第50回
「川島織物文化館」
「こうやって、日本画を織物にしてゆくんですね~すごい!」と、
初めて知った工程に驚き、思わず声が…。
拝見したのは「織下絵」という織物の設計図のような絵です。
天保14年(1834)創業の日本を代表する織物メーカーである「川島織物セルコン」。二代目の川島甚兵衞氏が、明治22年(1889)に三条高倉に建てた洋館をルーツとする「川島織物文化館」は、国内最古の企業博物館と言われます。
本社および工場がある左京区市原の「川島織物文化館」では、企画展「歴代川島甚兵衞の情熱がやどる 織物のための屏風絵」展を開催中。織物の製作過程の高い技術を知ることができる貴重な展示で、まさに他では見ることができないものと言えましょう。
(2023年6月2日まで)
明治となった日本は、急速な西洋化が暮らしの中にも訪れます。
その一つが、洋風建築で、従来の日本家屋の襖絵や屏風とは異なる壁面、カーテン、椅子やソファなどの織物の室内装飾が求められることに。
織物の室内装飾全般を手掛けた「川島織物」。
その製品は、日本の近代の歴史的な建造物などに今も見ることができます。
今回、展示に登場するのは屏風絵の織物に関する資料。
視線が高くなる椅子での暮らしにマッチした壁面装飾に、二代目 川島甚兵衞氏は、日本の美意識を表現する屏風スタイルの室内装飾を考案。そのために、図案の製作をはじめ、織物であっても、その図案の風情をそのままに写した精巧で緻密な織物技術の開発などに情熱を注ぎます。その技術と情熱は、歴代当主の川島甚兵衞に受け継がれ、今日の「川島織物セルコン」の高い技術へと繋がっているのです。
例えば、明治から昭和初期に京都画壇で活躍した日本画家の川北霞峰による「百菊図」。
この屏風絵の原画を織物にするために作られたのが、「織下絵」です。
「織下絵を描くためにも高い技術が必要なんです」と館長の辻本憲志さん。
ところで反転した下絵の図案ですが、綴織の場合、織機の経糸の上で見られるのは、織物の裏側で、よく織り手は、手鏡で経糸の下の部分を確認しながら作業しています。つまり織り上がるものは、原画と同じ向きになるのです。
「あの~この織物の現物はないんですか?」と伺うと、「この「百菊図」の織物は、宮内省にお買い上げいただきました。当社には、完成品が残ることはないので、製作資料だけです」とのこと。
いつか現物が見たいもの…。
でも貴重な製作資料が見られるのは、企業博物館ならではの魅力です。
また、別の展示室では、「昭和のはじめを駆け抜けた とっておきの一着」という昭和初期から中期の晴れ着や帯などの企画展も2023年1月31日まで開催されています。
「これは、きもの研究家の草柳アキ(旧姓:石川あき)さんからご寄贈頂いた約240点の和装品の一部です」と。
2007年に亡くなったアキさん。ご存命中に、まとめて寄贈頂けたことは、和装文化を後世に語り継ぐために本当にありがたいこと。奈良で代々医師を務めた名家の石川家には、当時、毎月のように大阪から呉服商が御用聞きに訪れたそう。そこで誂えた着物や帯の数々。
それらは、アキさんのおばあ様とお母さまをはじめ、石川家の女性たちが愛した着物の歴史を知る貴重な品々であり、昭和の着物文化が伺える資料的な価値も高いものばかりです。図柄には、戦争に飲み込まれていく女性たちの無言の抵抗ともいえる着物も見られます。
展示の中で、ひときわ目を引く赤い着物。
「なんか小さい気がしますが、子供用ですか?」と伺うと、「いいえ、長襦袢なんです」と辻本さん。
絞りの技法をふんだんに施した長襦袢は、まさにわずかしか外に見えない究極の贅沢なおしゃれ。
同じく、やはり少し小さく感じる着物が…。
「素敵な模様ですね~」というと、「これは下着物といって、長襦袢と黒留袖、振袖袴などの間に着用していたようです」と教えてくださいました。「そういう風に着るものなんですね~」とひとり納得する私でした。
会場の奥に展示されていたのは、これまた豪華な帯。
「実はこれは丸帯といって、昭和の初めに川島織物が作ったもので、お里帰りした帯になりますね。当時の職人の技がよくわかる貴重な品です」と辻本さん。
丸帯とは、幅広の帯を織り上げ、それを二つ折りにして縁を縫い、袋帯のようにする帯で、江戸時代から昭和の中期まで、第一礼装の帯として用いられた格式の高い帯だそう。
袋帯との違いは、帯の表裏の両面が同じ模様になることで、豪華である反面、重くなってしまうことから、近年は、婚礼衣裳など以外は一般の人が締めることは、極めて少ないということでした。
館内では、明治時代に撮影された写真展「明治の世界へのタイムスリップ 写真で楽しむ時間旅行」(2022年11月18日まで)も開催され、こちらも興味惹かれる展示がいろいろ。
歴史好きには、見逃せない写真で、時間が経つのを忘れます。
また、隣接する建物にはショップがあり、ここだけでしか手に入らない川島織物オリジナルの織物を表紙にした「御朱印帳」(3,000円税込)は、品格漂う特別感にあふれる品です。
京都の企業博物館のひとつ「川島織物文化館」へ、京都旅で、ぜひ訪れてはいかがでしょうか?
着物好きだけでなく、歴史やものづくりに関心のある方にも、ぜひおすすめしたい展示です。
見学には、事前予約が必要。入館料は無料です。
開館は10:00から16:30まで(入館は16:00まで)
休館日:土・日曜・祝日 夏期・年末年始(川島織物セルコン休業日)
「川島織物文化館」
京都市左京区静市市原町265
☎075-741-4323
交通:叡山電車「市原駅」下車徒歩約7分
京都の文化・観光を伝えるブログ「ネコのミモロのJAPAN TRAVEL」