日本一の夢が目前で消えそうになっても、宮澤が迷わず選んだ「決断」とは?
OurAge世代になって初めて乗った自転車に恋した私。元プロのロードレーサー、宮澤崇史(みやざわ・たかし)と偶然出会い、そのまま成り行きで彼のマネジメントに携わることになりました。
全く無縁だった自転車の世界で、さらに全く知らなかった元選手のマネジメントに携わるなんて、なぜ?
と我ながら不思議に思います。実際なぜかと問われたら、ただ宮澤という人間が、人が生きるうえで本当に大切なものをいくつも心の奥にしまっている人だったから、としか言いようがないでしょう。
彼のストーリーは、今週末の8月24日、日本テレビ系列の特番『24時間テレビ』の中で「嵐」の相葉雅紀さんが主演を演じるドラマスペシャル『絆のペダル』として放映されます。そのドラマをご覧いただければ、彼の驚きの半生をよくわかっていただけると思うのですが、ここではその前情報として、少し彼のことをご紹介しておきたいと思います。
宮澤崇史/元・自転車競技選手。北京オリンピック・ロードレース種目・日本代表。
中学生の時にテレビで観たツール・ド・フランスに感動してプロの自転車選手を目指す。高校卒業後に渡欧、以後は主に海外に活動の拠点を置く。36歳で現役引退、現在はリオモ・ベルマーレ・レーシングチームの監督を務める他、レース解説や講演など様々な活動に従事。「自転車選手は自転車に乗っているだけでなく、日々の生活全てからいろんなことを学んで人生そのものを豊かにすべし」というフィロソフィーの持ち主で、食、音楽、ファッションなど幅広く関心を持ち、表現する。
1978年、長野県生まれ。41歳。
幼い頃に父親を亡くした宮澤を女手一つで育てた彼の母親。たまたま自転車レースをテレビで観て「自転車選手になる!」と思いつきのように叫んだ崇史の言葉を、子どもの思いつきと笑って済ませず、宮澤の母は真剣に受け止めました。それがやがて、その後の宮澤の人生を決定づけることになります。
同僚から自転車を借りてきて宮澤をレースに参加させ、褒めちぎってくれた母。高校生で本格的にレースを始めた宮澤の遠征には、母が車を運転して出かけ、共に車中泊でレースに臨む。そんな親子二人三脚で、宮澤の選手生活は支えられていました。イタリア遠征の機会を得た時も、母親が少ない収入の中から費用を工面しました。そんな苦労を痛いほど感じていた宮澤は、母の献身に応え、日本一の選手になりたいと奮闘。ヨーロッパでレースを学んで来ると、国内レースで次々と勝ちを上げ、みるみる頭角を表していきます。
そして、日本一の座まであと少しという時……。愛する母を巡って、選手生命にかかわる大きな「決断」を迫られます。宮澤が23歳の時のことでした。
母のため、迷いなく選んだその「決断」のため、体力と時間を失った宮澤は、戦力外通告を受け、プロ選手としての道を閉ざされてしまいます。しかし、それでも自転車をあきらめなかった彼は、単身フランスに渡り、あらためてアマチュアから再びトップ選手の座を目指して血のにじむような練習を始めました。
それから努力を重ね、宮澤は32歳で晴れて「日本一」の座を手に入れたのです。
あの「決断」から、9年の時が流れていました。
宮澤と母の軌跡、その思い、苦しみ、そして喜びは、ドラマで詳しく描かれています。ぜひ、ご覧ください。
宮澤の半生はこれまでも何度かメディアに取り上げられ、中学生の道徳の教科書にも掲載されています。そして今回、『24時間テレビ』のドラマスペシャル『絆のペダル』として、さらに多くの方々に知っていただけることを、嬉しく思います。
現役時代の宮澤。(手前の青いウェア) ツアー・ダウンアンダー(オーストラリア)にて。
ドラマからリアル世界に届いた、「たかしー!!」の呼び声
先日、ドラマの収録最終日に宮澤がお招きを受け、宮澤と共に私も、神奈川県川崎市の生田スタジオまで行ってまいりました。
宮澤家のセットが組まれたスタジオに案内されるや、スタッフ・キャストの皆さんから盛大な歓迎を受けて照れる宮澤。
相葉雅紀さんは、宮澤との対面に感激されたご様子で、始終溢れる笑顔。
途中ADさんがやってきて「崇史さーん」と声をかけると、二人が同時に振り返り、スタジオ中が大笑い。
最終カットの撮影は、崇史のフランス行きを薬師丸ひろ子さん演じる母・純子が励ますシーンでした。
相葉さんと薬師丸さんは、仲睦まじい本物の親子にしか見えません。
「カーーット!お疲れ様でした!」の監督の声と共に拍手が沸き起こり、主演の二人に花束が贈られます。
相葉さんはスタッフの方々に向かってお礼を述べられてから、
「宮澤崇史さんという方に出会い、演じさせてもらって、僕の人生の大切な宝物になりました。僕はこの役が大好きで、本気で熱くなれる役だったなと思います」
と挨拶されました。胸熱。
スタジオを辞し、都内に戻る帰路。自転車の宮澤と私は、お盆前で大渋滞を起こしている車列の横をすり抜けて走っていました。
ふと横を見ると、サングラスをした女性がこちらを見てニコニコしながら手を振っています。
顔がわからないけれど、知り合いかな?と訝りつつ、チラチラ見ながら走っていたらそのうち窓が開いて――
「……たかしー!!」
と叫ぶ声が聴こえました。
それって、もしかして……ドラマのセリフ?
ということは……薬師丸さん……!
満面の笑みで一生懸命手を振るその姿は、まぎれもなくレースで崇史を応援する母の姿でした。
フィクションと現実の境界が、融解した瞬間。
一瞬、鳥肌が立ちました。
台本を何度も読み、そのシーンを心に刻みつけていた薬師丸さんは、リアル崇史が自転車に乗って自分の前を走り過ぎていく姿を目にして心が躍り、思わず声をかけてしまったのでしょう。
なのにリアル崇史ときたら、肝心のセリフを耳にしていないのです。(気づかずそのまま走って行ってしまいました)
あんな奇跡のようなシーンを目撃したのは、この世で私一人だけなんて。
テレビの画面でもなく、スクリーンでもなく、舞台の上でもなく、私の目の前だけに現れ、一瞬にして消えた幻のシーン。
こうした小さな、けれども美しい瞬間がほんの少しあるだけで、人生は素晴らしいと思えるのです。
この週末はハンカチを、いえ特大タオルを用意して、母と子の絆の物語『絆のペダル』をぜひご覧くださいね!
北京オリンピックでの宮澤とお母さん
◆24時間テレビ ドラマスペシャル「絆のペダル」(日本テレビ系列)
8月24日(土)午後9時ごろ放映