こんにちは、寺社部長の吉田さらさです。
今回は東京国立博物館で開催中(~2024年6月9日〈月〉)の特別展『法然と極楽浄土』をご紹介します。
人は誰でも死が恐いものですが、それは死んだ先に自分がどうなるのかわからないから。現代人も昔の人もその点は同じらしく、今から850年前に、その疑問に答えてくれた人がいました。それが今回の展覧会の主役の法然上人です。この方は1133年に今の岡山県に生まれたお坊さんで、1175年に『浄土宗』と呼ばれる仏教の新しい宗派を開きました。
特別展『法然と極楽浄土』は、そこから数えて850年の節目を記念して開催されるものです。法然と浄土宗にまつわる数々の芸術品を見ていくうちに、人は死ぬとどうなるのか、死んでから行くとされる極楽浄土がどんなところなのかがわかり、不思議に死が恐くなくなるのです。
最初に知っておくべきは、浄土宗とはどんな宗派なのかということです。
法然が活躍したのは平安時代末期、内乱や災害・疫病などが続き、人々は疲弊していました。法然は比叡山延暦寺で学び、中国唐代の善導という僧の教えに接して、「南無阿弥陀仏」という念仏を唱えることによって誰もが阿弥陀如来に救われて極楽浄土に行けると説きました。それが浄土宗の始まりです。
「南無」とは信じて帰依するという意味、阿弥陀仏は極楽浄土を司る仏様です。阿弥陀如来を信じて毎日「南無阿弥陀仏」と唱えていれば、阿弥陀様がお迎えに来てくれて、死後極楽浄土に行ける。なんとわかりやすい考え方でしょう。その教えは貴族から庶民にまで広まり、現在も受け継がれています。
こちらが法然上人です。
ふっくらと優しいお顔立ち、落ち着いた穏やかな表情が印象的。各宗派の開祖や著名な僧侶の像はより古くからある肖像画などに基づいて制作されることが多いので、実際に本人の特徴を伝えているのではないかと思います。
こちらは裸体の像で、実際の布で作られた袈裟を着ています。
造られたのは前の像より前ですが、お顔は前の像より少し年を取った様子に表現されています。手に持っている数珠は、唱えた念仏の回数を数えるためのものです。
仏陀の涅槃像は煩悩が消えた状態とされるため、それ自体が信仰の対象とされました。日本では、彫刻よりも絵画でよく見られます。
これは珍しい彫刻の涅槃像で、かつ10センチほどという小さな姿がとても貴重。胸の部分に薄い水晶がはめ込まれ、肌が輝いて見えます。誰か高貴な方が肌身離さず持っていたものかも知れませんね。
法然の主著で浄土宗の根本聖典。冒頭の二十一文字が法然の直筆とされています。
法然上人の生涯を描いた絵巻で、全部で48巻もあります。
こちらはその巻第六の一部で、吉水というところで説法をする法然上人の様子が描かれています。
法然上人の生誕の地として信仰されてきた岡山県の誕生寺に伝わる端正な阿弥陀如来立像。
仏師快慶が好んで制作した安阿弥様(あんなみよう)と呼ばれる様式を踏襲した像です。
上の阿弥陀如来立像の内部に納められていた約千枚の印仏の一部。多くの人の願文や名前などが記されています。
それだけたくさんの人の願いによって造られた阿弥陀様なのでしょうね。
阿弥陀如来は両脇に観音菩薩、勢至菩薩を従えた三尊形式であるのが一般的です。こちらの像もその一種ですが、三体の像がひとつの光背の中に立つ『一光三尊』という形式であることと、観音菩薩、勢至菩薩が両手を重ねるようなポーズであることが特徴です。
これは『善光寺式』といって、長野県の善光寺本尊と同じ形式です。善光寺の本尊は絶対の秘仏ですが、その姿を摸刻した像が盛んに造られ、各地に広まりました。
山のかなたに出現し、亡くなった人を極楽へと導いてくれる阿弥陀如来とその脇侍、観音菩薩と勢至菩薩が描かれた屛風。阿弥陀様の手のあたりに糸の痕跡があります。この糸は本当はもっと長く、死に近づいた人が糸のもう一方の端を持ち、阿弥陀様に導かれて極楽浄土に行くことを願うために使われたものである可能性が高いとのこと。
なるほど、このようにして阿弥陀様とつながった形でお迎えしていただければ、死も恐くないわけですね。右下に展示されているのは、この目的のために用意された五色の糸とその由来書です。
東京初公開。浄土教における三大聖典の一つ『観無量寿経』で説かれている西方浄土の世界を描いた壮大で精密な綴織りの曼陀羅。中将姫が蓮糸で織り上げたという伝説がよく知られています。
経年による褪色や消失が進み、よくよく見ないと何が描かれているのかはわかりません。
しかし、東京で公開されるのは今回がはじめてという貴重な国宝です。
展示期間も短いのでお急ぎください。
中世以降、當麻曼陀羅を写した絵画がよく制作されました。これはそのひとつです。
本物の當麻曼陀羅と比べて、かなり細部がわかる状態です。
なるほど、極楽浄土とはこういうところなのか。
阿弥陀如来が二十五人の菩薩を引き連れ、雲に乗って、亡くなった人をお迎えに来てくれる様子が描かれています。高いところから一気に降りて来る構図はスピード感に満ち、死んだらただちに極楽に行けるのだなという安心感を与えてくれます。菩薩たちは、さまざまな楽器を持って、妙なる音楽を奏でてくれています。
しかし、こんな素晴らしいお迎えをしてもらえるのは特別に徳が高かった人だけ。お迎えの仕方は、生前のその人の行いによって、いろいろな段階があるのです。
徳川家康が浄土宗を厚く信仰していたため、江戸時代は、関東でも浄土宗が隆盛しました。徳川家の菩提寺のひとつである増上寺には、かつては、日光東照宮のような華麗な建物が建ち並んでいたのです。
こちらはその増上寺が保有する大迫力の五百羅漢図。全部で100幅あるうちの24幅が展示されています。
法然寺は高松藩初代藩主の松平頼重が造営した寺です。その境内にある三仏堂には、82体にも及ぶ涅槃の群像があり、今回は、そのうちの26体が展示されています。真ん中に横たわる釈迦像だけでも282cm。あまりのスケールと迫力に息を飲みます。
その上、これらの像の前に立って記念撮影も可能。これまでさまざまな地方の仏像を見てきましたが、この群像の存在は写真でも見たことがなく、今回はじめて見て驚きました。
音声ガイドは松本幸四郎さんと市川染五郎さん。
父子の掛け合いで詳しく解説してくれます。これは必聴ですね。
オリジナルグッズもたいへん充実しています。
中でも目を引いたのは極楽Tシャツと極楽洗面器。
自宅での入浴やくつろぎタイムを極楽浄土気分にしてくれる逸品です。
特別展『法然と極楽浄土』
※会期中、一部展示替えがあります。また、会場により一部展示物が変わります。
東京国立博物館 2024年4月16日(火)~6月9日(日)
京都国立博物館 2024年10月8日(火)~12月1日(日)
九州国立博物館 2025年10月7日(火)~11月30日(日)
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