こんにちは。寺社部長の吉田さらさです。
春が来て、東京の美術館では、次々に新しい展覧会が始まっています。
今回は、その中でも、特に華やかで春らしい「ダミアン・ハースト 桜」(国立新美術館 ~2022年5月23日〈月〉)をご案内します。
ダミアン・ハーストは、イギリスを代表する現代作家で、絵画、彫刻、インスタレーションなどさまざまな手法を使い、芸術、宗教、科学、生と死など、幅広いテーマを追求する作品を作り続けてきました。
〈桜〉のシリーズは、19世紀のポスト印象派や20世紀のアクション・ペインティングなど、過去の西洋絵画の手法を独自に解釈し、ダイナミックで色彩豊かな風景画を描き出したものです。
近年、現代美術の展覧会では、伝統的な絵画を見る機会が少なくなっていますが、この展覧会は絵画のみ、しかも、テーマが理解しやすく、ストレートに「美しい」と思える点がとても斬新に思えました。
〈桜〉のシリーズは、2018年から3年をかけて制作されたもので、2020年に107点にも及ぶ大画面の連作が完成しました。2021年、パリのカルティエ現代美術財団での個展で、そのうち29点が初公開されました。
そして今回、国立新美術館の空間に合わせた24点を作家自らが選び、展示されることになったのです。
会期の一部は、ちょうど桜が咲く時期です。美術館の外にも、向かう道筋にも桜がいっぱい。
日本人のわたしたちにとって、桜は、その存在意義を語る必要がないほど馴染み深いものですが、外国人の芸術家は、桜を描くことで、何を伝えようとしているのでしょうか。
ダミアン・ハーストは「〈桜〉のシリーズは、美と生と死についての作品なんだ」と語っており、その言葉からは、西行の「願はくは花の下にて春死なむ」が思い出されます。桜の木の下には死体が埋まっているからあんなに美しく咲くのだと言う人もいます。これは日本人独特の感覚かと思っておりましたが、ここに並ぶ作品群からは、確かに、咲き誇る桜が持つそこはかとない怖さも感じられます。
大量の絵具を筆に含ませ、キャンバスに向かって投げつけると、このよう立体感のある点描になります。
それだけではなく、直接筆で描いたり、葉の形をしたこてのようなものに絵具をたっぷり塗ってキャンバスに押し付けるという手法もあります。作品制作の過程は、展示室内や公式サイト内の映像で見ることができます。
絵によって、使う色も微妙に違います。
助手もいて、「この部分にもっと白い点を描け」というような指示もします。
しかし、自然界のものを描いているので、規則的に色の点を並べることはしません。ある部分には10個の白の点があり、ある部分にはまったくなかったりします。
それが自然というものだからです。
ピンクや白の花の下には、濃い色で幹や枝が描かれています。その枝ぶりは、ゴッホの桜の絵を思い起こさせます。そしてそれは、ゴッホが愛した浮世絵にもつながっていきます。
そして、これはまるで西洋式の桜の屛風絵みたいだなとも思いました。
桜の愛で方を一番よく知っている国でこの作品群を見られるのは、本当に幸せなことです。
ダミアン・ハースト 桜
国立新美術館 2022年3月2日(水)~5月23日(月)
詳細は公式ウェブサイトをごらんください。
𠮷田さらさ 公式サイト
http://home.c01.itscom.net/
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