西陣は織物の町。
そこに昨年8月8日にオープンしたのが、「レースミュージアム LOOP(ループ)」をご紹介します。
ミュージアムがあるのは、西陣の中でも1日の商いが千両を超すと言われたことから「千両ヶ辻」と呼ばれる、江戸時代から織物で栄えたエリアです。金糸、友禅染、西陣織などさまざまな工房が連なる通りから、少し西に入った場所に「リリーレース インターナショナル」というレース生地のメーカーの社屋があり、その2階にできたのがこのミュージアム。
階段を上がった2階が展示スペースで、そこには17世紀から近代までのイタリア、ベルギー、フランスなどのアンティークレースが、訪れる人を中世のヨーロッパに誘います。展示されるレースは、いずれも繊細で見事な技術から生まれた美しいものばかり。ヨーロッパのレースの産地を訪れた西村社長が、その美しさに魅了され、長年かけて収集したもの。
「そもそもレースは、漁業の網など水を切る生活道具として、古代遺跡からも発掘されるほど、人類の暮らしの中に根付いていたんです。それが装飾品として、芸術的なものとなったのは、16世紀以降から、その美しさは王侯貴族を魅了し、ファッションの大切なアイテムになりました。
その時代の貴族や富裕層の肖像画には、レースの襟などのある服装を誇らしげに纏う姿が数多く見られます。まさに地位と富を象徴するものでもあったのです」と。
ヨーロッパのレースの手法は、主に2種類。糸巻に巻いた糸で織ってゆくボビンレースと、布に針で糸を刺し、布の部分の糸を外して作るニードルレースという技術です。いずれも女性たちが幼いころから技術を学び、その技を受け継いでいきました。極めて細かい、まさに超絶技巧…さらに草花などをデザインした模様の美しさにも息を飲むばかりです。
ヨーロッパの人たちが愛するレースの文化…それが日本で女性たちを虜にしたのは、開国した明治時代になってから。輸入されたレースは、婦人服や子供服、またストールなどファッション雑貨、カーテンやアクセサリーなどに用いられました。戦後のファッションで、レースは女性の憧れに…。国内でレースの製造も本格化し、輸出品のひとつに成長します。
西村社長のお父様がレースの仕事を始められたのも戦後すぐ。当時、主に下着用の幅の狭いレースリボンを製造し、カナダやオーストラリア、香港などにも輸出していたそう。
その後、次々に幅広いレース生地が製造できる新たな機械を導入。国内外の有名ファッションブランドにも納めるようになりました。
ミュージアムのある建物には、ここ「リリーレース インターナショナル」で製作されたレース生地が積まれています。
「中国などでもレース生地が製作され、市場は厳しさを増しています。今、求められるのは、独自の技術によるレース生地であり、また、新たなレースの魅力が実感できる使い方などの提案だと思います」と西村社長。
そういえば、京都の町を和服姿が歩く若い人たちの間では、レース生地の着物や襟や帯の部分にもレースが施された小物だったりと、実に自由にファッショナブルな着方が人気のよう。オーソドックスな和服とは、異なる斬新な着こなし…そこに登場するレース。ますますその使い方に広がりを感じさせます。
「レースミュージアム」を訪れると、光を通し、また含んだレースという素材の美しさ、そして作り出した人々の知恵と工夫、技術の高さに心から敬意を払いたくなります。まさに人類が編み出した美の結晶のひとつ。
京都を訪れたら、ぜひ一度、訪れてはいかがでしょうか?
3階では、購入可能なレース生地や雑貨もあり、それを楽しみに訪れるリピーターも。
ただ纏うだけでも、素敵なファッションアイテムとなるレース。まるで光と風を纏ったような感覚になります。
「レースミュージアムLOOP」
京都市上京区元誓願寺通大宮西入る
☎075-441-0366
開館時間 9:30~17:00 水曜休館 入館料500円
(入館チケットは、レース生地を購入の割引券になります)
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