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松本千登世/手のつなぎ方

松本千登世

松本千登世

1964年生まれ。美容エディター。客室乗務員、広告代理店勤務、出版社勤務を経てフリーランスに。自らの経験に基づいた審美眼によって語られる、エッセイや美容特集がつねに注目の的。近書に『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。今日も「綺麗」を、ひとつ。』(講談社)がある

現代の「アラサー女子」たちは、みんなで「手をつないでいる」のだと聞いた。どんなに説得しても、その手を離したがらない。後れを取って恥をかくのは嫌。そうかといって、先を行って悪目立ちするのも嫌。出し抜かれるのも出し抜くのも、どっちも野暮。右を見て左を見て、顔色をうかがい、空気を読み、「浮かない」ように人生を歩みたい。できるだけ傷つかないように、同時に、傷つけないように。そう思っているのだ、と。だから、彼女たちに向けてのメッセージは、「参考書」じゃなくて、「教科書」。つまり、これも正解、あれも正解、こんな考え方もあるし、あんなやり方もある、自分流を探して前に進みましょう、では不安。絶対的な正解を明示されないと、満足しないというのである。個性の時代といわれ、「ありのまま」がベストというムードが続く中で…? 正直、意外だった。

松本千登世

まわりの同世代にこの話をすると、皆、「わかる、わかる!」。部下だったり、仕事や趣味の仲間だったり、はたまた娘やその友達だったり。それぞれに具体的なエピソードがあるようで、大いに盛り上がった。うち一人が、「でもさあ、思えば、バブル世代の私たちも、手をつないでたんだよね。いや、今も、しっかりつないでる気がする」。

 

 

そうだった、私も。編集者に転職したのが、ちょうど30歳の時。まったく経験のない中で挑戦した仕事に戸惑う毎日。さらにたちが悪いことに、もう20代じゃないという年齢特有の意地と見栄が邪魔して、できない自分を素直に認められない。そんな苦しんでいる私と手をつないで、面倒を見てくれたのは、当時32歳、年齢的にはさほど差のない先輩。誰もが認める敏腕編集者だった。落ち込むほどきつく叱られたことも数知れず、時にため息をつかせたことも。でも…。手間取る私のせいで二人して夜中の3時まで残業になった時、「ねえ、お腹空いたよね。何か食べて帰らない?」。タクシーを途中下車して、夜中のラーメン。たわいもない会話に終始し、再度乗り直した車の中でひと言。「雑誌、好き? 編集、好きなんでしょ? だったら、思い通りにいかなくても失敗の繰り返しでも、いいじゃない? 私、とことんつき合うよ」。彼女にとっては手を離したほうがはかどるし、ストレスもないはず。それなのに、さらに手をギュッと強く握ってくれたのだ。

 

 

この言葉がなかったら、私は今、こうしていられただろうか? 手をつないでいるのは、アラサー女子たちと同じ。でも、そのつなぎ方は明らかに違う。つまずいたりこけたりして後ろにいる人たちがいたら、前を行く人がその手を引っ張る。後ろにいる人たちも、決してあきらめることなく、その手にしがみつく。結果、昨日より今日のほうがもっと前、今日より明日のほうがもっと上と、全員が進化する、みたいな。自画自賛かもしれないけれど、私たち世代っていい、そう思えたのだ。
「ねえ、スキンケアは何がいいの?まだ間に合うよね。本気で頑張ろうと思って」「この秋のトレンドは、バーガンディのリップなんでしょ? どこの何がおすすめ?」…。同世代たちの会話はまるで、20代の頃と一緒。いや、もっとエネルギッシュでアグレッシブだ。明日は、もっといい自分、そう信じられるマイエイジ世代は、日本を変える、大人の女を変える、きっと。

 

 

写真/興村憲彦

 

 

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