心静かに掃き浄めるひととき
棕櫚(シュロ)の箒(ほうき)やタワシ
掃除機が自動的に部屋をきれいにしてくれる…そんな時代が訪れました。でも、自分の手で部屋や庭など、暮らす場所を浄めることを、楽しんでみませんか。
三条大橋のそばにある「桔梗利 内藤商店」は、文政元年(1818)創業の庭箒、部屋箒など、家の中をキレイに掃除する道具の専門店。店先には、棕櫚(しゅろ)や竹の庭箒、タワシ、ブラシなどが、昔ながらの陳列方法で並んでいます。古い町家に並ぶ掃除用具の数々は、清掃する場所や物によって、使い分けられるもの。その種類からして、いかに日本人が掃除好きかが伺えます。
掃除機が一般に普及したのは、昭和30年代。それまでの埃や塵を掃き清めることから、吸い込んで取り除くという発想へと転換しました。これは西洋式の絨毯敷きの住まいが多くなったため。それにより箒が姿を消してしまった家が増えました。しかし、近年、フローリングの床が人気で、掃除機もわざわざ組み立てなくてもいい、手軽にさっと掃除ができるハンディタイプが注目されているのです。
ここで最近、再び、箒の良さが見直され始めています。ガ~ガ~と大きな音もなく、電気も消費せず、サッと取り出せ仕舞える箒は、手軽で、時間帯を問わず使えるもの。
さて「桔梗利 内藤商店」で扱う道具の素材で目立つのは、棕櫚(シュロ)というヤシ科の常緑高木の皮の部分を用いたもの。原産国は、中国や東南アジアで、日本には、かなり昔に渡来し、清少納言の「枕草子」にも登場する植物です。また、江戸時代、貝原益軒が著した「大和本草」の中では、棕櫚の皮は傷みにくく、丈夫で、弾力に富み、縄や箒にするといいという内容が書かれているそうで、江戸時代には、日本の生活用具の箒や刷毛などに、棕櫚が利用されていたことがわかります。
一口に棕櫚と言っても、その皮の硬さはさまざまで、庭を掃くもの、畳を掃くもの、また、明治時代に現在の形になったタワシも洗うものによって、その硬さは異なります。まさに日本人の繊細さがここにも伺えます。
ここに並ぶのは、良質の棕櫚を使い、昔ながらの技で手づくりされる箒やタワシ、刷毛など、使うほどに手に馴染む品々。でも職人さんの高齢化や後継者不足で、作られる数にも限りがあり、店に入荷すると、すぐに売れてしまいます。特に、部屋の箒は、幻と言われるほどの貴重な品で、予約注文ができないため、入荷したときに出会えたら幸運です。(あれば取り置きはしてくれます)
海外生産の安価なものも多く出回っていますが、昔ながらの本物を使う心地は、掃除する気合も高まるというもの。もちろん、箒やタワシなどは消耗品で、使えば減ってゆきますが、それはそれだけ掃除した結果。掃き清められた心地よい住まいは、穏やかな時間と落ち着きのある心をもたらしてくれることでしょう。
「何代にもわたりお出でになるお客様も多いんですよ」と、七代目当主の女将さん。顧客は、京都の神社仏閣をはじめ、茶道や華道関係も。最近は、家で箒を使ったことがない若い世代も多いそうで、長持ちする上手な使い方なども教えて下さいます。
京美人は、掃除上手。1日に一度は、箒を手にするという友人。彼女の家は、無駄なものを一切表に出さず、実に掃除しやすい状態で、常に清らかな気が通るような住まいです。
大きな掃除機を出すのが億劫になりつつある最近、気づいたら手早く掃除できる箒への憧れがつのります。
「桔梗利 内藤商店」
京都市中京区三条大橋西詰
☎075‐221‐3018
9:30~19:30 正月以外無休
京阪三条駅から徒歩3分。三条大橋の西側です。
小原誉子
ブログ「ネコのミモロのJAPAN TRAVEL」
http://blog.goo.ne.jp/mimoron/