「平安神宮」のそばに流れる「琵琶湖疏水」に面する「京料理 六盛」。来年には創業120年を迎える老舗の料理屋さんです。私が、初めて京都を訪れたのは、中学生の時。以来数年にわたり毎年京都に来るたびに、こちらで京の食材を盛り込んだ「手をけ弁当」(3240円+サービス料)を食べるのが楽しみでした。今も、その京都らしい豊かな味わいに多くの人が昼食に訪れています。
昼食の賑わいが一段落した頃、疏水沿いの桜の木々が見える食事処は、「スフレ&カフェコーナー茶庭」へと変わります。
14時から17時は、カフェタイム。この時間に訪れる人のお目当ては、平成元年から作られている「スフレ」です。今やいろいろな場所で食べられるようになった「スフレ」ですが、当時はまだ珍しく、また京料理の老舗が始めたということで、注目された「スフレ」ブームの先駆けです。
そもそも「スフレ」とは、「膨らんだ」という意味のフランス語から名付けられた焼き菓子で、17世紀にフランスの菓子職人が作り始めたと伝えられます。メレンゲの力を利用して膨らませた焼き菓子ですが、ここ「スフレ&カフェコーナー茶庭」の「スフレ」は、思い描く一般的な「スフレ」のイメージとは異なる、迫力すら漂わせる堂々とした姿に驚くはず。
器の上に、モコモコと大きく膨らんだ生地。茶色の帽子をかぶったような姿は、「すご~い!」と思わず感激の声を上げてしまうはず…。
注文を受けてから焼きはじめる「スフレ」。出来上がりまで約20分かかります。この「スフレ」を作っているのは、「京料理 六盛」のお嬢さんである岸本香澄さん。おじい様が始められた「スフレ」の提供を引き継ぎ、東京などでも修業されたパティシェールです。カフェの責任者になってからは、従来の味に、さらにさまざまな工夫を加え、現在の形と味のレシピを作り上げたそう。
プレーンの「バニラ」(810円)のほかに、デザート好きの女性を意識し、チョコチップ入りの「ショコラ「(832円)、抹茶風味の「抹茶」(886円)なども開発。さらに月替わりで、フルーツフレーバーのものなども登場しています。やさしい味は、あらゆる年齢層に好評。
「焼き上がるまで20分はかかるので、待ちきれないという方もいらっしゃいますが、最高の状態でお出ししたいので…」という岸本さん。この焼き時間は妥協できないポイントなのだそう。
焼き上がり、オーブンから出たばかりの「スフレ」は、空気を含んでモコモコの状態。でも写真を撮影しようとカメラを構えている間にも、徐々にその高さが低くなってゆくのがわかります。
「そう、これ一期一会の姿なんです」と言われる岸本さん。「祖父が、この「スフレ」に心惹かれたのも、そんな一瞬の出会いを大切にしたいという思いからでは…と思います」とおっしゃいます。
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焼き上がった「スフレ」が運ばれるたびに、それぞれのテーブルから歓声が上がります。そして急いでスマホを出して撮影がスタート。「最近はインスタ映えするからと、みなさん撮影なさるんですよ」と。確かにスマホで撮影したくなるのもわかる、特別感がある「スフレ」なのです。
さて撮影の興奮が収まると、やっと落ち着いて舌で楽しむ時間へ移ります。
食べ方は、もちろん自由なのですが、テーブルに置かれた説明書によると、「スフレ」の茶色の帽子のような焼き色の部分にスプーンで穴をあけて、そこに特製のクリームを注ぎ、混ぜながら食べるのだとか…。
その説明に従い、クリームとスフレをスプーンですくいひと口…ほんのり甘いカスタードの味わいが豊かに口に広がります。
「スフレ」が最高に美しい、そのわずかな時間に出会うために必要な20分間。そして、それからもたらされる美味しい時間…待つ価値は十分です。
老舗料理屋さんらしい上質感が漂うスペースで過ごす時間…待ち時間も苦にならず、のんびり寛げるはず…。
かつて母と共に訪れた「京料理 六盛」。もし母が生きていたら、この「スフレ」もきっと喜んだに違いありません。心和むやさしい味わいに浸たりながら、ふと過ぎ去った昔を思い出します。
四季を通じ散策におすすめの東山岡崎の琵琶湖疏水エリア。桜が緑の葉を茂らす美しい夏景色が今そこに…そんな散策の途中に、ぜひ味わいたい「一期一会」の極上の「スフレ」です。
*価格表示は、税込
京料理 六盛
京都市左京区岡崎西天王町71
☎075‐751‐6171
営業時間:11:30~14:00LO 16:00~20:00LO
土・日曜・祝日11:30~20:00LO(入店は19:00までに)
夜は、要予約
「スフレ&カフェコーナー茶庭」(京料理 六盛1階)は、14:00~17:00LO
月曜休み(不定休もあるので、HPで確認を)
小原誉子ブログ「ネコのミモロのJAPAN TRAVEL」