東京—アムステルダム 6007マイル
○ヘルシーで栄養価満点のゴーダチーズの効能
オランダのチーズと言えば、まずゴーダチーズ。
ゴーダチーズと言って思い浮かぶのは、チーズが一般的でなかった時代から、ぴっちりプラスチックに包まれて売られていた黄色いチーズではありませんか?
私は、これまでスライスにしてサンドイッチにしたり、料理に入れたり、余ったかけらをなんとなくぱくぱく食べていました。
チーズという一般名詞の代表のようなチーズだと思っていたのです。
それは大きな間違いでした。
日本人がお米を大切に育てるように、オランダの人は、大事にチーズを育てます。そうして出来あがったチーズは、安全で安心で栄養価の高い、優れた食品となります。そして、味わいも素材や熟成期間によって驚くほど違ってきます。お米一粒一粒に神様がいるように、オランダのチーズのひとかけらごとに神がいることを確信しました。
今回は、みなさまにもゴーダチーズの素晴らしさをわかっていただこうと思っております。
では、出発です。
ゴーダは、アムステルダム中央駅から電車で55分ほど南に下った南ホランド州にあります。
まずは、650年前から続いているチーズマーケットへご案内しましょう。毎年、春先から夏にかけて毎週木曜日に開催されています。
可愛いチーズがあちこちに飾られています。
ゴーダ市内の有名なチーズ屋さん。こんな巨大なチーズが販売されています。
わ・わ・わ!!
チーズマーケットが開催される広場に到着した途端に上がった歓声です。
青空をバックに、赤い木枠が愛らしい中世のゴシック建築の市庁舎。その前に並べられた何百と言う巨大な黄色いチーズ。
ヨーロッパの小都市というのは、なんと可愛くできているのでしょうか。
ゴーダチーズと呼ばれていても、ゴーダ市ではチーズ作りは行われていません。周辺地域で作られたチーズが、計量所のあるゴーダに運ばれ、取引されるためゴーダチーズと呼ばれるようになったそうです。
近所の保育園から見学に!
あちこちで、不思議な儀式をしているおじさんたちは、昔ながらの方法でチーズの取引中。
手を打ち合いながら値段を交渉し、合意に達したところで握手をして商売成立です。
日本に輸出されるものは、熟成1ヶ月から4ヶ月ほどの若いチーズが多いそうです。1ヶ月熟成のものは、食感も柔らかく、食べやすいけれど、「これぞゴーダ」という醍醐味はありません。この若いチーズを食べている限り、ゴーダの良さはわかりづらいと思います。
4ヶ月くらい経ちますと、まだ柔らかくはありますが、独特の風味が出てきます。癖が少なく食べやすいため、だれにでも好まれるのがこのあたり。
一方本場、オランダの人たちは「長く熟成させたチーズ」好き。長期熟成チーズは、ほとんど国内で消費されるため、18ヶ月から26ヶ月の熟成ゴーダチーズを海外で見つけるのは難しいそうです。
屋台で売っている農家特製の26ヶ月熟成させたゴーダチーズを早速味見。 黄色というよりもオレンジ色の固い小さなカケラを一口ぱくっ。
舌に載せた途端に甘みが広がり、濃厚でクリーミー、ナッツのような味わいが続きます。舌に残るジャリジャリっとするアミノ酸の結晶をつぶすと、また新たな旨味がカルテットの演奏のように静かに口中に広がります。このナッツのような味わいのチーズ、本当に美味しいんですよ。このときから、チーズの好みを聞かれたときは、必ずひとつ「ナッツの風味が濃厚な熟成したゴーダチーズ。」と答えるようになりました。
次に18ヶ月熟成。
26ヶ月熟成の妹分といった味わい。甘やかな匂いと柔らかな甘み、濃厚でクリーミーなコクがじわー。
ただ味わうのではなく、真剣にチーズと対峙し、神経のすべてを集中して味に耳を傾けると、今まで気がつかなかった複雑な味わいに気がつくもの。ワインテイスティングと似ています。
OurAge世代の女性ガイドさんは
「オランダ人は、毎日長時間自転車に乗って、かなり身体を動かしますので、質の良いチーズを毎日食べて、カルシウムとタンパク質を補給するようにしています」と言っていました。
○オランダで唯一『王室御用達』の称号を受けたベームスターチーズの生まれ故郷へ
この巨大な円盤型のチーズがどのように作られているのか、見学にも行ってきました。
訪れたのは、北ホラント州の美しい田園風景の中にある「CONO社」。2001年に王室御用達の称号を受けたベームスターチーズを生産している会社です。
モットーは、‘Small but Beautiful’(小さくとも美しく)。
チーズの商標になっているベームスターは、ユネスコの世界文化遺産に登録されているオランダ初の干拓地。1612年から1627年にかけて工事が行われ、その後の干拓工事にも大きな影響を与えた場所です。なんと、ニューヨークのマンハッタンも、ベームスター市をお手本に作られたそうですよ。
CONO社の特長は475の牧場が共同出資して作った会社だということ。キュートなことに、会社の各部屋には、それぞれの牧場の名前がついています。各牧場は、平均70頭の乳牛を飼育し、小さい規模でありながら徹底的な品質管理をしているのが自慢。元々海だった土地ですから、土壌はミネラルをたっぷりと含み、良い牧草が育ちます。
