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活力を上げるならむしろ「食べない」選択を

一日の仕事が終わって帰ると、疲れと空腹にまかせて夕飯をかき込んで…ということはありませんか? きちんと栄養をとることは大事だけれど、食事は胃腸に負担をかける行為でもあります。体の中から疲れを取り、活力を上げていくには、「引き算」の考え方を取り入れるべき、と休養に詳しい片野秀樹先生は言います。

腹八分目は健康にいい、は本当だった

 

仕事が一段落ついたとき、疲れがたまっているときなどには「おいしいものでも食べて、ゆっくり休んで」ということが多いかもしれません。

確かに、栄養は運動や睡眠と並ぶ大事な生理的休養です。
でも休養学の観点からは、むしろ「食べない」という考え方が大事だと片野先生。

 

「これは必要な栄養をとらないという意味ではもちろんなく、栄養のとりすぎ、つまり食べすぎに気をつけてほしいという意味です。

健康や美容の分野だと『〇〇には△△がいい!』など、特定の食べ物をすすめる言い方をよく聞きますが、現代のようないつでもなんでも手に入る時代では、栄養が足りないことよりもむしろ食べすぎを警戒すべきです。

 

昔からある『腹八分目』という言葉は、まさに食べないことの大切さを表しています。
八分目とは『まだ食べられるけれど、けっこう満足したからこの辺でやめておこう』というあたり。
江戸時代の儒学者、貝原益軒の著した医学書『養生訓』にもこうした記述が出てくるので、実生活に基づいた知恵としてその時代からすでに知られていたのでしょう。

 

では実際に腹八分目が本当にいいのか?というのを科学的に確かめた実験があります。東海大学の田爪正氣先生が1990年に行った実験です。

いつも満腹になるまで食事をしているマウスと、腹八分目にしているマウスの寿命を比べたところ、満腹のマウスは2年、腹八分目にしていたマウスは3年生きました。

腹八分目マウスの寿命は、満腹マウスの寿命の1.5倍という計算になります。

私たちもお腹いっぱい食べると動きたくなくなりますね。

それと同じで、満腹のマウスは活動量が減るのに対し、腹八分目のマウスは活発に動き回る。適度な運動が寿命が延びることに寄与しているようです。

 

また、食べることと消化はセットですから、胃や腸などに負担がかかります。

栄養をとり込むというプラス方向ではなく、いかに栄養摂取を控える機会を作るかという引き算の考え方が、体を休ませることにつながるのです」

夕飯を軽く&朝モリモリ!が自律神経を整える

夜遅くはガッツリ食べないことが休養

仕事に忙しい50代だと、帰宅してから夜遅くに夕飯を食べるという人も多いのではないでしょうか?

 

「そんなときは、しっかり食べてから寝るというよりは、おかゆやスープなど、軽めのものですませて胃腸に負担をかけないほうを優先するのがいいですね。

夜遅くに、空腹にまかせてガッツリ食べてしまい、翌朝は全然食欲がない…という経験はありませんか?
『自律神経を整えるのが疲労回復のカギ』というのは第3回でお伝えしました。

 

夜にしっかり食べてしまうと、寝ている間にも胃腸は食べたものを消化しようと、働き続けることになります。
寝ているのに体の一部は休めておらず、睡眠の質が低下してしまうのです。

 

記事が続きます

また、自律神経のリズムを整えることにも朝食は大きくかかわっています。
私たちの体には、昼は活動して夜は休むという24時間サイクルのリズムが生まれながらにして備わっていて、このリズムを作っている重要なもののひとつが自律神経です。
ストレスが多かったりやることが多くて体は疲れているのに心が興奮していたり、といった生活を繰り返すうちに、自律神経の働きは乱れてきます。

 

これを正常に戻し、昼は活動モードに、夜は休眠モードにしっかりと導いてくれるようにするには、朝に太陽の光を浴びることが大きなポイントです。

それと同時に、朝食を毎日決まった時間に食べることで、その作用がさらに高まることが最近はわかってきました。

つまり、毎朝同じ時間にきちんと朝ごはんを食べることで、疲れがしっかり取れるのです。

 

現代人の生活では、どうしても夕飯がいちばんボリューミーになりがち。

ですが、体を休ませるために逆にしてみるというのも、有効な手段と言えるでしょう」

 

【教えていただいた方】

片野秀樹
片野秀樹さん
博士(医学)
公式サイトを見る

一般社団法人日本リカバリー協会代表理事、ベネクス執行役員。東海大学大学院医学研究科、国立理化学研究所客員研究員等を経て現在は老人病研究、未病研究等に携わる。休養に対する社会の不理解を解消すべく、多方面で活躍。著書に『「休み方」を20年間考え続けた専門家がついに編み出した あなたを疲れから救う 休養学』(東洋経済新報社)がある。

 

イラスト/二階堂ちはる 取材・文/遊佐信子

 

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