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三つの都市のアートを同時に鑑賞 TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション

吉田さらさ

吉田さらさ

寺と神社の旅研究家。

女性誌の編集者を経て、寺社専門の文筆業を始める。各種講座の講師、寺社旅の案内人なども務めている。著書に「京都仏像を巡る旅」、「お江戸寺町散歩」(いずれも集英社be文庫)、「奈良、寺あそび 仏像ばなし」(岳陽舎)、「近江若狭の仏像」(JTBパブリッシング)など。

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こんにちは、寺社部長の吉田さらさです。

 

今回は、これまで見たことのない視点のモダンアートの展覧会、『TRIO  パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション』(東京都国立近代美術館 2024年5月21日〈火〉~8月25日〈日〉)をご紹介します。

最初に聞いた時は、「なんだか不思議なタイトルだな。なぜこの3都市がトリオなのかよくわからない」と思ったのですが、実際に見てみるととても面白く、楽しく鑑賞できました。

パリ市立近代美術館、東京国立近代美術館、大阪中之島美術館。オープンした時代は違いますが、いずれも膨大なモダンアートのコレクションを持つ都市型美術館です。

 

この3館をトリオと捉え、特定のテーマに沿った作品3点がそれぞれの美術館の所蔵品の中から選ばれ、並べて展示されています。どのテーマに関しても3点の作品があり、それもTRIO。しかもそのテーマは、たとえば『印象派』というような美術史上のカテゴリ―分けではなく、また描かれた地域や時代ともほぼ無関係。その絵に描かれているものに何らかの共通点があるとか、見る者がその絵から似通った何かを感じるなど、美術に関する詳しい知識がなくとも、ぱっと見て理解できる内容が中心です。

 

人が絵を見る時、まず自分がその絵を好きかどうか、見て何を感じるかが先であり、その絵を描いたのが印象派に属する画家であるというような点はあとから知ることですよね。そういった意味で、これは絵を見る際の基本に立ち返らせてくれる展覧会だと思います。

 

「TRIO  パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」

(東京国立近代美術館)展示風景

 

トリオ、テーマ「コレクションのはじまり」より

(右)安井曽太郎《金蓉》1934年 東京国立近代美術館

(中)ロベール・ドローネー《燭台の前の裸婦(読書する女》1915年 パリ市立近代美術館

(左)佐伯祐三《郵便配達夫》1928年 大阪中之島美術館

 

3館の美術館のコレクションの始まりとなった作品たち。

東京は近代日本の洋画を代表する安井曽太郎。パリからは、20世紀前半の抽象美術をけん引したロベール・ドローネー。大阪からは、大阪出身でパリにてその特異な才能を開花させた佐伯祐三。大阪中之島美術館は佐伯祐三の作品を多く所蔵していることでも有名で、今回も何点か展示されています。

個人的に佐伯の大ファンなので、そういった点でも今回の展覧会がうれしいです。

 

 

展示風景

 

トリオ、テーマ「川のある都市風景」より

(右)アルベール・マルケ《雪のノートルダム大聖堂、パリ》1912年頃 パリ市立近代美術館

(中)小出楢重《街景》1925年 大阪中之島美術館

(左)小泉葵巳男《「昭和東京百絵図」より、15.関口・大滝》、《「昭和東京百絵図」より、30.聖橋》、《「昭和東京百絵図」より、79.春雨降る平川門》

1931年~1936年 東京国立近代美術館 前期展示

 

これもとても興味深いトリオです。セーヌ川とノートルダム大聖堂はパリを代表する風景。

小出が描く大阪は、工場が建ち並び、まるでどこかヨーロッパの街のよう。小泉の作品は関東大震災から復興してモダン都市に変貌していく東京の橋を描いた連作版画です。川と橋がある風景がそれぞれの都市の歴史を物語ります。

 

 

展示風景

 

トリオ、テーマ「都市の遊歩者」より

(右)佐伯祐三《レストラン(オテル・デュ・マルシェ)》1927年 大阪中之島美術館

(中)松本竣介《並木道》1943年 東京国立近代美術館

(左)モーリス・ユトリロ《モンマルトルの通り》1912年 パリ市立近代美術館

 

