【この回の質問に答えてくださった方】
入社後7年、洗剤用酵素の研究を担当。その後、ヘアケア研究所にて、黒髪メラニンのもとを使った白髪染めの商品開発(リライズブランド)に10年携わる白髪ケアのエキスパート。 〔撮影:山田英博〕
大正製株式会社2020年入社。研究本部セルフメディケーション研究センター 製剤第3研究室所属。ヘアケア製品やその他OTC医薬品外用剤の開発に約4年従事。
2019年に日華化学株式会社に入社。シャンプー、ヘアトリートメント、頭皮用エッセンスなど、サロン専売のヘアケア商品の処方開発を担う。入社当初より、イーラルブランドに携わり、開発担当者として処方設計やエビデンスデータの取得に携わる。
2003年入社以来、美容室専売品のパーマ、ヘアカラー、ヘアケア、スタイリングの製品開発に従事し、ヘアケアブランド「コアミー」の開発も担当。現在は頭皮や毛髪の基礎研究のマネジメントを行っている。
白髪染めをした髪にとって洗髪は最大のリスク!? 流失しやすい色や髪の成分をキープするケアを
セトッチ:以前は、「ヘアカラーをすると傷む」というイメージだったのですが、最近はヘアカラー後、逆に髪の状態がいいなと感じます。
おそらく、美容室で染める際は、かなり集中的なトリートメントをしてもらっているおかげだと思います。
髪のツヤもまとまりもよいので、とても気分がいいです。また自宅でホームカラーを使用する際も、トリートメント成分配合をうたったものを選ぶようにしているので、ヘアカラー後しばらくは指通りがいいなと感じることが多いです。
ところが、ヘアカラーしてから2~3週間たつと、見るからに髪が乾燥している気がしますし、まとまりが悪くなってきます。
それと、ダメージのせいか、色もなんとなく褪せてくる気がします。そうなると、次のカラーまでの期間、ブルーな気持ちで過ごすことになるのですが、この状態、なんとかならないでしょうか。
さまざまなヘアケア商品を手がける花王さん、いかがでしょうか?
花王 島津:確かに、髪を染めたあとの髪は、髪の内部の成分が流失しやすい状態です。
というのも髪を染める際は、ヘアカラー剤の力でキューティクルを膨潤させて開き、その隙間から染料を入れます。
開いたキューティクルがそのままになっていると、髪を洗う際、そこから染料が流失して褪色の原因になります。
また、髪の脂質やタンパク質も流失し、パサつきなどにつながります。
そこで、こうした褪色やダメージを防ぐために、ヘアカラー後は、トリートメントをしっかり行ってキューティクルを整えますが、その効果は洗髪などでだんだん薄れてしまいます。
そこで、普段のヘアケアでカバーすることが大切です。
セトッチ:きれいな色や状態を保つには、ヘアカラー直後だけでなく、日々の洗髪時にもしっかりケアしないといけないということですね。
花王 島津:カラーシャンプーやカラーコンディショナーと呼ばれるものは、洗髪のたびに少しずつ色を補ってくれるので、こうしたものも有効かと思います。
「上の写真:カラーシャンプーの一例がこの花王 ブローネ リライズ髪色シャンプーケアシャンプー、コンディショナー。100%天然由来の「黒髪メラニンのもと(着色成分)」を配合、色落ちを防ぎます。洗うたびにヘアカラーで傷んだ髪を補修し、なめらかな髪に!〕
〔上の写真:花王「ブローネ カラートリートメント」。パールプロテインエキスなど3種の美容成分を配合。美容室で染めた髪色にも合わせて選べるカラー展開で、〝白髪染めはサロン派〟からも高い評価を得ている。染めている間リラックスしてもらえるようにと香りにもこだわり、アールグレイの香りをセレクト〕
シャンプーの界面活性剤。アミノ酸系はOKで、サルフェート系はNG?
セトッチ:ヘアカラー後はキューティクルがダメージを受けているので、刺激の少ないシャンプーがよいと聞きます。
「界面活性剤不使用」をうたったシャンプーは髪を傷めないというイメージなのですが、こうしたものを使用したほうがよいでしょうか?
