オペラの世界を舞台に対照的な二人が競い合う『プライド』は、今でもファンにけっこう人気があるみたいで、作者としてはうれしい限りであります!
なんでそんなことが分かるかというとですね、うふふ、今でも単行本が地味に売れてて一条の老後人生のお財布をあったかくしてくれているからであります。この場を借りてお礼申し上げます!で、その二人だが。
人にどう思われようと、自分の好きなものを追い求めるヲタク気質の史緒ちゃんと、人の評価を得るためには、どんな手段も厭わない成り上がり気質の萌ちゃんです。
二人のヒロインはまさに正反対で、私は普通の若い日本人女性の半分以上はどっちかといえば萌ちゃんタイプだと思って描いてたんだけど(実際に行動に移すかどうかは別にして、気持ちはね)、なぜか「私、史緒ちゃんの気持ち、すごくよくわかるんです!私も人に媚びるのが苦手で…」とか「私もよくねたまれて…」とかね…。私が知らないうちに自信満々の日本女性が増殖してるじゃありませんか!!いや、たまたまかもしれないけど、とにかく返答に困ったな。
「いや、あなた史緒ちゃんとは違いますよ」とも言えないから(笑)、「そ、そうなのね」って話を聞いていたけれど、自分が史緒ちゃんタイプだと思っている人、よほどのことがない限り、自分の認識が間違っていると思います。
というのも、史緒ちゃんタイプの条件を挙げると、お嬢様育ちとか、不動心の持ち主とか、男にあまり興味がないとか(笑)、いろいろあると思うけど、いちばん大事な条件というのが、「他人の評価より自分の評価が大事」という、人がなんと言おうと自分の好きなことだけに一心不乱に頑張る究極のオタク体質です。
見ているのは他人より自分で、自分の成長がいちばん大切な、そういう意味では大変わがままな自己中的存在ですね。趣味で人生は潰さないけど、道楽では潰してしまうというカンジの、ノーベル賞を取るような人はたいていこのタイプだと思う。
10個の条件のうち、他は全部当てはまらなくても、これさえ当てはまれば史緒ちゃんタイプだというくらい、一条がこだわって描いた大事なポイントなんですよ。
でも、たいていの人は自分の評価より、やっぱり人の評価が大事、でしょ?人にほめてもらいたいとか、売れて有名になりたいとか、人にうらやましがられたいとかね。だから史緒ちゃんのように何があっても自分を曲げず、本当にやりたいことを貫ける人は、ごく少数の変人です。流行りの服を着て、「素敵な私」って思っているような人は史緒ちゃんではないなぁ。
それだけ史緒ちゃんが特別ってことなんだけど、現実に史緒ちゃんが隣に住んでいたとしたら、たぶん私、あんまり仲良くならないと思う。だってあの女つまんないじゃん(笑)。
悩み相談とかしても全然共感してくれなさそうだし、要領も悪そうというか悪いし、常識もあんまりないし、冗談も通じないしねぇ。
隣人にするなら気を使えて、よく働きそうで、要領も良い萌ちゃんがいいな。まあ私が萌ちゃんの地雷を踏まなければ、だけどね。万が一踏んだら引っ越しも必要かもだから、やっぱどっちも嫌か。
えっ、ヒロインなのにボロクソ?作者が言うんだから間違いない(笑)。
「プライド」
取材・文/佐藤裕美
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