確認したい! 煙に含まれる有毒ガスの危険性
こんにちは。防災士、防災食アドバイザー、管理栄養士の今泉マユ子です。
火災で命を脅かすのは、燃え広がる「炎」だけではありません。「煙」による被害も深刻な場合が少なくありません。実際、火災による死因は、火傷だけでなく、煙に含まれる一酸化炭素やその他の有毒ガスを吸い込んだことによる中毒が原因となるケースも多く見られます。
住宅火災の死因として最も多いのは火傷ですが、次いで一酸化炭素中毒や窒息も多く挙げられており、煙やガスの吸引が命にかかわる重大な危険であることがわかります。
というのも、煙には、建材や家具などが燃えることによって発生する多種多様な有毒ガスが含まれているからです。
煙に含まれるさまざまな種類の有毒ガスの中でも特に危険性が高く、中毒による死因となるのが一酸化炭素です。一酸化炭素は、無色・無臭の気体で、感知しにくいという特徴があり、それゆえ知らぬ間に吸い込んでしまう危険があります。
また、一酸化炭素は血液中のヘモグロビンと非常に結びつきやすい性質を持っています。このため、吸い込んだ一酸化炭素が、酸素よりも先にヘモグロビンと結合し、体内への酸素の運搬が妨げられます。
これにより体は急速に酸素不足(低酸素状態)に陥り、頭痛・めまい・吐き気などの症状が現れ、重度の場合には判断力の低下、意識障害、呼吸困難、そして死に至ることもあります。つまり、火災時に「煙を吸い込むこと」は、命に直結する重大なリスクなのです。
それでは、火災が発生した際、煙を避け、命を守るにはどうしたらよいでしょうか?
煙から身を守る避難の心得3カ条
(1)姿勢を低くし、顔を床に近づけて
煙は熱によって上昇し、天井付近にたまりやすいという性質があります。床付近には比較的煙は少ないので、できるだけ床に近いところを移動しましょう。姿勢を低くして中腰のかがんだ状態で避難します。
(2)壁伝いに歩く
煙が立ち込めてくると煙で前が見えなくなり、どちらの方向に進んだらよいかわからなくなってパニックに陥ることがあります。パニックになると判断力が鈍り、命の危険も高まります。
そこで覚えておきたいのが、「壁伝いに避難すること」です。壁に手をつけながら進むことで、方向感覚を保ちやすくなり、出口や階段にたどり着ける可能性が高くなります。
(3)タオルやハンカチで鼻と口を覆う
濡れた布で口と鼻を覆うことで、煙に含まれる有毒ガスやススの吸い込みをある程度低減させる効果があります。
ハンカチやタオル、洋服の袖などを水で濡らし固く絞ってから鼻と口に当てましょう。水がない場合は、乾いた布でも何もないよりは効果があります。とにかく鼻と口を覆うことが大切です。
避難訓練で煙の怖さを実感!
私は以前、東京消防庁本所防災館で煙体験コーナーを体験しました。煙が充満した迷路のような通路を、姿勢を低くして進む訓練です。訓練用の煙には害はないものの、視界がほとんどなく、何も見えない中での移動はとても不安でした。壁に手をつきながら進むだけでも、方向感覚を失いそうになるほどでした。
実際の火災では、煙には有毒なガスが含まれ、目が開けられなくなることもあります。そうなると、パニックになってしまったり、避難が遅れたりする恐れがあると感じました。

本所防災館にて、煙体験。訓練用の煙が噴射されるブースの中、身をかがめての避難を体験

イベントなどでテント型の煙体験ができることもあります。これは東京・有楽町駅前で行われた煙体験
また、知人が横浜市の日本大通ビルで行われた防災訓練に参加したときの話では、会議室いっぱいに訓練用の煙が充満し、テーブル伝いに歩いてもまったく前が見えず、移動するだけでも大変だったそうです。
訓練用の煙には甘い香りがつけられていたそうですが、香りを感じたということは、実際の火災であれば煙を吸い込んでいたことになる、と恐ろしさを実感したと語っていました。