花王 島津:ヘアケアに関する情報はネットなどにあふれていますから、イメージが先行してしまいがちですが、「界面活性剤」が危険なものというわけではありません。
界面活性剤はシャンプーにおいて、とても重要な働きをする成分。
界面活性剤が入っているからこそ、水だけでは落ちにくい汗や皮脂、汚れ、スタイリング剤なども、きれいに落とすことができます。
そして、界面活性剤にもさまざまな種類があります。
中には洗浄力が高く、皮脂を必要以上に取り除いてしまって乾燥の原因になるとか、肌への刺激が強いものもあります。
セトッチ:「アミノ酸系の界面活性剤」は髪に優しいというイメージですが、こうしたものを使用したシャンプーがよいのでしょうか。
花王 島津:アミノ酸系の界面活性剤は、適度な泡立ちでなめらかな洗い心地のものが多いです。
でも、アミノ酸系だからといって、すべてが髪に優しいというわけではないのです。
逆に、「サルフェート系」の界面活性剤は刺激が強いといわれますが、「サルフェート系」の界面活性剤の刺激が強い、というわけでもないです。
セトッチ:「サルフェート系」という単語は、「アミノ酸系」と並んでよく耳にします。また、「サルフェートフリー」という言葉もよく聞きます。
「サルフェートフリー」はナチュラルで髪にダメージがないというイメージで、「サルフェート」は髪によくない成分というイメージが私にはあるのですが、そもそも、サルフェートって、なんのことかはよくわからないのですが、有害物質なのでしょうか?
花王 島津:「サルフェート」とは「硫酸(りゅうさん)系化合物」(硫酸塩)のことです。
セトッチ:硫酸!? 字面だけで、なんだか怖いです…。
花王 島津:いえいえ、硫酸とは別物です。
硫酸と聞くと「理科の実験などで使用する、取扱注意の怖い化学薬品。皮膚についたらヤケドをしてしまう」というものをイメージしますよね。
でも、「硫酸系化合物」はそうではなく、決して有害物質というわけではありません。
セトッチ:そうですか。イメージにとらわれすぎですね。失礼しました!
花王 島津:ただ、サルフェート系の界面活性剤は泡立ちに優れており、すっきりした洗いあがりのものが多くなっております。
メーカーでは、安全性が十分に確認されているものを使用しているので、安心してください。
お好みの使用感に合わせて選んでいただくのがいいと思います。
セトッチ:ついイメージで、「これはよいもの」「これは悪いもの」と決めつけてしまいがちですが、そうではないんですね。気をつけなくては…。
今、お話を伺ったことによると、敏感肌や乾燥肌に悩んでいる人はそれぞれの髪質向けのシャンプーを使うのがよさそうですね。
逆に、特にそうした悩みがなくて、ヘアオイルやムースをしっかり使ってスタイリングしているような方は、洗浄力の高いものでしっかり落としたほうがよさそうです。
花王 島津:そうですね。シャンプーにもいろいろな種類がありますので、自分の髪、頭皮の状態に合わせて選ぶことが大切です。
また、望む仕上がりなどによっても、好む製品はそれぞれに異なると思います。
シリコンは指通りをよくして、髪にハリとコシを出す成分
セトッチ:そういえば、シリコン入りのシャンプーも一時、「よくない!」といわれていましたが、これも「イメージ」でしょうか?
大正製薬 廣岡:これは私がお答えしましょう。
シリコンも「悪いもの」ということではないと思います。
シリコンには、「指通りをなめらかにする」という働きのほか、「髪に適度な重みを出して、まとまりをよくする」といった効果があります。また、髪を覆いキューティクルを保護してくれる効果があります。
ただし、地肌に負担になる可能性がありますので、しっかりすすぐことは大切です。
また、「髪のボリュームがなくなっているのが気になる」「ふわっと立ち上げてボリュームアップしたい」という人向けのシャンプーには、重たくならない仕上がり感を重視するためシリコンは配合されていないことも多いです。
シャンプーは目的に合ったものを選ぶということだと思います。
セトッチ:やはりヘアケア製品は、自分に合ったものを選ぶということが大切なんですね。
大正製薬 廣岡:髪のコシがなくなってぺしゃんこになるのが悩みという人もいれば、頭皮の乾燥や静電気が気になる人もいるなど、髪の悩みは人それぞれ。
また、年齢を重ねてくると、さらに髪の状態もさまざまだと思いますので、ご自分の髪や頭皮の状態、悩みに合わせてヘアケア製品を選ぶことが大切になってきます。
セトッチ:毛髪の専門家である皆さんのお話を聞いて、自分に合ったヘアケア製品を選ぶには、イメージではなく正しい知識が必要なのだということがよくわかりました!
洗髪による髪の成分や染料の流失はこうして防げ!
セトッチ:そのほか、ヘアカラー後のダメージや褪色を防ぐヘアケア方法はありますか?
イーラル 大原:ヘアカラー後のキューティクルが開いているようなダメージヘアには、「アウトバストリートメント」もおすすめです。
セトッチ:アウトバストリートメント?
