こんにちは、寺社部長の吉田さらさです。
今回は、大阪にある素晴らしい建造物を見に行くお話です。
フンデルトヴァッサーというウィーンの芸術家をご存じでしょうか。
1928年生まれ。画家、建築家、商業アーティストとして活躍し、「ウィーンのガウディ」と呼ばれることもあります。フンデルトは「百」、ヴァッサーは「水」。
日本との関係も深かったため、「百水」という雅号も持っていました。
ウィーンでこの「フンデルトヴァッサーハウス」を訪ねた方もいるでしょう。ここはウィーンの市営住宅で、今も一般の人々が暮らすアパートであると同時に観光名所でもあります。
そのすぐ近くに、フンデルトヴァッサー自身が家具の工場を改築して作った美術館「クンストハウス・ウィーン」もあります。そこにはカフェやショップも併設され、世界中からアート好きが集まって来ます。わたしも数年前に行き、フンデルトヴァッサーが作り出す奥深い世界感に魅せられました。そして、このアーティストの代表的な作品が大阪にもあることを知ったのです。
大阪市中心部から、電車とバスを乗り継いで、人口島の舞洲(まいしま)に行きます。
すると、このようにカラフルで不思議な形の巨大建造物が忽然と現れます。これがフンデルトヴァッサーの作品です。他に類を見ない個性的な建物ですが、さて、用途はなんでしょう。
実はこれ、大阪市環境局によって建設されたごみ焼却場で、2001年に竣工。
「大阪広域環境施設組合舞洲工場」が正式名称です。
近寄って細部を見ると、さらに驚きます。さまざまな形、色が組み合わされた複雑なデザインで、同じパターンの繰り返しがほとんどありません。作品として見ても素晴らしいものですが、そもそもなぜフンデルトヴァッサーは、一見芸術の範疇からかけ離れたごみ焼却場の設計をすることになったのでしょう。
この舞洲地区はスポーツアイランドとして開発されており、ユニバーサルスタジオ・ジャパンの近くでもあり目立つ存在となります。大阪市は、従来のごみ焼却場が持つ「迷惑施設」というようなネガティブなイメージを一新するため、舞洲の開発コンセプトと合致する作風や思想を持つフンデルトヴァッサーにデザインを依頼することにしたのです。
実はフンデルトワッサーは、それ以前にもウィーンのごみ焼却場を設計していました。
1989年に建てられたシュピッテラウ焼却場です。その施設は外観が画期的なだけでなく、ごみの焼却によって生成されるエネルギーを再利用するシステムでも時代を先取りしていました。フンデルトヴァッサーは自然と人間の調和をテーマとしており、こちらと大阪のごみ焼却場は、「技術、エコロジーと芸術の調和」をコンセプトにデザインされた、貴重な文化遺産でもあるのです。
建物の外観だけでも見ごたえがありますが、事前に申し込めば個人でも内部を見学できます。フンデルトヴァッサーについてだけでなく、ごみ焼却の工程も詳しく説明していただけて、とても勉強になります。
エントランスに入ってまずびっくり。エレベーターの扉までもがアーティスティックです。
通路には、複製ではありますが、フンデルトヴァッサーの作品が数々展示されています。
まるでちょっとした美術館のようです。
こちらは渡り廊下。よく見ると、真っすぐな線がありません。床の両端に敷き詰められたタイルも形や大きさが微妙に違います。
これは「自然界には直線や同一なものはひとつもない」というフンデルトヴァッサーの思想に基づいたものです。
こちらは舞洲工場の外観の模型です。
実物はあまりにも大きくて全体像がつかみにくいのですが、模型で見ると、いかにユニークな形の建物であるかがわかります。現代のビルは主に直線の組み合わせで作られますが、この建物はほとんどが曲線で作られています。屋上部分を含めて、建物のいたるところに植物があるのも特徴です。
これも、「建物を作ることは自然破壊につながるので、それを補うために、建物周辺にはできる限り樹木を植えなければいけない」というフンデルトヴァッサーの思想を反映しています。
こちらは建物内部の工場の模型です。
