どこからともなく三味線の音が聞こえる祇園町。「八坂神社」にほど近い、お茶屋さんなどが軒を連ねる情緒ある道沿いに、バー「祇園サンボア」があります。
神戸で大正7年創業し、今年100年を迎えたバー「サンボア」は、当時、ハイカラな紳士が集ったミルクホールが、その始まりといわれます。京都には、のれん分けした「京都サンボア」「先斗町サンボア」。そして今回ご紹介する「祇園サンボア」の3店があり、今も日本のバーテンダーの世界では、その名を知らぬ者はない老舗です。
私が、この「祇園サンボア」に初めて寄せてもらったのは、すでに30年以上前のこと。外国人を案内して訪れた京都で、「夜、どこかで飲みたい…」という彼らを伴って祇園町を歩いていた時、その中の一人の英国人が、「ここにしよう」と、古い町家の間にあるドアを開けたのが、こことのお付き合いの始まりでした。
大きな木のカウンター、壁一面に並ぶウィスキーなどのボトル…英国の伝統のバーと通じるものを感じたのでしょうか、彼らは、それから京都滞在中の4日間、毎晩、夕食後、ここに通い続けました。たまたま隣に座る常連客と片言の英語と日本語で会話を交し、グラスを重ねる時間を何より楽しみにした彼らです。以来、私は、京都を訪れるたびに、ひとりフラリと訪ねたり…。そのお付き合いは、京都に暮らしてからも続いています。
初めて訪れた時から、ほとんど雰囲気が変わっていない店…奥には、昔から親交が深い、小説家、エッセイスト故山口瞳さんの手による暖簾が大切に飾られています。
いつ訪れてもマスターの笑顔とキチンとした仕事に癒される時間…。30年前、私が初めて訪れた時、祇園で生まれ育った中川歓子さんが、マスターとしてカウンターにいらっしゃいました。それからしばらく、息子さんの立美さんがマスターを務め、昨年から歓子さんの孫にあたる瑞貴さんが新しいマスターになられ、現在カウンターを仕切ります。なんと3代に渡って伺うことになりました。
ここの常連は、ほとんどがこの3代に渡るマスターを知る人で、地元の老舗のご主人をはじめ、伝統文化に関わる方々、小説家、漫画家など、実に幅広く、その顔触れに驚きます。カウンターを前に思い思いの時間を過ごし、また出会いを楽しむ人たちです。
「みなさんに、育てて頂いています」という若きマスター。孫のような存在となるマスターの成長を楽しみに見守る常連客…ここを訪れる楽しみは尽きません。
「初めての方でもどうぞお気軽に~」とマスター。最近、オープンの時間が17時からと早くなり、食事前にちょっと立ち寄ることができるようになりました。「ちょっと敷居が高そう~」と思われるなら、この早めの時間に一度訪れることをおすすめ。マスターと顔なじみになると、気分的にグッと入りやすくなりますから…。
300本以上並ぶさまざまなボトル。いろいろなカクテルも注文できます。1ショット1500円からが目安。このバーを知っていると、「京都通」と言われそう。一度訪れると「ここに来ないと京都に来た気がしない…」そんな心地になるバーなのです。
祇園サンボア
京都市東山区祇園町南側570-186
☎075-541-7509
営業時間 17:00~23:30LO 月曜休み
小原誉子ブログ「ネコのミモロのJAPAN TRAVEL」
http://blog.goo.ne.jp/mimoron/