2017年のゴールデン・グローブ賞は、受賞者よりもメリル・ストリープの話題が世界を賑わした感じでした。セシルB. デミル賞(映画業界に貢献した人が選ばれる特別賞)授賞のスピーチの中で、トランプという名前は1回も使わずに、明白にトランプ大統領批判をしたからです。
彼女のタイムリーで的確なトランプ批判のおかげで今年の授賞式の視聴率は上がり、ゴールデン・グローブ賞関係のSNSの利用率が前代未聞の記録を出しました。
ゴールデン・グローブ賞ノミネーション30回、受賞8回(ちなみにアカデミー賞ノミネーション20回、受賞3回)という記録を持つ彼女は、今年もコメディ・ミュージカル部門の主演女優賞候補(フローレンス・フォスター・ジェンキンス)に上がっていました。特別賞授賞の 挨拶に立った舞台で彼女のスピーチがスタートした時、会場は静まり返り、会場にいた私は実は少しびっくりしました。
40年近いメリルの長いキャリアの中で、私は数え切れないほど彼女にインタビューをしてますが、普段は政治的な事をオープンに語ることはありません。ヒラリー・クリントン支持で知られるメリルにそれを確かめた時も、ニコニコしながら「彼女は素晴らしい大統領になると思うわ。アメリカの常識を信じてます」と言うくらいでした 。そんな彼女がはっきりとトランプ大統領への痛烈な批判を授賞式のスピーチの中に入れ込んだのです。
Hollywoodはリベラルな政治色で知られてます。保守的な人が居づらい雰囲気さえあります。トランプ支持者もかなりいるはずですが、隠れている感じです。ジョージ・クルーニー、レオナルド・ディカプリオ、マット・デイモンなどスーパースター達が圧倒的に民主党支持・クリントン支持を表明してた中で、はっきりトランプ支持だと“カミングアウト”していた業界人は、アンジェリーナ・ジョリーのお父さんのジョン・ボイトくらいでした。
あの晩の授賞式会場は90%が反トランプだったのではないでしょうか?もちろん、Hollywoodのセレブリティが、公の場で政治的な発言をすることを嫌う人も多いです。多くのセレブリティが政治的な質問に答える事を躊躇します。
でもメリルが世界中で中継される授賞式で、敢えてトランプ批判をしたのは、それなりの理由があったはずです。それはトランプ政権の今の状況を見れば理解できます。授賞式に居た 1200人以上のほとんどが、スタンディングオベーションでメリルに拍車喝采を送ってました。
翌日、トランプ大統領が得意のツイッターで「敗残者クリントン支持のメイル・ストリープはHollywoodで最も過大評価されてる女優だ」という仕返しメッセージを送ったのは、周知の事実ですよね。
メリル・ストリープはHollywoodの歴史に残る名女優です。どんな役をやってもその役になり切って、過去にやった他の役を思いださせない稀有な演技者です。
そして独特の美しさと気品を持っていて、いつ会っても透き通るように白い肌が印象的です。年と共に増える目尻の小じわがチャーミングです。知的な人で自分が人生に求める事をはっきり把握していて、どんな時もそれを崩しません。
Hollywoodスターとして騒がれる立場はただ単に仕事の一部でしかないと思っていて、人気や名声に溺れた彼女を見たことがありません。彼女にとっては家族が一番大切であり、4人の子どもたちが大人になるまでは、夏休み以外は仕事はしなかったそうです。
子どもたちが夜遅く友だちを連れて来ても、気楽に夜食を作ってやれる母親でいたかったそうです。ディナーはできるだけ家族と共にすることもメリルの重要な日常の一部。この姿勢を崩さずに“大スター、メリル・ストリープ”を同時進行して来たのです。
ニューヨークでインタビューを受ける時は、彼女は地下鉄で来ることが多いです。地下鉄はいろいろな人が乗っていて人間観察をするのにベストな環境だからだそうです。「人間観察を止めたら役者として終わりよ」とはっきり言っています。