四条大橋から2本南、鴨川にかかる「松原橋」から西へ少し進むと、昔ながらの風情を残す飴屋さんがあります。大正8年創業の「坂東飴」というお店。目立つ大きな看板はありませんが、店の中央には、大きなガラスケースに、色とりどりの飴の姿が…。
ここの店主は、シャンとしたお姿が素敵な、今年86歳になられる坂東英子さん。京都生まれの英子さんがここにお嫁に来たのは、戦後まもなくのこと。大正8年に四国から京都に飴づくりの修業に来た先代の技を、今も守り昔ながらの手間のかかる方法で飴づくりをなさっています。
「飴の作り方など、教えてはくれません。そばでじっと見て覚えたんです」と。大きな銅鍋に、砂糖と水飴を入れ、1時間余りじっくり煮詰めます。「その塩梅がむずかしいんですよ」と。店に並ぶ飴の色の違いは、実は煮詰める時間によって異なるのだそう。また、宇治の抹茶や上質のゴマを入れた飴は、冷やす途中で、それぞれの素材を加えます。色とりどりの飴は、まるで琥珀やべっ甲などを思わせる宝石のような輝きを湛えています。
煮詰めた飴は冷やし、包丁でカットせず、波上の溝がある板の上に流し、薬丸を作る要領で丸くしたり、ハサミで1個ずつカットしたり、なんとも手間がかかります。「手作業ですから、ひとつひとつ微妙に形が違うんですよ」と。どの飴もなんとも表情豊かな感じです。この丸める具合にも経験と技が必須。飴の冷まし具合は、説明ができない、まさに熟練の技なのです。
京都の人には、飴を「あめちゃん」と親しみを込めて呼びます。ここの飴を見ると、なんとも可愛らしい表情から、まさに「あめちゃん」という感じ。思わず微笑んでしまう形です。みんな同じ形でないところがいいのです。しかも、この飴は、形の愛らしさからは想像できないほど、しっかりと硬い飴で、口の中でコロコロころがしても、その溶け方はとてもゆっくり。長くやさしい味わいが楽しめるのです。「飴ってこんなに香ばしいんだ~」と、味わった人はきっと昔ながらの飴の美味しさを実感することでしょう。
さて、飴同様、可愛らしさと共に、凛とした雰囲気が漂う英子さん。実は、若い頃からのお能のお稽古を、今も続けていらっしゃるのだそう。「お稽古して舞台に立つのが楽しみです」と笑顔でお話しくださいました。昨年も舞台を務められ、それを撮影したお写真では、濃紺の生地に花々をさりげなく刺繍した品格あるお着物を召され、凛とした動作で舞われるお姿が…。ゆっくりとした動きの能は、体の軸がしっかりしていないと美しい足運びや手の動きはできません。若い頃から続ける能のお稽古…体の鍛錬と共に、心を豊かにしてくれるものだとおっしゃいます。それが御歳を重ねても、いつまでも凛とした雰囲気をお持ちになる秘密なのだと思いました。
いいかげんなことはできない…飴づくりも、能のお稽古も、決して手を抜かず、務められる英子さん。
口に広がるやさしい甘さ…それは、ひとつひとつの工程を丁寧になさっているからこそ。昔ながらの手づくりの飴を口に含むとき、旅の疲れを癒し、さらに心を満たしてくれるように感じられることでしょう。
宝石のように美しい色の手づくり飴が、出会う人を穏やかな笑顔へと導きます。
手づくり飴 坂東飴
京都市下京区松原通木屋町東入ル材木町423
☎ 075‐351‐0283
09:00~19:00 不定休
交通:京阪本線「祇園四条駅」から徒歩10分
小原誉子
ブログ「ネコのミモロのJAPAN TRAVEL」