こんにちは!
「元気が出るお金の相談所」所長の安田まゆみです。
前回の
「意外?相続でもめる家の遺産は○○万円以下が多かった!54歳主婦、義父の遺した300万円を巡る夫と義弟の争いに疲れ果て……」
の続きについてお話ししたいと思います。
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今回解決に向けて私が真っ先にしたのは82歳になるお姑さんの本音をきくこと。
なぜかというと亡くなった方の配偶者であるこのお姑さんの意向こそ、一番尊重されるべきものだからです。
お姑さんは最初はためらっていましたが、やがて
「先生、家を売って施設に入るとしたら私の場合はどうなるんでしょうか」
とおっしゃいました。
「あの家は思い出がいっぱい詰まっていて愛着があるけど、主人ももういないし、ひとりでここに住み続けるのは不安があります。
見守ってくれる人がいる施設に入って、自力でできることはやりながらちゃんと暮らしていけるところがあればって思っていたんです。
でも、息子たちはあの家を残してほしいと思っているようだったので、家を売りたいってなかなか言い出せなかった……」
そこで家を売るとした場合、いくらぐらいで売れそうか、経費はいくらかかりそうかを調べてみました。
土地がやや広かったおかげで建物の解体費用や残物撤去代、不動産屋さんへの仲介手数料などもろもろの経費全部を払っても、手取りで2000万円が残ることがわかりました。
計算してみると、年金だけでは明らかに足りない今後の生活費を取り崩したとしても、あと20年は暮らしていけると思われました。
さっそく私からご家族にお姑さんの本音をお伝えしたところ、なんと家を売るという選択肢は、お姑さんだけではなく息子たちの頭の中にも最初からあったそうです。
ところが息子たちは家を手放すというのは母親にとってはとても悲しいことだろうからと思って「この家を売ればいいじゃない」とは言い出せなかったそうなのです。
まさに今ニュースをにぎわせている〝忖度〟を親子がお互いにしていたのです。
それにしてもこの忖度って相続の場でもけっこう多くみられるんですよ。
忖度は相続においてトラブルのもとです!
やるべきは忖度ではなく(親の意向の)確認なのです!!
結果としてお姑さんは家を売却してサービス付き高齢者住宅に移ることになりました。
息子たちは遺された預貯金300万円から長男は100万円を、次男は150万円を分割してもらい、一件落着。
このようにどのご家庭も相続は単純ではありません。
遺言が無かったり、残された人たちに親の意向が伝わっていないと遺産相続への要望や希望、考え方を残った者同士がぶつけ合うことになるのですが、遺産が多くない場合こそ、どんどん細かいお金の額が気になってきてしまうわけです。
だから私は常々、親が健在なうちに家族みんなで相続について話しておくことを勧めているのです。
その大切さがわかるH樹さんの例を最後にご紹介したいと思います。
★他人事ではないH樹さんの経験談! 読めば身につまされること必至! 気になる続きは次ページに
10数年前に父親が亡くなった後、一人残された認知症の母親を介護別居までして実家で世話したH樹さん(69歳)。
3人兄弟の長男です。
実家は小高い場所にある低層マンション。
ここから見える景色が気に入って両親が購入した家です。
10数年前に父親が亡くなりましたが、そのときは母親がいたのでH樹さん兄弟は相続でもめることはなかったそうです。
なぜかというと当時すでに母親は認知症が始まっていたため、将来施設に入らざるを得ない場合に備え、遺された財産のほとんどを母親が受け取ることに兄弟みなが同意したからです。
ところがそれから10年後。
今度は認知症の母が誤嚥性肺炎で亡くなりました。
ここで相続の問題が勃発です。
母親は生前、認知症が進行する前、実家に住み込んで世話をしてくれるH樹さんに
「私が死んだら、お前にこのマンションに住み続けて欲しい。
お父さんとふたりで気に入って買った部屋だから、すぐには売らないでくれたらうれしい」
と話していました。
そこでH樹さんは
「母親の意向もあるので両親が住んでいたマンションに僕がこのまま住み続けたい、この家を相続をしたい」
と弟たちに告げました。
母親は一時期保険の外交員をやっていたことから約2000万円の死亡保険金があり、他に預貯金が300万円ほどありました。