イーラル 大原:洗髪のとき以外に使用するヘアケア製品のことです。
一般的なトリートメントは、お風呂でシャンプー後に使用し、洗い流して仕上げますが、アウトバストリートメントは使ったあとに水で流す必要がなく、水分で髪の成分が流失してしまうのを抑えられるので、ヘアカラー後の髪におすすめです。
タオルドライしたあと、ドライヤーをかける前の髪につける、あるいは、ドライ後の仕上げに使用する髪の美容液です。
セトッチ:せっかく髪に浸透させたい成分、それを洗い流さなくてよいというのは髪によさそうです。
イーラル 大原:それから、髪の成分や染料がキューティクルの隙間から流失しないようにするには、洗髪後、濡れた髪を放置せずにきちんと乾かすことも大切です。
髪にはキューティクルの内側や髪の内部にCMCと呼ばれる、脂質とタンパク質で構成される、通り道のようなものがあります。
洗髪後、濡れた髪の状態で放置していると、このCMCに水分がたまり、髪内部の成分やヘアカラーの際に入れた染料が、CMCを通して流失しやすくなります。
洗髪後は、ドライヤーでしっかり乾かすようにしましょう。
セトッチ:ヘアカラー後のダメージや色褪せを抑えるのは、やはり日々、自宅でのケアが大切なのですね。しっかりケアして、美髪キープに励みます!
〔上の写真:イーラル プルミエ 「コンセントレートヘアセラム」。エイジングで変化しやすい髪を毛先まで潤す、コントロール美容液。潤いとツヤのある美しい髪をキープします。サロン専売品〕
気になる生え際、頭頂部のチラ見え白髪は、次のヘアカラーまでこれでカバー
セトッチ:次のヘアカラーまでで気になることといえば、やはり頭頂部や生え際の白髪チラ見えです。
これは本当にみんな悩んでいて、ヘアカラーして2週間もすると、鏡を見るたびにブルーになってしまうと言います。
アリミノ 田中:皆さん忙しいので、そう頻繁に美容室にも行かれませんよね。
美容室では、次のヘアカラーまでの間に、一時的に白髪をカバーする商品を販売しています。
ファンデーションタイプは、付属のブラシでさっと塗るだけで生え際の白髪も簡単にカバーできます。
〔上の写真:アリミノ「カラーストーリー プライム ポイントファンデ M」<毛髪着色料>。パウダー状の染毛料がしっかり白髪を隠します。塗布したあとに髪の根元がぺたんこになる心配がなく、しかもブラシで髪をすーっとなでるだけ!サロン専売品〕
また、髪の根元からカバーしたいけど、うまく塗らないと地肌にも色がついてしまうというお悩みに応えたのが、このマーカータイプ。これは、しっかり髪の根元まで染料が塗布でき、しかも地肌には色がつかないという商品です。
〔上の写真:アリミノ 「カラーストーリー プライム ポイントコンシーラー M」<毛髪着色料>サロン専売品。下の写真:このポイントコンシーラーのヘッド部分。フェルト部分(太くて短めのほう)とコーム部分(少し長めのほう)の2種からなり、フェルト部が髪に染料を塗布する。塗布中、頭皮に当たるのは染料がついていないコーム部分だけ。なので頭皮に染料がつかない〕
セトッチ:え、それはすごい! さっそく使ってみていいですか!?
実はサロンでヘアカラーしてちょうど1カ月。今日の取材に来るのも恥ずかしかったのですが、何しろ忙しくて時間がなく、この状態です。
Before
↓
After
〔上の写真:確かに白髪部分にのみ染料がつき、頭皮にはついていません! 頭皮にマーカーを当てたら、動かすだけで簡単に白髪を隠せます〕
セトッチ:これ、初めて使いましたが、使いやすいですね。
私も根元の白髪が気になってきたときは、よく一時的に色をつける、いわゆる「白髪隠し」を使用するのですが、ブラシで塗るタイプだと頭頂部に塗るのはちょっと難しいんですよね。
でも、これだと頭皮にしっかり当てたら、後はかなり適当に髪をなぞるように動かすだけで、頭皮にはまったくつかず、髪にだけに色がつくので簡単です。
これを使えば、次のヘアカラーまで気分よく過ごせそうです!
アリミノ 田中:そのほか伸びてきた根元だけを自宅で染める、いわゆるセルフカラー商品を販売している美容室もあります。
サロンで次に染めるまでのつなぎとして、根元だけ自宅で染めたいという方も多いと思いますが、市販のヘアカラー剤を使用すると、次回サロンに行った際、自宅で使ったヘアカラー剤の種類がわからなくて、美容師さんが次に使用する染料の色がどのように出るかわからずに困るということがあります。
けれど、こうしたサロンで使っているヘアカラー剤と同種類のものを使用していただくと、美容師さんも髪の状態を把握しやすくていいかなと思います。
セトッチ:今まで、ヘアカラーとヘアカラーの間、気分がブルーになるのは仕方がないものと思っていましたが、こんな解決策があるのは本当にうれしいです!
取材・文/瀬戸由美子