寺社部長の吉田さらさです。
上野公園ではいよいよ桜が咲き始め、3月26日より、東京国立博物館にて、特別展「国宝 東寺─空海と仏像曼荼羅」も始まりました。今回は、3月25日に開催された、この特別展の報道内覧会のレポートをお届けします。
この連載でも、第94回、第95回の2度にわたり東寺のご案内をしてきました。そちらでもお伝えしたように、今回の特別展では、東寺の講堂におられる立体曼荼羅と呼ばれる仏像群のうち15体が展示されます。
中でも、仏像界きってのイケメン仏と呼ばれる帝釈天騎象像(たいしゃくてんきぞうぞう)に人気が集まると思われますが、そもそも、その「立体曼荼羅」にはどんな意味があるのでしょうか。
この特別展は、空海が日本に伝えた密教の教えはどんなものなのか、その中で曼荼羅はどのような役割を持っていたのかなどが体感できる構成になっています。それらを順を追って見て行くことにより、なぜ空海が、仏像の形で立体的な曼荼羅を作ったのかがより深く理解できますので、じっくりご鑑賞ください。
まずは、第一章「空海と後七日御修法(ごしちにちみしほ)」から見て行きましょう。
重要文化財 弘法大師像(談義本尊)
鎌倉時代・14世紀 東寺展
(展示期間:3月26日(火)~4月21日(日))
こちらが中国で密教を学び、東寺や高野山を本拠地として、その教えを日本に広めた弘法大師空海です。
密教を理解するには造形物が必要であると考え、教えをビジュアルとして体感できる曼荼羅や仏像などの制作を指導しました。
国宝 風信帖(第一通)(部分)
空海筆 平安時代・9世紀 東寺蔵
(展示期間:3月26日(火)~5月19日(日))
「弘法も筆の誤り」という言葉もあるように、空海は書の名手でもありました。これは、天台宗を開いた最澄に宛てた3通の手紙が貼り継がれたものです。
空海は、承和2年(835年)に、宮中真言院において後七日御修法を始めました。明治時代以降、東寺で行われているこの儀式は、真言宗の中でもっとも重要な修法として、かたく秘されてきました。今回の特別展では、その修法が行われる時の堂内の様子が再現されています。
こちらがその修法を行う際の道場の再現です。
堂内には、二つの曼荼羅が、東西に向かい合わせに掛けられ、その前には法具が並べられた大壇が設けられています。
背後の壁には曼荼羅がかけられています。曼荼羅とは、この宇宙のどこにどんな仏様がいらっしゃるかを示した図で、儀式の際の礼拝の対象となります。右の写真が「胎蔵界曼荼羅」、左が「金剛界曼荼羅」。この二つを合わせて「両界曼荼羅」といい、真言密教の寺院には欠かせない要素のひとつです。
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第二章は「密教美術の至宝」です。
真言密教は、儀礼の際に、独特の造形物を使います。その代表的なものが、先に説明した「両界曼荼羅」です。曼荼羅は、大日如来という仏を中心として、多くの如来、菩薩、明王・天などを一定の位置に描いて世界観を表したものです。曼荼羅だけでなく、如来や菩薩などを別々に描いた絵も同様に重視されます。
重要文化財 蘇悉地儀軌契印図(そしつじぎきげいいんず)(部分)
中国・唐時代 東寺蔵
(展示期間:3月26日(火)~4月21日(日))
こちらは、ある儀礼を行う際に僧侶が結ぶ印(手の形)の作法を表したものです。このような図像も大切にされています。
重要文化財 両界曼荼羅図(甲本)胎蔵界
平安時代 建久2年(1191年)東寺蔵
(展示期間:3月26日(火)~4月7日(日) 、引き続き4月9日(火)~4月21日(日)の期間、「金剛界」が展示されます。
空海が師から贈られ、中国から持ち帰った曼荼羅は、根本曼荼羅としてもっとも大切にされましたが、破損が進み、二度転写本が作られたという記録が残っています。こちらはその二度めの転写本に相当すると見なされるもので、現存する東寺伝来の現図系曼荼羅の中では最古のものです。
第三章は「東寺の信仰と歴史」です。
こちらでは、まず、最初にあるこの仏像にご注目ください。
国宝 兜跋毘沙門天立像(とばつびしゃもんてんりゅうぞう)
中国 唐時代・8世紀 東寺蔵
中国の唐で作られて日本に伝来した像で、一般的な毘沙門天像とは見かけが異なっています。もともとは、東寺に近い平安京の正門である羅城門の楼上に祀られていましたが、羅城門が倒壊したため、東寺に移されたという伝承があります。中国では都を守護する存在として信仰されました。
国宝 武内宿禰坐像(たけうちのすくねざぞう)
平安時代・10世紀 東寺蔵
武内宿禰は古事記や日本書紀に出てくる神様で、神功皇后やその息子の応神天皇に仕えたとされます。応神天皇は八幡神と同一視されるため、この像も、東寺の鎮守である八幡宮に安置されていたとされます。もともと日本では、神様は目に見えないものとされたため像を作る習慣はありませんでしたが、仏像が伝来した影響で、同じような形の神像が作られるようになりました。しかし、神像を神社で見る機会はほとんどなく、特別展で見られるのはたいへんうれしいことです。
