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ゆかりの地で見る 珠玉の北斎コレクション

吉田さらさ

吉田さらさ

寺と神社の旅研究家。

女性誌の編集者を経て、寺社専門の文筆業を始める。各種講座の講師、寺社旅の案内人なども務めている。著書に「京都仏像を巡る旅」、「お江戸寺町散歩」(いずれも集英社be文庫)、「奈良、寺あそび 仏像ばなし」(岳陽舎)、「近江若狭の仏像」(JTBパブリッシング)など。

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こんにちは。寺社部長の吉田さらさです。

 

今回は、すみだ北斎美術館で現在開催中(~12月5日)の企画展「学者の愛したコレクション ―ピーター・モースと楢﨑宗重―」をご紹介いたします。

 

すみだ北斎美術館はとても楽しいところだという評判を聞いていたのですが、実際にうかがうのは、今回がはじめてでした。

 

墨田区は、江戸時代に数々の文化人、思想家、政治家などを輩出した場所で、日本が世界に誇る芸術家の葛飾北斎もそのひとりです。北斎さんは、ここ墨田区に生まれ、約90年の生涯に90回もの引っ越しをしたものの、ほとんどの住居は墨田区にあったとのこと。

 

また、墨田区内の名所旧跡を描いた作品も多いことから、この地に美術館が建てられました。つまりここは、江戸文化を今に伝えるスポットのひとつなのですが、建物はずいぶん現代的ですね。

 

この美術館は、北斎の研究者で、世界有数の北斎作品コレクターであったピーター・モース氏と、浮世絵研究の第一人者・楢﨑宗重氏の二大コレクションを所蔵しています。

 

今回は、その中から選りすぐりの作品が展示され、浮世絵ファンにとっては見逃せない内容になっています。

 

まずは、第一展示室のピーター・モースコレクションから見て行きましょう。

 

そもそも、そのピーター・モースさんはどんな方なのか。

われわれは、モースという名前を聞くと、大森貝塚を発見したエドワード・モースを思い浮かべるのですが、実はこの方は、そのモースの弟のひ孫にあたるそうです。そんなご縁もあって日本に興味を持っていたのか、北斎の魅力にとりつかれ、研究者となって大コレクションを築くに至りました。

 

1989年に東京で北斎の展覧会を開く際に多くの所蔵品を展示することになり、来日中に東京のホテルで急死されたとのこと。その後、コレクションは、墨田区が一括取得しました。

 

 

コレクションは多岐に渡りますが、今回は、「戸外の楽しみ」、「人々の暮らし」、「芸能を堪能」、「文学に親しむ」の四つのテーマに分けて厳選した作品が展示されます。

 

神田明神休茶屋 葛飾北斎 (すみだ北斎美術館蔵) 前期展示

 

飾った女性たちが楽しそうに歩いています。

江戸時代の神社仏閣は、信仰の対象だけでなく、行楽地という性質も持っていたのですね。

 

 

諸国名橋奇覧 かうつけ佐野ふなはしの古づ 葛飾北斎 

(すみだ北斎美術館蔵) 前期展示

 

絵が描かれた時点でもう存在していなかった珍しい橋。

船を並べてその上に橋を渡してあります。

果たして馬がこの橋を渡れたのかという疑問もありますが、現実を越えた想像上の世界と思うと興味深いです。

 

 

雪月花 隅田 葛飾北斎 (すみだ北斎美術館蔵) 前期展示

 

江戸時代、雪の日の隅田川はこんなに美しかったようです。

 

 

冨嶽三十六景 武州玉川 葛飾北斎 (すみだ北斎美術館蔵) 前期展示

 

多摩川の東京側から見た富士山。斬新な構図に驚かされます。

 

 

新板浮絵三芝居顔見世大入之図 葛飾北斎 (すみだ北斎美術館蔵) 前期展示

 

歌舞伎の顔見世興行に集まるたくさんの人々。

今の歌舞伎座前よりもにぎわっているように見えます。

 

 

百物語 しうねん 葛飾北斎(すみだ北斎美術館蔵) 前期展示

 

百物語とは、江戸時代に流行した怪談を語り合う遊びのこと。

執念深い蛇を描いたものでしょうか。

 

 

イルマ・E・グラブホーン 楢﨑宗重先生肖像画 (すみだ北斎美術館蔵) 通期展示

 

第二展示室は楢﨑宗重コレクション。

戦前より浮世絵雑誌の発行に携わり、浮世絵の研究を美術史の中で学問的に位置づけることに尽力なさった方です。北斎だけでなく、幅広い絵師の作品や、浮世絵ではない絵画も収集され、所蔵品は一括して墨田区に寄贈されました。

 

今回の展示品の一部には、楢﨑先生による解説も添えられ、いっそう興味深く見ることができます。

 

 

『冨嶽百景』初編 葛飾北斎 (すみだ北斎美術館蔵) 通期展示

 

楢﨑先生の解説には、冨嶽百景は北斎芸術の最高表現であったと書かれています。

 

 

雪の寺 川瀬巴水 (すみだ北斎美術館蔵) 前期展示

 

伝統的な浮世絵の技法を受け継ぎ、抒情的な日本の風景版画を制作した川瀬巴水の作品。

昭和初期に描かれた浅草寺の仁王門(現在の宝蔵門)です。

 

 

三宅康直像 高橋由一 通期展示

 

明治初期に描かれた油絵。

高橋由一と言えば「鮭」が有名ですが、こんな肖像画もあったのですね。

 

 

こちらの美術館は常設も面白い。

北斎さんの生涯と代表的な作品を、実物大の高精細レプリカやタッチパネルで順番に見られる形になっています。

 

こちらは晩年の北斎さんの制作風景をイメージした展示物です。

門人の一人がその様子を絵に描き残しており、それを基に作られたとのこと。背後にいる女性は娘の阿栄さんです。この方も優れた絵師だったと言われます。

 

 

錦絵ができるまでの工程を学べるコーナーもあります。

 

 

葛飾北斎の生涯と墨田区のかかわりについて学べるこの美術館。

近くには、江戸東京博物館もあるので、双方訪ねると、江戸時代の文化についてより深く知ることができます。

ぜひゆっくりと、両国散歩を楽しんでください。

 

 

すみだ北斎美術館 公式サイト

 

企画展 

学者の愛したコレクション ─ピーター・モースと楢﨑宗重─

2021年10月12日(火) 〜 2021年12月5日(日)

 

詳細はこちらをごらんください。

 

 

𠮷田さらさ 公式サイト

http://home.c01.itscom.net/sarasa/

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