「令和」という新年号を迎え、天皇陛下の御即位の今年、雅な有職束帯と十二単に心惹かれ、京雛人形に会いたくなりました。
今回ご紹介する「京ひな人形 西陣たくみ人形」は、京有職雛人形司の槙野巧雲さんが、注文を受けてからひとつひとつ手づくりする、京都でも稀なお誂えの雛人形の工房です。
一般的には、人形店に並んだ雛人形から、自分好みの品を選び求めるのですが、「贈る人、飾る人の心を大切に、それぞれの方の思いを込めた、唯一無二の雛人形を作りたいんです」と、おっしゃる槙野さん。
すでに完成された雛人形を販売するほうが、あらゆる面で効率的であるのは、百も承知。でも、あえてお誂えにこだわるのは、雛人形という女性の幸福な人生への願いをこめた特別な人形への崇敬に他なりません。
そもそも雛人形づくりは、顔、髪、手足、冠や扇などの小物、そして雅な装束と、多くの部分が専門の職人さんによる分業で行われます。そして、最後に、着付師である槙野さんが装束を着付け、雛人形は完成します。つまり着付師は、雛人形の総合ディレクター&プロデューサーで、それぞれの職人さんとの長年の信頼関係などにより、はじめて素晴らしい雛人形が生まれます。
工房の一角では、ベテランの雛人形職人さんたちが、さまざまな色の生地を型紙にそって裁断し、裏に芯を施し、袖、裾など300以上もある装束の部位を作ってゆきます。すべてがミリ単位の細かい手仕事…長年の培われた技で微妙なニュアンスが表現されます。
雛人形の装束の生地は、西陣の正絹の唐織など。しかも人間の着物と違い、文様も人形用に小さくした特別品なのです。
西陣の千本通にある店内には、何体も雛人形が展示されています。穏やかで品格あるお顔で、はんなりとした色彩を幾枚も重ねた雅な十二単を纏った女雛、そして衣冠束帯姿の凛々しい男雛で、いずれも思わず見惚れてしまう人形ばかり。でも、これらの人形は、いうなれば見本で、それを参考にしながら、注文する人は顔や装束などを選んでゆくのです。
「一見、みな同じように見えますが、実は、どれひとつとして同じ表情の雛人形はいないんですよ。ご依頼されるお客様の思いが、表情に映るものだと思っています」と槙野さん。装束の色かさねなどにも好みが反映でき、唯一無二の特別な雛人形になります。
注文されてから作り出すオーダーシステムですから、完成までに2ヶ月から4ヶ月ほどの時間がかかるため、雛祭りに間に合わせるには、早めの注文が望ましいそう。
今年は、天皇の御即位もあり、雛人形への注目度もアップしているとか。
女の子の健やかな成長と幸せを願う雛人形は、幾つになっても日本の女性にとって、特別な存在。「やっぱり雛人形っていいなぁ~」と思わずにはいられない心やすらぐ時間でした。
ここは、すべてお誂えのため、雛人形一体でも注文できます。「お姫様のような美しい女雛だけ1年を通じて、そばに置いておきたい」という方も増えているそう。また時を経て、男雛を加えたり、さらに三人官女を揃えたりということも、お誂えなので自由なのです。
実は、私、大胆にもブログ「ネコのミモロのJAPAN TRAVEL」のリポーターである「ネコのミモロ」の十二単の製作をお願いしました。ぬいぐるみに十二単を作り、着付けるのは、初めてという槙野さん。しかも、ミモロはずっと雛人形でいることはできないため、着せ替えができる装束という、雛人形にはあり得ないお願いも。ミモロのボディサイズを測定し、型紙を製作。そして見事な色かさねの十二単の装束を作ってくださいました。しかも、冠や檜扇も、ミモロサイズのものに。「せっかくですから、お雛様にしましょう」と槙野さん。なんとミモロのお友達のクマのハンス君にも、天皇陛下の御即位の装束である「黄櫨染(こうろぜん)」の有職束帯を作ってくださいました。
その写真を見た人は、全員「すごい~カワイイ!!」と感激の声をあげます。
もちろん、私もその出来栄えの見事さに驚くばかり。ぬいぐるみのお雛様というのは、見たことがありますが、ここまで本物の装束を着たものは見たことがありません。
お誂えというのは、熟練の優れた職人さんだからできることだと、改めて思います。「かわいい~」…見ているだけで、心が和み、思わず笑みがこぼれてしまいます。着ているミモロたちも、誇らしい表情に見えます。
「こういう雛人形も、これからいいかもしれませんね~」と槙野さん。
大切にしているご自分の人形に、本物の雛装束を着せることも可能ということ。どうぞご興味のある方は、ぜひ相談してみてください。
春には、またこの装束を着せて、この「みもろ雛」を囲む雛祭りをやろうと思います。これぞ、世界にひとつだけの雛人形です。それを持つ幸せ感は、格別です。
ご家族の女の子への贈り物に、また自分のために、この世に一つだけの特別な雛人形を作られてはいかがでしょう。
京ひな人形 西陣たくみ人形
京都市上京区千本通五辻上ル牡丹鉾町552-3
☎ 075‐441‐8333
10:00~18:00 定休日:12月~4月水曜、5月~11月土・日曜・祝日
および不定休【訪れる時は、事前に連絡を】
小原誉子
ブログ「ネコのミモロのJAPAN TRAVEL」