唐突ですが、「水曜どうでしょう」というテレビ番組をご存じでしょうか。
人気俳優の大泉洋さんが若き日に地元北海道でブレイクするきっかけになった旅バラエティで、地方局制作ながら日本各地で繰り返し再放送(現在も)。「何度も見た!」という方もいらっしゃるかもしれません。
実は私も「何度も見た!」ひとりで、マニアックというほどではないけれど、どうでしょうファン(のつもり)。演者ふたりとディレクターふたりのゆる~い旅が大好きで、視聴可能な局で放映されていると録画してしまいますが、中でも気に入っているのが「北海道212市町村カントリーサインの旅」。
あるルールに従って北海道中をひたすら車で走り回るだけなのですが、私にとっては“朝焼けの素晴らしさに目を見張った旅”でした。
まず、とにかく早い北海道の夜明けに驚き(6月末だと午前3時半頃から白々としてくる)、澄んだ空が刻々と色を変えていくさまに感動し、それと一体になった美しい景色にただただ圧倒され……。私は九州出身で、なじみのある土地といえば東京以外は西日本ばかり。だから、広大な風景もそれが朝日によって姿を変えていくさまもまるで異国のようで、強烈な印象となって心に残ったのでした。
前置きが長くなりましたが、なぜこんなことを書いたかというと、『あさになったのでまどをあけますよ』という絵本を読んで「朝焼けって人の心を打つものなんだ」と改めて思ったから。
“明けない朝はない”とよく言いますが、朝の光にはその言葉を証明するような特別な力というか、リセット力みたいなものがあることを信じたくなりました。
さて、この本の作者・荒井良二さんは国内外でさまざまな賞を受賞している絵本作家。1990年のデビュー以降たくさんの作品を発表していますが、私が感じた彼の絵本の魅力は色彩の豊かさとセンスです。
たくさんの色が使われていても不思議なほど調和していて、ぬくもりがある。深読みかもしれませんが、「悲しいことやしんどいこともあるけれど、やっぱりこの世は美しいし、楽しい」という作者の気持ちが伝わってくるような気がします。
『あさになったのでまどをあけますよ』もそう。
絵筆のタッチを残して描かれるのは山の麓の集落、ビルが建ち並ぶ街、川べりの家々、海に近い家……。よーく見ると、窓を開ける子どもの姿もあります。
そしてどの絵からも感じられるのは、そこで生きて行こうという人の覚悟や土地への愛着。朝日はそんな気持ちを自然と浮かび上がらせているようで、日常的な風景なのに神々しささえ漂っているようなのです。
絵に添えられているのは短い言葉ですが、読むと何だかハッとさせられ、「そうだよね、とりあえず今日も頑張らなくちゃね」と思わせてくれる。
イマイチ元気が出ない日、答えの出ない問いが繰り返し胸をよぎるとき、この絵本を手に取ると不思議な安心感が広がってくるのではないでしょうか。
もう1冊ご紹介したいのは、私が荒井良二さんを知るきっかけになった『バスにのって』。
バスを待ち続ける少年の前にいろいろなものが通り過ぎていくお話ですが、最後はちょっと意外で「なるほど!」と思わせる展開に。
ラジオから流れる「トントンパットン トンパットン」という音が読み終わったあとも耳に残り、きっと誰もが音読したくなる楽しい絵本です。
もう25年も私の本棚のいいポジションに置かれ続け、読み返すたびに「わー、すごい」「わー、きれい」「わー、面白い」と思わせてくれるこの絵本。
毎回シンプルな感動をよみがえらせてくれるのだから、『バスに乗って』はもはや私のお宝なのかもしれません。