重要文化財 八部衆面のうち 阿修羅(左)天(右)
鎌倉時代・13世紀 東寺蔵
八部衆とは釈迦如来を守護する八人の神々のことで、舎利会という法会の際に、この面をつけた人々が、僧の乗る輿を担いで練り歩いたということです。写真の左側が阿修羅。有名な興福寺国宝館の阿修羅像と同じように、三つの顔があります。
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さて、いよいよ、第四章「曼荼羅の世界」です。
まずは、最初の部屋にある、こちらの5体の像をごらんください。
重要文化財 五大虚空蔵菩薩坐像(ごだいこくうぞうぼさつざぞう)
中国 唐時代・9世紀 東寺蔵
こちらは中国の唐から伝来した像で、5つの智慧を持つとされる虚空蔵菩薩を5方に配したものです。5体それぞれが、獅子、馬、クジャク、象、迦楼羅(ガルーダ、インドの神話に出てくる鳥の神様を元にした想像上の動物)に乗っている点に注目してください。この5体は、普段は東寺の子院である観智院に祀られていますが、すべて前を向いていて、動物の様子などを詳しく見ることができません。特別展では背後もよく見えてよいですね。
いよいよ、東寺講堂の立体曼荼羅21体のうち、15体が展示される部屋に入ります。
まずは、この像が目に飛び込んできます。
国宝 帝釈天騎象像(たいしゃくてんきぞうぞう)
平安時代・承和6年(839年)東寺蔵
これが、仏像界きってのイケメンと言われる帝釈天騎象像です。象にまたがった雄々しい姿と、きりりと引き締まった表情が大人気。お寺では限られた角度からしか見られませんが、特別展では、360度、ぐるっと回って見られます。その上、今回特別に、この像だけは撮影可能。憧れの帝釈天様と好きな角度からツーショットの写真が撮れるなんて夢のようですね。
ここまでは画像の曼荼羅をいくつか見てきましたが、立体曼荼羅は、そこに描かれた数々の仏をほぼ等身大の彫刻にしたものです。平面的な画像で見ていた仏が、いきなり生きているかのような姿で登場したのですから、当時の人々はどれだけ驚いたことでしょう。これによって、人々は、密教の教えをより身近なものとして理解できるようになったと思われます。
立体曼荼羅の仏の構成については、第94回でも説明しましたので、そちらを参照していただきたいのですが、全部で21体あります。そのうち15体がこの部屋に並んでいますが、一体ごとの間隔が大きく取ってあるので、ゆったり見られそうです。
立体曼荼羅の中でわたしがもっとも好きなのは5大明王。
その中心となる不動明王以外の4体が、特別展に展示されています。
国宝 大威徳明王騎牛像(だいいとくみょうおうきぎゅうぞう)
平安時代・承和6年(839年)東寺蔵
国宝 降三世明王立像(ごうざんぜみょうおうりゅうぞう)
平安時代・承和6年(839年)東寺蔵
こちらはその4体のうち2体。明王は、それぞれにとてもユニークな姿をしています。頭や手足の数が多い。印の結び方が独特。足で神様を踏んでいる。水牛にまたがっているなど、興味深い要素が数々あるので、つい見入ってしまいます。
音声ガイドのナビゲーターは佐々木蔵之介さん。東寺第256世長者様、執事長様による特別なお話や声明も聴けます。
ミュージアムショップで売られているオリジナルグッズもユニークです。
こちらは兜跋毘沙門天(とばつびしゃもんてん)の目の部分をモティーフにしたアイマスク。
繰り返し使えるカイロがついていて、お休み前のひとときに癒しをもたらしてくれます。使っている本人はいいけれど、家族の方は睨まれている気がするかも。
こちらは、四天王像が足で踏んでいる邪鬼をモティーフにしたポーチ。かわいいけど、何を入れるのだろう?
特別展 『国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅』
開催場所 : 東京国立博物館 平成館(上野公園)
開催期間 : 3月26日(火)~6月2日(日)
開館時間 : 9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで)
※会期中の金・土曜は21:00まで
休館日:月曜、5/7(火)
※ただし4/1(月)[東寺展会場のみ開館]、4/29(月・祝)、5/6(月・休)は開館
5周年記念企画「黒田知永子さん×吉田さらささん スペシャルトークショー@東寺展」に150組300名様をご招待します!
応募締め切り間近!(募集期間は終了しました)
~2019年4月1日9:00
※イベント詳細やご応募は、こちらへ。
(募集期間は終了しました)
吉田さらさ
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