こんにちは。寺社部長の吉田さらさです。
今回は、東京国立近代美術館で現在開催中(~2023年9月10日〈日〉)の企画展「ガウディとサグラダ・ファミリア展」をご紹介します。
わたしのまわりにもサグラダ・ファミリア聖堂に行ったことがある人がたくさんおり、「わたしが行ったときはまだ工事現場みたいだったわ」、「永遠に未完成なのでしょう?」、「少なくとも自分が生きているうちには絶対に完成しないはずよ」などと言うことが多いです。
しかし、実はこの聖堂の完成はもう見えてきたのです。ガウディが他界してから100年後に当たる2026年の完成を目指していたのですが、コロナ禍によって予定が狂いました。
しかし、中央の6基の塔のうち1基が2021年に、4基が2022~23年に完成し、残る1基も2026年に完成が見込まれています。わたしはコロナ禍直前の2019年秋に行き、もうかなり形ができているようだと思ったものです。しかし、実際にはあれからさらに5つもの塔が建ったのですね。人類の大きな試練だったこの数年間にも工事がどんどん進んでいたなんて、なんだか感慨深いです。
ガウディと言えばサグラダ・ファミリア聖堂が代表作ですが、バルセロナには、グエル公園、カサ・バッリョ、カサ・ミラなど数々の魅力的な作品も残されています。どれもユニークでありながら独特の世界感を表現する不思議な建造物ばかりで、ガウディという人の頭の中はいったいどうなっているのかと思わずにはいられません。
今回の展覧会は、そうした建築群を網羅するものではなく、サクラダ・ファミリア聖堂に焦点を絞って、ガウディの建築思想と造形原理を読み解くものです。建造物に関する展覧会なので、もちろん実物を見られるわけではありませんが、模型、写真、スケッチ、図版などから多角的にサグラダ・ファミリア聖堂とそれを作ったガウディの考え方について知ることができます。
今回は、特にドローン撮影による映像が興味深かったです。空から塔を見下ろすアングルでの映像は、現地に行っても見ることはできませんからね。
展示は4章に分かれます。
第1章は「ガウディとその時代」
ガウディはどんな人だったのか。若いころは何を学び、どんな活動をしていたのかに関する資料が展示されます。
ガウディは1852年に生まれ、バルセロナ市内に点在する数々の独創的な建造物を作る傍ら、1883年から1926年までの約40年間、サグラダ・ファミリア聖堂の建設に心血を注ぎました。1926年の6月に、敷石に躓いて転び、路面電車にはねられて3日後に死去。身なりがみすぼらしかったのでホームレスと間違われて病院搬送が遅れたとのことです。しかし、その葬儀にはバルセロナの市民が多数参列し、偉大な建築家の死を悼みました。
第2章は「ガウディの創造の源泉」
スペイン特有のイスラム建築、中世ゴシック建築、植物、生き物などの自然物などが、ガウディの独自な世界感に大きな影響を与えました。
代表作グエル公園のタイル装飾のピース。割れたタイルによるモザイクは、ガウディ建築の特徴のひとつです。あの壮大な公園を埋め尽くすオブジェの数々がこのような細かな作業ででき上がっているとは驚きです。
ガウディは自ら設計する建物の装飾に自然の要素を取り入れました。身の回りにある植物を観察し、その美しい形をモティーフとしたのです。
こちらは棕櫚の葉のモティーフの模型で、建物の鉄柵に使われました。
1890年、バルセロナから少し離れた場所に繊維工場とそこで働く人々のための施設が造られ、ガウディは教会堂の設計を依頼されました。1898年に着手しましたが、完璧な建物を作るための実験に10年間もの月日を費やし、着手されたのは1908年。1914年、サグラダ・ファミリア聖堂建設に専念するためこちらの建設を中断し、そのまま未完の作品となっています。
地上に建つはずだった教会は造られず、ガウディが唯一講堂として造った半地下の部分が礼拝堂に転用されており、現在はこの部分が見学できます。これだけでも十分素敵な空間になっているのですが、実際にはこの上に壮麗な建物が建つ予定だったのですね。
こちらが、ガウディがその際に行った「逆さ吊り実験」の模型です。紐の先におもりをつけて逆さに吊ると、ガウディが理想とするパラボラ(放物線アーチ)の形に垂れ下がります。この形を組み合わせて、釣り合いが取れた建物を作るという手順です。
これを逆さにして見ると、いくつものパラボラ型の塔が聳える教会の形が想像できますね。この教会堂は未完に終わりましたが、確かにサグラダ・ファミリア聖堂の壮麗な姿にもつながっているように思えます。
第3章は「サグラダ・ファミリアの軌跡」です。
実はこの聖堂の建設計画は、ガウディが二代目の建築家に就任する以前からありました。この章では、その時代から現在までのサグラダ・ファミリア聖堂の変遷を模型や写真、スケッチ、設計図などで詳細に見ていくことができます。
枝分かれする高い円柱が無数に並び、まるで太古の森のようです。
自然との一体化がガウディの特徴のひとつであることが、ここでもよくわかります。
ガウディは自ら彫刻も制作しました。建築と同じように独自の手法を用い、より写実的な表現を追求するために、人体を仔細に観察。さまざまな角度から撮影もして、型取り像を制作しました。
こちらはその際に作られた石膏像の断片です。石膏像はいったん実際の場所に設置され、この形でよいかどうかの検討と修正が施されました。その後石膏像は分割され、最終的な石像を造るために転用されます。
外尾悦郎氏は、1978年以来、サグラダ・ファミリア聖堂で彫刻の制作を担当してきた日本人として著名な方です。こちらはガウディの写実彫刻の復元彫刻で、今回は、その石膏像が展示されています。
本展の内覧会には、外尾氏ご本人も登場。
ガウディとサグラダ・ファミリア聖堂への愛にあふれるお話をうかがうことができました。
第4章は「ガウディの遺伝子」
この章では、ガウディが後世に与えた影響が、主に写真で紹介されます。現代建築にもガウディ的な要素が多々見られるようで、西新宿の「モード学園コクーンタワー」の写真があって驚きました。
日常的に目にしていながら、ガウディの影響であのような形になったとは、まったく気づいていませんでした。言われてみれば、確かにあのビルは、パラボラ型の塔に似ています。
企画展「ガウディとサグラダ・ファミリア展」
東京国立近代美術館 2023年6月13日(火)~9月10日(日)
佐川美術館(滋賀県) 2023年9月30日(土)~12月3日(日)
名古屋市美術館(愛知県)2023年12月19日(火)~2024年3月10日(日)
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