H樹さんは自分がマンションを相続し、死亡保険金2000万円を弟たち二人が相続すればよいと考えていました。
ところが……
次男が異議を唱えました。
「マンションの価値は2500万円以上ある。
兄さんの提案する遺産の分割は不平等だ」
と。
妻と介護別居し、実家に住み込んで10年間以上母親の介護をした兄に対し、遺産分割を多めにしてもよいとは思っていませんでした。
それどころか
「確かに母さんの介護をずっとしてきて、兄貴は大変だったと思うよ。
だけど俺だって土日は時間をやりくりして母さんに会いに来てたんだ。
その時母さんは兄さんたちへの不満を話してたんだよ。
俺にしか話せないって、ずいぶん愚痴を聞かされたよ。
でも話してすっきりしたって言ってたから、母さんの精神的なフォローは俺がしてあげてきたと思う。
だから兄さんが介護した分多めに遺産相続したいっていうんだったら、俺も主張するよ」
と言いました。
そして
「それに兄さんは大学に6年も通わせてもらったじゃないか。
その分は、差し引くべきだ」
と数十年前の学費のことも持ちだしてきました。
カチンときたH樹さんはつい
「お前こそ、あんな派手な結婚式を挙げたじゃないか。
親父たちにけっこう費用を出してもらってただろ。
それって2年分の学費よりも多かったはずだ。
今回は遺産からその分は引いてもいいんじゃないか」
と言い返してしまいました。
こうなるともう止まらなくなります。
「兄さんは私立高校に通って、おまけに部活で年に何度も遠征に行っていたじゃないか。
費用が掛かって大変だって母さんが言っていたぞ。
それで俺は仕方なく公立校を志望したんだ」
「お前は俺よりも授業料が高い塾に通っていたよな」
「習い事は兄さんの方が多かったじゃない」
……と、どんどん過去にさかのぼって
「お互いがどれだけ親にお金をかけてもらっていたか」
を測り、その分を差し引いた金額を相続するよう迫っていったのです。
でもこれはH樹さん兄弟に限ったことではありません。
遺産を巡る兄弟間の諍いでは、本当によくあることなんです。
ところが事態は急転直下、大きく変わることとなりました。
どう分割するか結論が出ないまま、ひとまず母親の遺品を整理し始めた三兄弟。
そのとき〝それ〟は見つかりました。
★一体何が見つかったのか?気になる〝それ〟の正体は次ページに!
三男がたまたま手に取ったアルバムから〝母親の書いたメモ〟を発見したのです。
遺言の下書きのような、でも誰かに宛てた手紙のような不思議なものでした。
「H樹にはお父さんだけでなく、私まで面倒をかけてしまった。
本当に世話になった。
このマンションはH樹に遺してあげたい、私の好きな家だから。
すぐ他人に売ってしまわず、しばらくはここで暮らしてほしい」
そして文面の最後に名前が書いてありました。
日付は入っていませんでしたが、母親の認知症が進行する前のおそらく7~8年前に書かれたものと思われました。
法的な遺言にはなりませんが、母親の書いた遺産分割に関するメッセージであることには変わりません。
それを読んで、次男が態度を変えました。
「母さんがそう願っているなら、仕方ない。
兄貴がこのマンションを相続したらいいよ。
俺らは保険金をもらうことにする」
この後、二度ともめることなく遺産分割は進みました。
親の気持ちや意向は効果絶大ですね。
私のところにご相談に来られるシニアの方には
「遺言を書きたくないのであれば、法的拘束力のないエンディングノートでもいいので自分の遺産はこんな風に分けてほしいという気持ちを書いてください」
とお願いしています。
そしてその場合は鉛筆で書くことをおすすめします。
気持ちが変ったらすぐに書き直せますし、上書きしたり変更したりする際も抵抗感が少ないですから。
親が自分で書くからよいのです。
それを読んだ子どもたちは、親の気持ちや意向を筆跡からも感じることができるからです。
親という「重し」があったときにはもめない子どもたちも、財産の分け方についての望みを伝えないまま親が亡くなると、遺産分割で兄弟げんかになってしまうことが多いのです。
その例を今回はご紹介しました。
親が健在なうちに相続について家族で話しておくことの大切さを実感していただけましたでしょうか。
親との別れ……
それはある日突然くるかもしれません。
50歳になったら〝自分の老後の準備〟と並行して、〝親の財産の相続〟についても備えましょう。
●明るく気さくな人柄の安田さんが所長の「元気が出るお金の相談所」↓