見学コースでは、この中を順に歩きながら、地球環境に配慮したごみの処理方法についての説明をしていただきます。ごみ焼却場に関しては、「臭い、有害な煙が出る」などのネガティブなイメージを持つ人もいますが、それはもう昔のこと。こちらの施設では、有害物質やにおいは焼却の過程で完全に除去されるため、大気を汚染することはありません。
また、焼却によって生まれた蒸気を利用して発電し、工場内で使用する電力がまかなわれており、エコロジーの観点でも優れています。現代のごみ焼却場は、SDGsを推進する最先端の施設なのです。
いよいよごみ処理の過程を見て行きます。家庭から出る燃えるごみを積んだトラックがやってきました。
まずここで全体の重量を量り、ごみを降ろしてから再び量ると、積んできたごみの重量がわかります。
トラックが積んできたごみはごみピットに投入され、巨大なクレーンでつかんでごみ焼却炉に運ばれます。クレーンは広げると直径が5.7mにもなり、収集トラックの6台分ほどのごみを運ぶことができます。
この時点では、ごみピットの内部の空気はごみの臭気を含んでいますが、空気予熱器に送られて加熱され、燃焼用空気としてごみ焼却炉に運ばれます。
焼却炉では、まず、ごみを乾燥します。写真の左側が実際の家庭ごみを乾燥させたものです。
その後高温で焼却すると、右側のような灰になります。重量は5分の1、容積は15分の1~20分の1ほどに減っています。焼却の際に出た燃焼ガスは、ろ過して、ばいじん、塩化水素、硫黄酸化物、窒素酸化物などを除去します。
こうしてきれいになった排ガスは、てっぺんに金の玉があるあのユニークな煙突に送られ、大気中に放出されます。すでに有害物質は含まれておらず、色も臭いもなく、目には見えません。
こうしてできた灰は、いったん灰ピットに投入され、運び出されて、埋め立て地に送られます。この施設がある舞洲自体も、このような手順で埋め立てられた人口島です。
焼却によって生じた水蒸気は蒸気タービン発電機に送られます。
ここでは蒸気の力によって羽根車を回すことにより発電が行われます。こうしてできた電気は工場内で使用されるほか、余った場合は電力会社にも送られます。
ちなみにこの時は、9780kwの電気ができていました。
目から鱗のリサイクルシステムですね。
もうひとつ、粗大ごみの処理を行う設備もあります。
まず不燃性のものと可燃性のものに分けられ、不燃性のものは15㎝以下、可燃性のものは40㎝以下に粉砕。不燃性のもののうち、鉄とアルミニウムは選別され、リサイクルされます。
ここで見ていると、まだ使えそうな自転車やマットレス、タンスなどがたくさん捨てられていることがわかります。今後は粗大ごみを出す前に、リサイクルの方法はないかよく考えてからにしたいと思いました。
こちらは建物の2階部分にある庭園です。
フンデルトヴァッサーの思想にしたがって植栽が多く、素敵な一角となっています。一見、おとぎ話に出てくる魔法の国のようでありながら、実は現代のテクノロジーと融合して市民生活を快適にし、かつ地球環境を守るためのリサイクルシステムが確立された素晴らしい施設です。じっくり見学させていただき、大阪市の先見の明に驚かされました。普段あまり意識しないごみについても、深く考える機会となりました。
フンデルトヴァッサーは、この建物の完成を待たずして2000年に亡くなってしまったのですが、21世紀の地球を守るための大切なメッセージを残してくれました。「自然と人間の調和」。シンプルな言葉ですが、実現していくのはとても難しい。
しかし、テクノロジーをうまく使えばそれが不可能ではないことを、このゴミ焼却場が教えてくれているのではないでしょうか。
大阪広域環境施設組合 舞洲工場
●見学の申し込みはこちらからできます。
●予約不要のオープンデーもあります。令和5年3月4日(土)に実施予定です。
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