皆さま、初めまして。
作家のいつかと申します。
今回から言葉についてのコラムを担当させていただくことになりました。
どうぞよろしくお願いします。
第1回は、10月25日から11月3日まで開催されました、東京国際映画祭から。
私は長年、日本アカデミー賞協会の会員で、年間にかなりの数の映画を観ていますが、この連載が始まるのに合わせて、今年は初めて東京国際映画祭のレッドカーペットと、オープニングセレモニーを観て来ました。
舞台挨拶だけならいくつも立ち会いましたが、レッドカーペットというのは、俳優が専用車から降り立ち、一旦控えのテントに入ってからステージで紹介され、そこからL字型に敷かれたレッドカーペットを歩いて撮影用のステージに並び、さらにバックステージでファンのサイン攻めやインタビューを受けるという、長い行程が続きます。
俳優といえどもその間、緊張される方や照れられる方、素の自分を出す方などさまざまでしたが、日本人の中でさすがと感じたのは、1997年の第50回カンヌ国際映画祭 において、史上最年少(27歳)で新人監督賞を、10年後の第60回ではグランプリを、第62回では黄金の馬車賞を、さらに第70回ではエキュメニカル審査員賞を受賞した河瀨直美監督です。
河瀨監督は、その他、世界各国の映画祭で受賞歴を重ねています。今回の東京国際映画祭では、JAPAN NOW部門に『光』を出品。劇場にて上映されました。
世界で活躍されているだけに、レッドカーペットでの立ち居振る舞いも堂に入ったもので、専用車から颯爽と降り立ち、シックな黒のアンシンメトリーのドレス、ポニーテールに長く垂らした黒いイヤリングで登場。悠然と周囲に手を振り、撮影時にはファッション・モデルのように腰に手を当ててポーズを取っていました。
ステージ上のインタビューでは、一通り堅めの挨拶をした後、「雨も止みましたしね。良かったですね」と。
この日は朝から小雨が降り続け、午後からも降ったり止んだりで、空は厚い雲に覆われていました。
実は河瀨監督の何人か前に、「今日はあいにくのお天気ですが……」とスピーチした方もいましたが、河瀨監督は「止んだ」と言い切り、さらに「良かったですね」と付け加えたのです。
こういったポジティブワードを使うことは、実はとても大切なことです。
あなたは「晴れ女」と「雨女」、どちらと旅行がしたいですか?
たとえそれが迷信でも「自分がいるとLUCKが起こる」と周囲に印象づけることを繰り返していると、自然に、人はあなたの回りに集まってきます。
逆に、大事なイベントを前に、「明日雨が降ったらどうしよう?」というような人間とは、私は縁を切る事にしています。
私は「言霊(ことだま)」を信じているので、ネガティブワードを使う人間が側にいると、本当に雨が降る確率が上がるからです。
もう一つ、言葉遣いで気になったのは、何かを質問された時、「えーっと」と考えながら、答えを言い始める方が多いことでした。
20歳以下の女性が使うのなら、可愛く見えたり、擦れてないピュアな感じが微笑ましかったりもするのですが、数々の名作に出演されている、ベテラン俳優の方々が「えーっと」と言われるのは、幼稚に見えて興覚めです。
皆さんの中でも、何か聞かれた際に、つい「えーっと」と言ってしまう方は声に出さず、口を閉じて答えを考えてください。間が空く事を恐れる必要はありません。一呼吸置いても、相手は待ってくれますし、却って思慮深い人間に映るものです。
また、言葉とは関係ありませんが、常々、日本人が遅れをとっているな、と感じることがあります。
それはバックスタイルです。
服を選ぶ時、日本人はあまりバックスタイルを意識しませんが、外国人は必ず360度から自分がどう見えるかチェックします。
レッドカーペットで私が感心したのは、「CROSSCUT ASIA ネクスト!東南アジア」部門で上映されたインドネシア映画「回転木馬は止まらない」の主演女優カリナ・サリムです。私見では、今回のベスト・ドレッサー賞だと確信しました。
上半身は身体にフィットしたゴージャスな黒と金のレースで、下半身は黒地に鮮やかで大柄な鳳凰や植物が全面に描かれ、前に深いスリットの入ったロングスカートなのですが、丈がかなり長く、レッドカーペットを歩くと、まるで尾を閉じた孔雀のように裾がたなびきます。
しかもバックスタイルは、背中が透けてお尻の上あたりまで肌が見えるので、ノーブラなこともあって、セクシーさにドキッとします。カーペットの色と黒の対比も素晴らしく、まさにレッドカーペットを歩くことを考えた、完璧な衣装と言えるでしょう。
いつか
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