シミやシワ、たるみなど肌に現れる老化サインは、肌の調子の良し悪しのせいにできたり、表情やメイクでごまかせたり。気の持ちようで「なかったもの」と思い込むこともできた。とこ ろが白髪に限っては、そうはいかない。ここまでは黒、ここからは白。「あなたはもう、若くないんですよ」と宣告されているかのよう。文字通り白髪は、「白黒をつける」ものなのだ。
特に、私たち日本人と白髪は、「敵対」関係にあると思う。もともと黒髪だから、白髪とのコントラストがつきやすいこと。また、髪一本一本が太くハリやコシがあるために、細く柔らか い欧米人の髪よりも目立ちやすいこと。魅力だったはずの髪の特性が、白髪と喧嘩する。よほどの覚悟を持たない限り、格好いい白髪、女っぽい白髪は難しい。結果、多くの女性たちが「染める」選択をせざるを得ないのだろう。
ある女性は言う。「思いきってカラ ーリングをやめて、白髪とつき合っていこうと決心したの。そうしたら、夫が『お願いだから、染めてくれよ。まるで俺が苦労をさせているみたいじゃないか』って」。男性特有の前時代的な価値観と一蹴することなかれ。女性である私たちだって、急に白髪が増えた人に対して、「疲れてる?」「悩んでる?」という感情を抱いた経験があるはず。生活が見える、そんな気がするから、白髪は何より悩ましいのである。
さらに言うなら、私たち世代の白髪に対するハードルはより高い傾向にある。ティーンエイジャーの頃にスキンケアらしきことを始め、大人になってからは多少なりとも、進化を続けるエ イジングケアの恩恵に与(あずか)ってきたから、そのぶん肌が若い。美容意識が高い人ほど、良くも悪くも肌と白髪との間に生じる年齢印象のギャップに苦しんでいるはずなのである。
こんなにも白髪にがんじがらめにされていたなんて。もし、白髪の壁を越えられたら。もし、白髪の呪縛から解き放たれたら。スタイリッシュに、エレガントに、白髪とつき合っていけた ら、きっと私たちは「大人」を楽しめる。「一生美しい」を堂々と信じられる、初めての大人になれるんじゃないか。ずっと、そう思っていたのだ。
そんななか、私たちのベクトルを180度変えるニュースが飛び込んできた。花王から誕生したリライズというブランド。カラーリングとは一線を画し、まったく新しい発想で生まれた白髪ケ アだ。白髪と黒髪の違いに着目し、天然の成分で作られた黒髪メラニンのもとで髪表面を黒髪色に色づけるというメカニズム。白髪を「隠す」のでなく、自分の髪を「生かす」というポジティブなスタンスだから、ずっと自然な黒髪でいたい人にはもちろん、欧米人のようなグレーヘアに挑戦したい人にも、しだいに白髪に移行したい人にもフィットする。肌を底上げしたいときの特別なフェイシャルマスクのように、背筋を伸ばして臨みたい日の赤口紅のように、手軽に、楽しんで。大人を白髪から自由にしてくれる「予感」に今、ワクワクしているのだ。
花王の男性研究者は言う。「髪が人生をネガティブにすることがある。ならば、髪から人生をポジティブに変えることだってできる」。白髪さえも、愛おしいと思える幸せ。自分自身を、 愛おしいと思える幸せ。白髪という壁を越えられる時代が、ようやくやってきた気がする…。
写真/興村憲彦