代々受け継いでゆきたい上質の髪飾り
祇園花見小路と四条通の交差点近くに、古い構えの店があります。店先の木枠のガラス棚に並ぶのは、つまみ細工でできた可愛らしい花かんざしや、飴色のべっ甲の髪飾り、さくらんぼのような珊瑚玉のかんざしなど、自分がつける機会がなくても、心惹かれる美しい品々です。
もっと見たくて、店の中へ。そういう客が多いのか、店の方は、黙って見守ってくださいます。店の上りに置かれたガラスケースの中には、さらに目を引き付ける品々が並んでいました。そもそもこの「金竹堂(きんたけどう)」は、江戸末期から、祇園の舞妓の可憐な花かんざしや花街の芸妓、島原の太夫などの豪華な髪飾りを製造、販売してきた専門店。一般女性向けの品の販売を始めたのは、戦後になってからなのだと、店に座る定永さんが、お話くださいました。花街の女性たちがつける髪飾りやかんざしは、一般向けより、大きく、その華やかさもいっそう。たとえば店に飾られている成人式などで使われる花かんざしも、舞妓さんが髪にさすのに比べ、半分ほどの大きさです。
さて戦後、店に登場した一般向けの製品は、長年、花街の女性たちの厳しい目のもと、培われた技術により、美術工芸品と呼べるほどの見事な品々で、京都の女性たちの憧れになりました。ずらりと並ぶ品の中で、特に心惹かれたのは、洋装にも使えそうなシンプルなフォルムの髪飾りです。べっ甲の縁に本真珠を18金の地金で留めた髪飾りは、アールデコを思わせるデザイン。べっ甲の斑点もヒョウ柄のようで洒落ています。昔から櫛やかんざし、メガネのフレームなどに使われてきたべっ甲は、ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)で、1992年以降、日本では輸入が禁止されました。「べっ甲の品が店に置けるのは、材料の在庫がある分だけになります」と、定永さん。最近は、プラスチック製のべっ甲タイプの品が、一般的ですが、やはり本物は、よりしなやかで、軽いもの。髪への挿し心地もいいそうです。
もうひとつは、青みを帯びた輝きを放つ三日月型の髪飾りで、この輝きは、螺鈿(らでん)です。1ミリにも満たない小さな貝片が、ぎっしりはめ込まれている、まさに美術品。角度により、輝きの色が変わり、夜のパーティーの光の下で、その輝きが際立つことが想像できます。
もちろん、どちらもそれなりの価格。「こういう品は、代々お使いになる方が多いんですよ」と、定永さんは話されます。「これ、祖母が使っていた帯留めなんです」と見せてくれた京都の知人。そのものの素晴らしさに加え、親から子へ、そして孫へと受け継ぐものがあることが、なんとも羨ましくなりました。本物の品を、代々使う京都の女性に会うたびに、大切に育てられた本物の京美人を感じます。
金竹堂
京都市東山区祇園町北側263 ☎075-561-7868
10:00~20:00 木曜休み
小原誉子
ブログ「ネコのミモロのJAPAN TRAVEL」
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