、あなたは農業がやりたかったわけ?」とびっくりしたのだとか。
一方、C子さんのほうは「私には私の世界があるし、長年通い続けているお花の教室があるから、東京を離れることはできないわ」と、夫の気持ちを尊重しつつも、東京に残ることを選択しました。今では長野で暮らすB夫さんのもとに隔週で会いに行く「週末婚」のような生活で、とても楽しそうです。時には孫を連れて行くこともあるそうですよ。
そもそも、夫と妻の考え方、やりたいこと、趣味が違うのはよくあることです。夫婦が同じことを一緒にやらなくても、「うちの妻はこんなことが好き」「うちの夫がやりたいのはこんなこと」と尊重し合うのはとても大切なことではないでしょうか。ある意味、相手のことを一生懸命に知ろうとしていた「結婚前」に戻る感じですよね。
今のところ、とても円満な別居生活を楽しんでいる二人ですが、ひとつだけ約束事があるのだそうです。それは、「この先、どちらかが病気になったり、介護が必要になったりしたときには、また一緒に暮らしましょう」ということ。すばらしい関係だと思いませんか!?
「定年は人生のゴール」と考えてしまいがちですが、「新たな始まり」のときでもあり、いわばターニングポイントです。この先の人生は長いので、夫がやりたいこと、妻がやりたいことをお互いに応援し合えたらすばらしいことです。実際には、希望通りに実現できないこともありますけど、お互いを尊重する気持ちを大切にしながら、プラスの方向を探すことができるとよいですね。
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ひとつ屋根の下で、「シェアハウス」のルームメイト感覚で暮らす 原沢さんのケース
「家庭内別居」と聞くと、お互いに口をきかないとか、ネガティブなイメージがありますが、我が家の場合は、ひとつ屋根の下で暮らす「シェアハウス感覚」の家庭内別居です(笑)。例えば、私と妻は食事時間のサイクルがバラバラ。妻は朝7時頃、ひと足先に朝食を食べますが、私は8時半が朝食タイム。夕食も食べる時間が別々なんです。といっても妻は、私が食べるときにダイニングテーブルに座っていることが多いので、私は妻とおしゃべりしながら食べています。「この○○、おいしいね」などとコメントすると、意外と話が弾むんですよ。そして、夕食を食べ終わったら、私は自分の部屋に行ってくつろぎます。
以前はリビングにテレビが1台あるだけでした。当時は私がチャンネル権を握っていましたから、妻は見たい番組を見られずに、私に付き合わされる感じだったんですよ。でも、私が自室にテレビを置くようになってからは、それぞれが好きなときに好きな番組を見ることができるようになり、今ではストレスフリーです。テレビを一家に2台置くようにしたのは正解でした。
寝室も今は別々です。これは、私が就寝中にいびきをかくのが理由。でも、朝になると、「おはよう」とダイニングで顔を合わせて、その日のお互いの予定を伝え合うのが朝の日課となりました。
妻「今日は友達と会う約束をしているから、もうじき出かける予定よ」
私「僕のほうは夕方からオンライン取材があるから、君が帰宅した頃に話し声が聞こえていたら、取材中だよ」という具合です。
食事も就寝時間もお互いのペースで生活するようになってからというもの、今ではとても快適です。しかも、以前に比べて夫婦の会話が増えたんですよ!
私は、人生の第1ステージは「学ぶ時代」、第2ステージは「働く時代」、そして第3ステージは「定年後の生活」と思っています。なので、今は第3ステージ。
定年後の夫婦の暮らし方は人それぞれでいいと思うんです。長野と東京で別々に暮らすケースもあれば、私たち夫婦のようにシェアハウスのルームメイト感覚で暮らすのもアリ。たとえ別々に暮らしていたとしても、夫婦のどちらかが困ったときには駆けつけて、助け合うことができたら、最高の関係ではないでしょうか。お互いを思いやる気持ちを大切に、ベストフレンドのような二人になれたら理想的ですね。
【お話を伺った方】

大学卒業後、大手エンターテイメント会社に勤務し、58歳で早期退職。定年後、キャリアカウンセラー(現国家資格キャリアコンサルタント)、シニアライフアドバイザーの資格を取得。現在では、定年退職前後のシニアを対象としたカウンセリングやライフプランセミナーなどの講師を多数務めている。 自身の退職後のことを具体的に考えずに会社を辞めたことによる苦悩、定年後の生きがい探しの体験をリアルに綴った著書『男のロマン・女の不満…あゝ定年かぁ・クライシス』(ボイジャー)が好評発売中。
イラスト/カツヤマケイコ 取材・文/大石久恵