山岸涼子さんが70年代に描いたバレエマンガで『アラベスク』っていう作品があります。読者のみなさんなら、読んだ人も多いんじゃないかしらね。
主人公のノンナという少女は、バレエに不向きな体型で、優秀な姉といつも比べられて、すごく劣等感をもっているんだけど、天才ソリストのユーリ・ミノロフ(イケメン鬼コーチ)に才能を見出されて、いろんな壁を乗り越えながら才能を開花させていくっていうストーリー。あの時代にロシア(ソ連)が舞台の漫画って山岸さんってすごいなぁと思ってたら、水野英子先生はもっと前に『白いトロイカ』 を描いていた!
そんなノンナの最大のライバルが、天賦の才能に恵まれた天才プリマ・ラーラ。二人は主役の座をめぐって、激しく争うんだけど、ノンナがその座を射止めると、ラーラはあっさりとバレエを辞めて、学校から去ってしまう。
うっそー!なんでそんなに簡単にバレエを手放せるのよと、あきれ悔しがるノンナ。ふざけんじゃないわよ、私がどれだけ苦労してバレエにしがみついてると思っているのよーーと、急にガラが悪くなったノンナはうろたえるのであった(ノンナの性格に多少一条風味混入)。
その時に、トロヤノフスキーっていうバレエ劇場の総裁が、「彼女が去って行ったのは、精神的に弱いからじゃなくて、彼女が天才だからだ」って言うのよ。苦しみ悩んで、石にかじりついて地位を得た者は、どんな障害があっても簡単にその地位を捨てないけれど、ラーラにとって、なんの困難もなく手に入れた天才バレリーナという地位は「ほんのささいな障害で、あっさりと捨てることができるものだったのだ」って。
いや~~~~肝に響くお言葉、思わず拝んじゃうわ。いやまったくその通りでございます。
そうよねぇ、そうだわよ。苦労して手に入れたものは、どんなことをしても守ろうとするけど、簡単に手に入ったものは手放すのも簡単ってことだわさ。よく資産家の二世が、親の財産を食いつぶしたりするけど、そういうことよね。
一条だって漫画家になるために相当苦労したけど、なったらなったで人生破滅しそうになるぐらい大変だったわよ。2.0以上あった視力は 今や 0.4~0.5 だし、乱視に緑内障に白内障、いや白内障はただの老化だけどさ、肩こりに腱鞘炎に、とにかく 体ボロボロよ。
仕事は少なくしたけど、それでもまだ「元漫画家」ではなく「現漫画家」でありたい!苦労して手に入れたものは、愛着とこだわりがてんこ盛りですね。
裏を返せば「苦労する時間」って、決して悪いことじゃないってこと。
成功も幸せもお金もいろんな障害を乗り越えて、熟成させて手に入れたからこそ、自分にとって価値のあるものになるんじゃないかなと思います。
コーラス2006年11月号表紙
取材・文/佐藤裕美
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