一条は、子どもの頃から好き嫌いが多かった。トマト以外の野菜はほとんどダメで、中でも存在を全否定していたのはネギ!
そんな娘の野菜嫌いをなんとか直そうとした母は、離乳食にみじん切りやすりおろし野菜を混ぜたりと頑張ったが、一条は、すべて吐き出しギャン泣きするしまつ。困った母は医者に相談した。「子どもの好き嫌いは親の責任です」。イラッ(母)、そして母は匙を投げたそうだ。
それから何年も過ぎたある時、母が「ネギを食べると頭がよくなる」と言ってネギを食べさせようとした。懲りない女だ。
生意気な一条は、「お兄ちゃんはネギ食べてるけどバカじゃん」と言ったら、母の見事な切り替えしが返ってきた。
「何言ってるの。お兄ちゃんはネギを食べなかったら、もっとバカになっていたのよ」って(驚)。
オーマイガー!なんつーシビアな御言葉! 《私ってやっぱりこの女の、子供なんだ》と、血の繋がりの濃さをしみじみ感じたエピソードでした。
ということで、ネギにまつわる話、いろいろあるよ。
まずデビューして、わりとすぐの頃、編集部の担当とお偉いさんと三人でフレンチを食べに行きました。小娘の一条がフレンチのフルコース!大丈夫か!? よし!前菜クリアで次はメインだ!と、緊張しながらも楽しく話をしてたら、突然!!私の口からプッと白いものが飛び出し、お偉いさんも担当もソムリエも、もちろん一条も、四人の視線がその白いものに…えっ!? はぁ? ネギ…
ああぁ━━どう見てもネギだった……
私の意志を無視して口が勝手にネギを拒絶…こんな不気味な物を絶対身体に入れるもんかと、全力で許否とは恐るべき反射神経ではないか。あきれるわ。
その場は平謝りで何とかやり過ごしたけど、いやあ恥ずかしかったわ~。
まあでもね、あれで私は闇鍋でも大丈夫だと自信もったわ。間違って口にしてもちゃんと吐き出すからね。良かった良かった。
それから20年後くらいかな、旅行でパリに行った時にベルサイユ宮殿の中でディナーを食べるというツアーに参加したのよ。いわゆるフレンチの王道みたいなコース料理で味はイマイチ。とはいえ、なんといってもベルサイユ宮殿だし、楽しく食べていたんだけど、マカロニかなと思いつつ、グラタンを一口食べた途端「あっ!」と言ってフリーズ! アホのように開いた口からマカロニに似た白い固まりがボタッ! ポアロネギしか入っていないグラタンだった。
ちょっとぉ! 何なのよ(怒)。ベルサイユ宮殿のくせにこの貧乏臭いネギだけグラタンは!マリーアントワネットは許しても一条は許さないわよ!!
3つ目は、某老舗のお高い蕎麦屋に行った時のこと。天ぷらそばを頼んだ一条はご機嫌で、(おそらくイカであろう)揚げたての白くて分厚い長方形の天ぷらをガブリ! ブツが歯に突き刺さったその瞬間、「ギャ━━ッ!!」と、信じられないほどの悲鳴が店内中に響き渡ったのであります。
ゆ、油断をしていた!蕎麦屋の天ぷらにまさかネギが入っているとは━━‼
普段なら一応 疑ってチェックしてから食べるんだけど、蕎麦屋の天ぷらにネギが入っているなぞ、それまでの一条の人生では一度も無かったのよ━━‼
そしたらお店の人が慌てて出てきて、「お客様、どうかなさいましたか!?」って。困った、まさかイカだと思っていたらネギだったとは言えない(笑)。「すみません、大丈夫です。ちょっと話をしていたらびっくりしてしまいまして。ヘンな声を出してすみませんでした!」とひたすら謝りました。あの時に私って、本当にネギが嫌いなんだなとしみじみ思いました。
その後もある時、吉祥寺のラーメン屋さんで、「チャーシュー卵ネギ抜きで」と言ったら、カウンターの端っこのほうに座っている人が「もしかして一条さん?」って、ことがありました(笑)。
この日本で、ネギが食べられないということがどれほど不便か、あいつらは和食だろうがラーメンだろうがどこにでも入ってるのよ〰 〰 !!
新宿に住んでいた若い頃、偏食を治す催眠療法というのにもチャレンジしたけど、ダメだった。疑り深いくせに妙に冷静で理論的に原因を追求したい私には、催眠術は効きませんでした。残念だ。
まあそれでも最近は、少しだけ克服できるようになって、小さく刻んでチャーハンに入ってるくらいなら食べられるけど、やっぱりキライ。
ネギ克服が先が、老衰が先か?明日はどっちだ⁉

「一条ゆかりの食生活」より
取材・文/佐藤裕美
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