三人とも好きな画家で、とても心が引き付けられたトリオです。

都市の片隅にいる影のような人物に自分を投影してしまうのは、昔、東京に出てきて一人暮らしをはじめたころのよるべなさや心細さを思い出すからでしょうか。

 

展示風景

 

トリオ、テーマ「空想の庭」より

(右)アンドレ・ボーシャン《果物棚》1950年 大阪中之島美術館

(中)ラウル・デュフィ《家と庭》1915年 パリ市立近代美術館

(左)辻永《椿と仔山羊》1916年 東京国立近代美術館

 

木々と花がいっぱいの夢のような風景のトリオ。今回初めて見る絵ばかりですが、何も説明がなくとも楽しめる素敵な世界ですね。

《椿と仔山羊》の絵は、眺めていると、メエメエというかわいい鳴き声が聞こえてきそう。

 

 

展示風景

 

トリオ、テーマ「現実と非現実のあわい」より

(右)有元利夫《室内楽》1980年 東京国立近代美術館

(中)ルネ・マグリット《レディ・メイドの花束》1957年 大阪中之島美術館

(左)ヴィクトル・ブローネル《ペレル通り2番地2の出会い》1946年 パリ市立近代美術館

 

左側の絵を最初に見て、「おや、ルソーがこんな絵を?」と思いましたが、それは間違い。これは、かつてルソーが住んでいたペレル通り2番地2に引っ越したヴィクトル・ブローネルという画家が、ルソーの絵の中に自らが生み出した謎のキャラクターを登場させた作品なのでした。

トリオ中のあとの2作品も、過去の絵画を参照し、画家が自らの分身のような存在を描き込むことで、現実と非現実のあわいを表現しています。

 

 

展示風景

 

トリオ、テーマ「モデルたちのパワー」より

(右)アメディ・モディリアーニ《髪をほどいた横たわる裸婦》1917年 大阪中之島美術館

(中)萬鉄五郎《裸体美人》(重要文化財)1912年 東京国立近代美術

展示期間:5月21日(火)~7月21日(日)/8月9日(金)~8月25日(日)

(左)アンリ・マティス《椅子にもたれるオダリスク》1929年 パリ市立近代美術館

 

目力の強い横たわる女性たちのトリオ。これはもう、ぱっと見ただけで共通点が理解できますね。

たいていの横たわる裸婦は左右の作品のように足を横に伸ばしたポーズですが、真ん中の萬鉄五郎の作品では女性の体が縦に描かれ、斬新でよりパワーを感じる構図です。

 

展示風景

 

トリオ、テーマ「美の女神たち」より

(右)マリー・ローランサン《プリンセス達》1928年 大阪中之島美術館

(中)藤田嗣治(レオナール・フジタ)《五人の裸婦》1923年 東京国立近代美術館

(左)ジャン・メッツァンジェ《青い鳥》1912~13年 パリ市立近代美術館

 

女性たちの群像。ローランサンとフジタの絵はひたすら美しく夢のよう。しかし、左側のキュビズムの作品は、三人の女性がどこに描かれているのか、よくよく見ないとわかりません。描かれた時代はそんなに違わないのに、画家の目指しているものがまったく違うのですね。

この展覧会では、トリオ内の作品の比較も興味深いです。

 

 

美術館の前庭にキッチンカーが出て、「TUTTO」とTRIO展のスペシャル・コラボレーションのジェラートも販売されます。

 

「TUTTO」はプラントベースのヴィーガンジェラートのお店で、今回展示されているトリオ「空想の庭」のアンドレ・ボーシャン《果物棚》をモチーフとしたジェラートを提供。洋梨、ストロベリーミルク、チョコミントの三つの味に、「3」の形のビスケットもついています。キッチンカーの営業は11時~15時、7月末まで提供予定ですが、数量限定で、なくなり次第終了。食べてみたい方は、早めに美術館に足を運んでくださいね。

 

 

TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション

2024年5月21日(火)~8月25日(日)

東京国立近代美術館 前期展示:5月21日~7月7日、後期展示:7月9日~8月25日

公式サイト

大阪中之島美術館 9月14日(土)~12月8日(日)で開催。

※一部作品には展示替えがあります。

 

 

𠮷田さらさ 公式サイト

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