四条通から大和大路通を南に進むと、虫籠窓(むしこまど)とうだつが特徴的な趣ある店、「祇園 ない藤」があります。京都市より「歴史的意匠建造物」に指定された明治末期の建物で、木枠のショーウィンドーには、さまざまな種類の草履が鎮座しています。
「ここは、他の履物店とはどこか雰囲気が違う」と思い、以前から店の前を通るたび、その草履に漂う控えめな艶やかさと品格に心惹かれ、しばし眺めていたことも。
ここ「祇園ない藤」が、祇園で履物(下駄)を扱うようになったのは、明治8年のこと。材木と織物を商いはじめ、その残りの材で下駄を作ったのがはじまりだそう。明治30年に北野天満宮の近くで履物業を開業し、その後、かつて支店だった祇園の現在の地に移ったそう。
そもそもここは、すべて「御誂え」で履物を扱う店で、店内に並ぶ草履や下駄は、いわばサンプルで、客は、まず足形を採寸し、目的にあった履物を注文するようになっています。
「その人に合うものしか、お作りしない」という店主の内藤誠治さん。長い歴史に培われた技術により、丈夫で足にしっくり馴染む、その人だけの草履ができるのです。
シンプルな形状の草履ですが、なぜかここのフォルムは、美しい。端整でありながら、どこかやさしさを湛えた表情をしています。
また、友人に聞くと「ここで20年以上前に草履を作ってもらって、それをずっと鼻緒や底を修理しながら使い続けている人も多いそうよ。履き心地がよくて手放せないですって~」と。アフターサービスも素晴らしく、一生面倒を見てもらえるお店なのです。
草履や下駄も着る着物や伺う場所によって異なりますが、まずは一足、小紋や紬での外出に履くのが楽しみになる頼りになる草履を作りたいものと思うばかりです。
尚、オーダーは、注文してからできるまで、一か月ほどかかるそうです。
さて、今回は御誂えの履物ではなく、その場で購入できるビーチサンダルをご紹介します。「え?祇園でビーチサンダル?海も近くないのに~」という方もいらっしゃるかもしれませんが、つまり日常で気軽に履ける草履で、「JOJO」(ジョジョ)と名付けられた斬新なフォルムが特徴のサンダルです。そこは「祇園ない藤」が手掛けたものだけに、上質の素材しか使わない店主のこだわりと優れた技術が集約されている、特別の逸品。
たまに草履や下駄、ビーチサンダルを履くと、そのたびに足の親指と人差し指の間の指股が痛くなり、長時間履くのが苦痛に。そこで「JOJO」では、鼻緒と底面を繋ぐ部分(前ツボ)に哺乳瓶の乳首に使われる特殊ゴムを使用することに。指への当たりもやさしく、しかも力も入り、長時間履いていても疲れにくいのです。
鼻緒の素材は、水着に使用される伸縮性に優れ、フィット感抜群の素材で、足の甲への当たりや安定感にも優れ、履き心地の快適性を作ります。
底面は、アスファルトの道を歩いても足への負担を少なくする特殊ゴム素材が使われています。そして足裏が当たる部分は、独自開発の特殊コルクで、すべりにくく、足触りも心地よいものに。
「夏は洋服だけじゃなく、浴衣にも合いますね~」というと「いいえ、ぜひ指のある靴下で1年中楽しんでください」と内藤さん。
さっそく店内の「JOJO」を試します。「よく歩くなら、こちらのサイズをおすすめします」と出されたのは、どうみても小さそうなもの。履くと、踵がはみ出しています。「え?これでいいんですか?」と半信半疑の私。「はい、これだと踵が上がり、地面への着地の時に、足全体で力を分散でき、人間本来の体の使い方に近い歩行ができるんです」と内藤さん。
確かに、足の指に力が入り、体の重心の移動もスムーズです。
「まぁ、踵が外に出ない、女性に人気の『OJOJO』というシリーズもありますから、これはお好みで…」と。どちらも足へのやさしさは十分実感でき、魅力的です。
この「JOJO」、価格は¥25,000~ですが、オールソールから鼻緒、前ツボなどあらゆる部分が修理可能。まさに長く使える頼りになる履物になりそう。
自分に合った上質のものを長く使う…そんなライフスタイルを象徴する履物が、ここ「祇園 ない藤」には揃っていました。
祇園 ない藤
京都市東山区祇園縄手四条下ル
075‐541-7110 10:30~18:00 不定休
JOJO 専用HP https://manaproject.shop-pro.jp/
小原誉子
ブログ「ネコのミモロのJAPAN TRAVEL」
http://blog.goo.ne.jp/mimoron/