仏像好きの憧れの的
甲賀の大観音様が東京にやってきた
こんにちは。寺社部長の吉田さらさです。
全国各地のお寺と神社を巡り、旅に役立つ情報をお届けしています。
今回は、上野の東京国立博物館の本館特別5室で開催中の
特別展「平安の秘仏‐滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち」をご紹介します。
櫟野寺(らくやじ)。
一般の方には聞き慣れない名前だと思いますが、仏像が好きな人にとっては、一度はお参りに行きたい憧れの寺です。
この寺は、滋賀県南東部の甲賀市というところにあります。
忍者の里で知られるあの甲賀ですが、市の名前の読み方は「こうが」ではなく、「こうか」だそうです。
櫟野寺のホームページはこちらです。
http://www.rakuyaji.jp/
この写真のように、里山に囲まれた田園地帯にぽつんと立つお寺です。
公共の交通機関で行くのはかなりたいへんである上に、
ご本尊の大観音にお会いできるのは、一年のうち何度かの特別開帳の期間のみ。
なので、そう簡単には会いに行けません。
この秋、櫟野寺の本堂・文化財収蔵庫(宝物殿)の改修に伴い、
大観音と平安仏19体が東京にお出ましくださると知ったときには、
多くの仏像ファンが大喜びすると同時に驚いたものです。
何しろ像だけでも3.12m、台座や光背も含めれば5mを超える大きさ。
一部は分解するとしても、これだけのものを東京まで運ぶのは容易なことではありません。
わたしもこの観音様が大好きですが、
なかなか日程が合わず、これまでお会いできたのは一度だけです。
しかも、次にお寺で見られるのは平成30年の10月以降とのこと。
このチャンスを逃してはならじと、勇んで内覧会に出かけました。
本館特別5室に入ってすぐ、大観音のお姿が目に入ります。
わたしがこの像を好きな理由はいろいろありますが、簡単にまとめると、以下の3点です。
1.大きいということ
より頼りがいがあるように感じるという理由で、わたしは大きい像が好きなのです。単純なようですが、このように大きな仏像が作られたのは、やはり昔の人々もそう考えたからだと思います。ちなみにこの像のサイズを「丈六」※と言い、これより大きいものを「大仏」と呼びます。
※仏像の背丈 (丈量 ) の基準。仏は身長が1丈6尺 (約 4.85m) とされるので、仏像は丈六が基準で、その5倍、10倍、または1⁄2などに造像された。坐像の場合の丈六像は、半分の約8尺 のことが多い。
2.表情が神々しく独特の威厳があること
観音像は慈愛の表情であることが多いのですが、この像の表情には、慈愛だけではない何か神秘的な力が感じられます。真下から見上げてみると、ちょうど視線が合い、卑小な自分の心の内を見透かされているような気がしてきます。
3.一本の木でできていること
この像は、腕や脚の部分を除き、頭部から体の中心部は一本の木でできています。これだけの大きさのものを一本の木で作るには、よほど太い木が必要です。その木は、太古の昔から、この像が作られてきた平安時代初期まで少しずつ成長し、それほどの巨樹になったのです。その木の生命力は、まだこの像の中に息づいています。
この像には、注目すべき点がもうひとつあります。
それは頭上にある十一の小さな別の顔です。
観音菩薩は、いろいろな形に変化することがあり、この像はその中のひとつである「十一面観音」なのです。
頭上の小さな顔は、よく見ると、ひとつひとつ表情が違います。優しい顔、牙をむきだした顔、怒った顔。これらは、お寺のお堂ではよく見えませんが、博物館のライトの下なら見分けることができます。後頭部には、大笑面と呼ばれる悪を笑い飛ばす顔があります。ただし、今回の展示では背後に光背があるため、この顔だけは、残念ながら、よく見えません。
大観音以外の見どころや、楽しいグッズ情報は次ページに。
大観音以外にも見どころがたくさんあります。
居並ぶ像の中で、わたしが特に好きなのは、ずんぐりむっくり体型の毘沙門天立像です。
何かに怒っているような表情ですが、よく見るとどこかユーモラスで、親しみも覚えます。
この像は、平安時代前期に活躍した征夷大将軍坂上田村麻呂が発願したと寺に伝わっているため、田村毘沙門とも呼ばれています。
もう一体、特別に心惹かれるのはこの地蔵菩薩坐像。
地蔵菩薩は、この世で人を救う若い僧侶の姿を模したものとも言われ、わたしには、この像もまだ少年のように見えます。しかしその反面、何でも見通してしまうような鋭さがあり、目が合うと、ちょっとぞくりとします。仏像は拝む人の心を映す鏡のようなものなので、悩みごとや隠しごとも、何から何までお見通しなんでしょうね。
そのほか、美しい観音像、吉祥天像などがずらりと並び、一体一体じっくり拝見していると、お顔も体の表現もそれぞれに違うのがわかってきます。仏像の世界は本当に奥深いです。
一般公開の前日には、櫟野寺の三浦密照住職による法要も営まれ、「見仏記」でおなじみの、みうらじゅんさん、いとうせいこうさんも参列されました。
みうらさんといとうさんは、現住職のおじいさまである前住職の時代から櫟野寺に通い、いろいろなお話も聞かれたとのことで、思い入れたっぷりのトークも繰り広げられました。
お二人のトークは、会場で貸し出されている音声ガイドでも聞くことができます。
今回の会場の隣には、この特別展専用のグッズ売り場も特設されています。
大観音のお顔やお姿をモティーフにしたグッズが充実。
面白いのは狸の置物。この寺がある甲賀が、信楽焼きで有名な信楽に近いためです。
中でも人気なのが、この「らほつニットキャップ」
仏像の頭部をイメージして作られた帽子です。如来の頭にある丸まった髪が螺髪(らほつ)です。頭頂部にあるのはボンボン飾りではなく、やはり如来の頭の特徴である肉髻(にくけい)を模したもののようです。
うーん。説明されなければ、仏像の頭だとはわからないかもしれませんが、かわいいし、あたたかそうですね。この帽子を衝動買いし、モデルをつとめてくれたのは、仏像イラストレーターの田中ひろみさんです。
※ただいま、会場では売り切れの状況です。
入荷情報等は、公式サイト等でご確認ください。
この展覧会は、12月11日までと会期が長い点も嬉しいです。
吉田さらさ
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