創業七百余年の刀匠の技から生まれた爪切り
アーケードが道を覆う京都三条通は、寺町、新京極に通じ、修学旅行生が、京みやげを求めて、必ず立ち寄るショッピング通り。しかし、この通りのにぎわいは、今に始まった訳ではなく、昔から京を訪れる人たちが、江戸に向かう東海道の出発点という立地から、さまざまな京みやげや匠の逸品を求めたところです。今も、この通りには、針、扇、仏具など、江戸時代から続く老舗が点在。その中に、金文字で、「菊一文字」と描かれた看板が、ひときわ目を引く、趣ある構えの店があります。
そこは、創業七百余年前、後鳥羽上皇の時代、刀匠の元祖とも言われる則宗が、作刀に菊の御紋を頂き、その下に一の文字を入れたことから、「菊一文字」と呼ばれるようになったという長い歴史に培われたお店です。明治9年の廃刀令発布からは、代々受け継がれた作刀の優れた技は、包丁、ハサミ、ノミをはじめ、多種にわたる職人の刃物などの製作に活かされてゆきます。
店内に並ぶさまざまな種類の刃物。その中で、心惹かれたのは、店の中央部のケースに並ぶ爪切り。現在店主を務める泉将利さんに、どれを選んだらいいか伺うと、「よほど固い爪や巻爪以外は、ニッパータイプより、ふつうの爪切りがおすすめです。爪切りを用いると、爪が割れる…という人もいますが、それは爪切り次第なのでは…」と。さっそく家で、その切れ味を試します。さすが刃物の老舗、薄目のシャープな刃は、スパッと気持ちいいように爪をカット。切り口もなんとも滑らかです。テコの原理を利用した抑える部分の感触も、程よい弾力。思うように爪が切れる心地よさに、つい切りすぎてしまうほど…。
爪切りについているヤスリ部分も細かく、使えばいっそうスムーズに…。「菊一文字」と、爪切りいっぱいに描かれた青い文字は、まさに自信の表れと納得。長年使っても、切れ味は変わらないそうで、まさに一生ものの爪切りになりそうです。
茶道、華道、日本舞踊などをたしなむ京美人の爪は、実は、みんな短めに美しく切りそろえられています。もちろん舞妓さんも芸妓さんの爪も、短め…。華やかなネイルファッションの爪より、そっと手を握りたくなるのは、きちんと切りそろえられた爪の手だと、ある老舗の旦那の話。最近は、スマートホンなど、タッチパネルで操作する機会も多く、短めの爪がいいという人も急増中。美しく整えられた爪には、さりげない色香が漂う…京美人は、きっとそれも熟知しているのかもしれません…。
打刀物司 菊一文字
京都市中京区三条通寺町東入ル石橋町14 ☎075-221-0077
http://www.kikuichimonji.co.jp/
小原誉子
ブログ「ネコのミモロのJAPAN TRAVEL」 http://blog.goo.ne.jp/mimoron/