日本大通ビル防災訓練では煙体験が実施されました
そして、煙は広がるスピードがとても早いということも覚えておきましょう。天井に向かって上方向へは1秒間に3~5m、横方向へは1秒間に0.5m~1m進むといわれています。火災を知ったら、できるだけ早く屋外に避難してください。
日頃から非常出口をしっかり確認。外出先でも要注意
火災から身を守るためには日頃からの備えがとても重要です。
◆住宅用火災警報器の設置は命を守る第一歩
火災の発見の遅れは火災による被害を大きくし、命を落とすことに繋がります。そこで重要になるのが、「住宅用火災警報器」。煙や熱を感知して警報音で知らせてくれます。
日本では設置が義務化されており、早期発見と避難の第一歩となります。
我が家では「台所・階段・寝室」に設置しています。設置しているだけで安心せず、定期的な作動テストや電池交換も忘れずに行いましょう。メーカーが推奨する交換時期は10年程度です。



我が家では、台所・階段・寝室の3カ所に設置
◆外出先では非常口をチェック
オフィスのあるビルでは、非常口はどこかをチェックする習慣をつけましょう。
買い物や食事、映画、コンサートなどで商業施設を訪れた際にも、非常口の案内や避難経路を、「なんとなく」でもよいので必ず見るようにしておくと、いざというときに役立ちます。

クアラルンプール、ヒルトンホテルの非常口案内図
海外旅行でも、ホテルに着いたらまず非常口をチェックします。先日仕事でマレーシアのクアラルンプールを訪れた際も、滞在初日、ホテルに到着後すぐに非常口の位置を確認しました。
◆避難経路の確認と確保
自宅や職場からの避難経路を、実際に歩いて確認しておくことが大切です。
・経路の途中に物が置かれていないか
・夜間でも安全に通れるか
・ドアや窓の開閉に支障はないか
など、日頃から確認しておきましょう。特に廊下や階段、玄関まわりには物を置かないことが、スムーズな避難につながります。
玄関や廊下、階段などに、避難の妨げになるような物を置かないようにしてください。
◆ 消火器の準備と使い方の確認
消火器は初期消火に有効です(初期消火についてはこの連載の第4回で詳しく紹介しています)。すぐに取り出せる場所に設置しておきましょう。また、設置しただけでは安心できません。使い方を確認し、できれば防災訓練などで実際に使ってみることが大切です。
また、消火器にも使用期限があるので、必ず確認するようにしてください。
火災時には「炎」だけでなく、「煙」が命を脅かす大きな脅威となります。まずは煙を吸わないように避難することを最優先に行動しましょう。
煙から避難する際の知識を持っておくことで、いざというときに冷静な判断をし、的確な行動をとることにつながります。
また、火災時を想定した備えがあることで、安全な避難ができるようになります。
できることをひとつずつ実践し、いざというときに備えていきましょう。
■お話を伺った方

管理栄養士としてレシピ開発、食育、SDGsクッキングの指導を行うとともに、防災食アドバイザーとしても活躍。災害時でもポリ袋と湯煎で簡単にできる調理法「お湯ポチャレシピⓇ」の指導や備蓄アドバイスなどを行う。さらに、2017年には防災士の資格を取得。食の範囲にとどまらない幅広い防災活動に従事する。これまでに、全国で行ってきた講演は400以上。日本栄養士会災害支援チーム(JDA-DAT)リーダー。東京消防庁から拝受した感謝状は11枚になる。著書に『SDGsクッキング(全3巻)』『親子で学ぶ防災教室』シリーズ(理論社)『かんたん時短、「即食」レシピ もしもごはん』(清流出版)など23冊。テレビ出演200以上、ラジオ出演300以上。新聞、雑誌、WEBサイトなどでも活躍中。
取材・文/瀬戸由美子


