明治元年から150年となる今年、明治時代の華やかな皇室文化をテーマにした特別展「明治150年記念 華ひらく皇室文化―明治宮廷を彩る技と美―」が、11月25日まで「京都文化博物館」で開催されています。さっそく京都の三条通沿いにあるレンガ造りの洋館の博物館へと向かいます。
明治時代は、激動の時代。平安京から幕末まで京都で育まれた宮廷文化にも、大きな変革をもたらした時代です。東京にお移りになった明治天皇および、随行した皇族たちの暮らしは、それまでの平安時代から受け継がれた雅な日本の伝統文化から、西洋化された新たなライフスタイルへと急激な移行を遂げた時代でもあります。
和と洋の美が融合・混在した明治期の宮廷文化は、まさに華麗。その世界を見ることができるのが、この特別展なのです。3階と4階の展示スペースには、皇族の方々が愛用した品々をはじめ、大切に所蔵された品々などが並びます。そのすべてが、ため息が出るほどの美しさを湛えます。明治期に活躍した優れた職人や芸術家たちが惜しみなく持ちうる技を注ぎ込んだ珠玉の作品ばかりなのです。
この特別展は、名古屋、秋田、京都、そして東京でも開催されますが、それぞれの地域で展示内容および規模には、幾分違いがあるそう。11月25日までの「京都文化博物館」での特別展では、京都の美意識と技術を堪能できる作品に出会えるのも楽しみです。
例えば、日本の七宝の優れた技術をシカゴ万博博覧会で世界に知らしめた濤川惣助(なみかわそうすけ)の「富嶽図七宝額」や細密な表現に圧倒される並河靖之の「菊御門蝶松唐草七宝花瓶」をはじめとする、七宝、漆芸、陶芸などの珠玉の品々。そのすべてに見ることができる卓越した技術は、見る者に感動をもたらします。
「富嶽図七宝額」濤川惣助 明治26年 (東京国立博物館蔵)
また京都でしか鑑賞できない作品で、特筆すべきは重要文化財である「脇差」です。貞和年間(1345~50)に刀工 長谷部国重が手掛け、孝明天皇から岩倉具視に下賜された名刀です。「脇差」の総金具である「三所物」は後藤光文(みつとも)作。京都では、東京遷都以前の宮廷文化を物語る品々が展示されているので、京都に来たらぜひ鑑賞したいものなのです。
「脇差」刀工/長谷部国重 貞和年間(1345~50) (京都市歴史資料館蔵)
「三所物(脇差の総金具)」後藤光文 (京都市歴史資料館蔵)
京都だけの展示で、現存するとても稀な品も拝見できます。京都御所での孝明天皇の出産に用いられたと伝えられる「白絵松鶴図屏風」は、水辺に松、竹、鶴、亀を胡粉や雲母を用い白一色で描かれた白絵屏風です。天皇家をはじめ、公家や上流武家では、産所にこの屏風を立て、出産に魔を寄せ付けないことを願ったのだそう。本来、お産が終わると処分されたため、現存する貴重な品なのです。
「白絵松鶴図屏風 伝原在中」【右双】江戸後期(京都府 京都文化博物館管理)
さらに同じく白絵を施された白木の曲げ物の「御胞衣桶(おんえなおけ)」は、後産で体外に排出される胎盤や胎児を包んでいた膜などを納める桶。その後、地中に埋められたそう。このような宮中の出産に関する史料は、ほかでは見られないもの。
ほとんど一般の人々が知ることがなかった出産の習俗に関わる品に感激します。
「御胞衣桶一対」 江戸後期
次ページに続きます。
博物館に展示された作品は、本当にどれも素晴らしいものばかりで、時間が過ぎるのも忘れてしまいます。なかでも夢中になったのは、宮中の饗宴などの折に下賜される記念品で、掌にのるほど小さな「ボンボニエール」です。雅楽の楽器、祭礼の用具、宮中の身の回りの品々をはじめ、それぞれの時代を意識したテーマを精密な銀細工などで表現したミニチュア作品である「ボンボニエール」は、そのすべてが金平糖が入る容器になっていることに驚きます。これほど多くの作品が一度に見られるのは珍しいそう。
和船形ボンボニエール (学習院大学史料館蔵)
また訪れる女性たちが見惚れるのは、宮家の饗宴用の食器の数々。華やかなテーブルセッティングが、すぐ近くで鑑賞できます。
「正饗用食器・銀器」(有栖川宮家所用)明治20年ごろ
とてもこの場だけでは説明ができないほど、それぞれの作品は見事で、実際に見て頂き、その感動を味わって欲しいもの。まさに日本の最高峰の工芸作品である皇室ゆかりの作品は、見る者を魅了してやみません。
京都の秋の旅に、ぜひ訪れたい特別展です。
「明治150年記念 華ひらく皇室文化―明治宮廷を彩る技と美―」
11月25日まで「京都文化博物館」にて
京都市中京区三条高倉
075-222-0888
入館時間10:00~17:30 金曜は~19:00 月曜休館
小原誉子ブログ「ネコのミモロのJAPAN TRAVEL」
http://blog.goo.ne.jp/mimoron/