「ワインと同じように生乳作りにもテロワールが大切。ミネラルと塩分の多いこの土地は、生乳作りにとって最高の環境なのです」
と案内をしてくださったハイスさんが教えてくれました。
2015年オランダのベスト・サスティナブル・ビルディング賞を始め、数々の賞を受賞している近代的な工場ですが、生乳の撹拌は今も「人の手」で行われます。この撹拌が失敗すると目も当てられないことになるそうです。逆に熟練の職人が丁寧に行うと、熟成が進んでもカチカチにならず、クリーミーな食感と味わいを保てるのだそうです。
超近代的な工場で、職人が丁寧に撹拌している姿を見て、日本酒の酒蔵の光景を思い出しました
生乳を扱い、発酵食品を作る工場ですから、清潔であることがなにより大切。毎朝6時から10時までの4時間を工場の掃除と機械のクリーニングに充て、さらにすべての機械は一回使ったら必ず洗浄する規則だそうです。
丸く成形されたできたてチーズは、均等に熟成発酵させるため一日置きに、天地を逆に返されます。もう少し熟成が進むと、返す頻度も一週間置きから二週間置きになっていきます。
CONO 社では、毎週金曜日の朝9時30分には、責任者が20人ほど集まり他社製品を含めた10種類ほどのチーズをブラインドティスティングし、香り、食感、味を比べ、意見交換および改善策について話し合いが行われます。
「金曜日のミーティングでは、一切ビジネスの話はしません。品質と味だけに集中します。僕たちは、赤ん坊を育てるように大事にチーズを作っています。最高のチーズを作っていることを誇りに思っています」
ハイスさんが得意そうに言いました。
愛情と熱意をもってベームスター社とそのチーズについて語ってくださったハイスさん。今回の取材で出会ったみなさまは「自分の会社大好き!」という想いが伝わってくることが多く、その点でもオランダって働きやすい環境の企業が多い国なんだなと思いました。
オランダのチーズ、見直しました。
ベームスターの熟成チーズ、日本でもネットショップで販売されていますから、ぜひお試しください。その際は、必ず小さなかけらを口に入れて、目を閉じてゆっくりと味わってみてください。複雑な味わいにびっくりするはずです。
オランダ人の食卓を見ていると、朝と昼は、チーズとパン、それにサラダをつけるだけ簡単なものがほとんどです。つまり、少量だけれど質の良いタンパク質を毎日取り、一日二食は簡素な食事でしかも食べ過ぎない。
オランダに肥満が少ない理由は、自転車が移動の手段であることに加えて、こうした食生活も大きく関係していると言えるでしょう。
おすすめのレストランを2軒、ご紹介します。
【アムステルダムのおすすめレストラン】
Huize Frankendael (ハウゼ・フランケンダール)
http://www.huizefrankendael.nl/
2008年にオープンした、アムステルダムでもっとも予約の取れないレストランのひとつ。
18世紀に作られた趣のある建物は、2004年までは個人の邸宅だったそうです。
レストランのコンセプトはスローフード。レストランのある地元で育てた自然農法の野菜をふんだんに使ったヘルシーなメニューが人気。
肉も、一頭買って、すべての部位を余すところなく使うそうです。
お料理はこんな感じ。
<料理の写真二点>
すべての料理に穫れたての新鮮な野菜が使われています。香りが強く、食欲を刺激されます。
何百年も前から使われて縁が丸くなった木の階段。登って行くとキシキシと音がして、それがいい感じです。この階段の上には、庭を見下ろす個室など、いくつかのお部屋があります。
美しい庭園と森に囲まれているので、早めにきて、食事の前の散歩を楽しむのがおすすめです。
【スヘフェニンゲンのおすすめレストラン】
Catch by Simonis (キャッチバイシモニス)
日本語表記では「スケベニンゲン」と表記されることもある、クイズ番組常連の街!海沿いにあり、美しい港や海岸があって、美味しいニシンが食べられるこの街で一泊してゴーダに足を伸ばすというプランはいかがでしょうか?
オランダ名物「ヘリング=ニシン」は、ほとんどスヘフェニンゲンで水揚げされます。 塩漬けにしたニシンに玉ねぎとピクルスのみじん切りをかけて、レモンを絞っていただきま〜す!
たっぷりと脂ののったニシン。DHAやEPAほか、ビタミンA1、B1 B2 B6 B12 、D, Eまで含まれている栄養たっぷりのお魚。
オランダでは、香味野菜をかけたあと、ひょいともちあげて、パン食い競走のように下からぱくっと食べている人をよく見かけますが、レストランでは、ナイフとフォークでお行儀よくいただきました。美味しかったけれど、ショウガと大葉、それにネギを刻んでたっぷりかけて醤油でも食べたかった・・・・。絶対に合うはず・・・。
取材協力
オランダ政府観光局 KLMオランダ航空
大変お世話になりました!
井原美紀ブログ 旅の記録 Let’s GO TO SEE THE WORLD!