娘だけが知る女優・野際陽子の男前な素顔
著者interview
キーワードは「男前」。娘が語るクールで知性派 女優・野際陽子の素顔
真瀬樹里さん
Juri Manase
1975年生まれ。女優。5歳のとき父・千葉真一さんの舞台を見て感動し俳優になることを決意。 バレエやピアノ、水泳などのお稽古に通う。大学進学と同時にデビュー。日本大学藝術学部では厳しい練習で有名な殺陣同志会に所属。TVドラマ「トットちゃん!」では、黒柳徹子さんのたってのリクエストで母・野際陽子役を好演
TVドラマ「トットちゃん!」で野際陽子役を演じた真瀬樹里さん。そっくり! と感じた読者も多いのでは? この本には娘である真瀬さんの目から見たありのままの野際さんが描かれています。
「初めお話をいただいたときは、お断りするつもりでした。母は自分のことを大げさに語られるのを好まないと知っていましたから」が、それを知った友人たちが真瀬さんの背中を押したのだとか。
「『娘だから書ける素顔の野際陽子を知りたい人はいるはず』とか、『照れ屋で自分のことは語らなかった野際さんも、娘のあなたが書いてくれたらきっと喜ぶ』と言われて。調べたら、身内が本にまとめるのはよくあるとわかり、女優だけでない、一人の女性としての野際陽子を書くのは、私しかできないかもと思い直しました」
一度決めたら、とことんやり遂げるという責任感の強さは、まさに母親ゆずりの真瀬さん、初の書籍執筆に取り組んだのでした。
「それまでも詩を書いたりすることはありましたが、母の人生について生い立ちから亡くなるまでを綴るのが、どれだけ大変か、そのときは見当もつきませんでした」
母を語るため娘として自分のことも正直に書かざるをえません。
「読み返すたびに、自分についての記述は極力削りました。これは野際陽子の本で、読者が知りたいのは彼女についてなのだからと。また、母が読んでも喜んでくれるように心がけたつもりです」
ちなみに、真瀬さんにとって野際さんがどういう母親だったかというと――幼い真瀬さんに、「パパとママ、どっちが好き?」と何度も質問して、どちらも大好きだった真瀬さんを困惑させたり、「私のかわいい鼻ぺちゃさん!」と真瀬さんにコンプレックスを抱かせてしまったりと溺愛ぶりを発揮する一方、俳優を志す真瀬さんに高校卒業まで許さなかったという、しつけには厳格な一面も。
「そんな母に反発して親子喧嘩になると、負けるのはいつも私。理屈では勝てたためしがありませんでした」
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ある日、いつも通り言い負かされ自室に戻った真瀬さんが意を決して居間に戻り、「私は、弱気になったときお母さんにだけは話を聞いてもらい、受け止めてほしかっただけ!」と泣きながら直訴。
「母もびっくりしていましたが、『今まで気づかなくてごめん』とわかってくれました。母はしんどくても泣き言を言わない人。でも、私は聞いてもらいたいタイプ。そこは母と私は性格が真逆」
晩年、闘病していた野際さんは真瀬さんにもひと言も愚痴らず、「やすらぎの郷」の撮影を最後までやり遂げたのだそう。
「つらいときは遠慮せずに言ってと私が頼んでも、言葉にはほとんど出しませんでした。そういうところは本当に男前な人でした」
クールに見えるのは人一倍人見知りなせい、一度気心が知れたら面白いことを言って人を笑わせるのが大好きだったという野際さん。「いつも笑っていなさい」「前向きでいなさい」と、口癖のように真瀬さんに言い聞かせていたのは、野際さん自身が心がけていたからこそ。ブレないその姿勢が、野際陽子さんのかっこよさですね。
「読者の方からのリアクションは、どんなものでもありがたいですね。それだけ関心を持ってもらえるということですから」と語る真瀬さんの涼しげなまなざし、やはり野際さんにそっくり!
『母、野際陽子 81年のシナリオ』
真瀬樹里 著/朝日新聞出版
1,500円
クールな容貌に知性を兼ね備えた美人女優として生涯輝き続けた野際陽子。その一人娘で女優の真瀬樹里が母の生涯を綴った初の著書。気さくで面白いことが大好きな人柄、あふれる愛情を娘にそそぐ母親としてのエピソードの数々は共感を呼びます。未公開のプライベート写真も多数掲載
撮影/小山志麻〈真瀬さん〉 久々江 満〈本〉 取材・原文/佐野美穂