『24時間テレビ』ドラマスペシャル『絆のペダル』、ご覧いただけましたでしょうか?
相葉さん、本当に素敵でしたね。薬師丸ひろ子さんとのシーンは、涙なしでは見られなかった方も多いのでは。
宮澤崇史(みやざわ・たかし)という人間の生き方が多くの人の心に響いたとしたら、こんな嬉しいことはありません。
偶然に導かれた、宮澤崇史との出会い
実は、私は出会うまで宮澤のことを全く知りませんでした。正確には直前まで知らなかった、というべきか。
それは2年前のある日のこと。外苑西通りを青山から西麻布に向かって自転車で走っていると、ふいに横道から2台の自転車が飛び出してきました。一人はひとめで選手とわかるウェア姿、もう一人は普通の服装。普通の服装の男性が私の目を惹きました。どこかで見たような……。あ!
その数日前、SNSに上がっていた宮澤崇史という選手の優勝インタビュー動画を、私はたまたま目にしていたのでした。しばらく二人は私の前を走っていましたが、交差点でスタンディングスティル(自転車から降りずにペダルに足を置いたまま静止する上級者ならではの停車スタイル)をしていたかと思うと、ひらりと小道に消えていきました。
そして一ヶ月後。
私は当時一緒に仕事をしていたロードレースチームの応援に、レース会場の那須塩原市へ来ていました。
おりからの雨の中、チームパドックを歩いていると、ちょうど目の前に外苑西通りで見かけたあの宮澤選手が。
著名人であろうがなかろうが、面識のない男性に私から声をかけるなど絶対ありえないのですが、なぜかこの時の私は躊躇なく「この間お見かけしましたよ」と話しかけてしまったのです。
二、三言交わしてその場を離れ、私は自分のチームを応援するためにスタート地点に移動しました。
「スタート3分前」のアナウンスが流れると空気に緊張が走り、辺りが一斉に静まり返ります。
ふと見ると、目の前に再び宮澤選手が。目が合うと、宮澤は自転車を置いてヒョイと私の傘に入ってきました。
「濡れるのイヤだから入れて」
今からレースで濡れるのに?と突っ込みたいのを抑え、笑顔で返す私。
周りの選手達がこちらをガン見していますが、本人は一向に意に介さない様子。
私の首にぶら下がっているVIPパスを見て、
「あ、VIPなの?」
「いえ、これは那須ブラーゼンと仕事している関係で」
「へえ、どんな?」
「プロの選手達とサイクリングして、シャンパーニュで乾杯して、そのあとは最高の食事と語らいを……。ざっくり言うと、そんな場を創る仕事です」
「いいね! 僕もそういうのがやりたいんだ。今度詳しく聞かせてくれる?」
と言い残し、スタート10秒前のカウントダウンと同時に戻っていきました。
那須で行われたレース当日、なぜか再び目の前にいた宮澤
そんな出会いをスタートに、自分たちの夢を語り合っているうちにお互いの最終目標が合致することを知り、とりあえず何か一緒にやろう! と盛り上がっていったのでした。
その第一弾が2017年のジャパンカップです。
アジア最大のレースのひとつであり、アジアで唯一の「超級」であるこの自転車レースで私たちは、周回する林間コースの沿道にテントを建て、まるで星付きレストランのようなテーブルをしつらえて食事会を企画しました。
シャンパーニュ片手に美食を楽しみながらスポーツを観戦&応援するスタイルは、宮澤も私もヨーロッパ滞在で体験してきたスポーツ文化の一部。従来の日本の自転車レースにはなかった楽しみ方の提案は、大きな話題を呼びました。
初めて一緒にイベントを企画したジャパンカップで。宮澤は解説者としてレース観戦対応を担当、私は食を担当
フラワーアーティスト・中元泰子さんによる美しいしつらいと、コースサイドでスタンバイするシャンパーニュ
聖人? いえ、むしろ……? 多様な顔を持つ宮澤という人間
ドラマであれだけ素晴らしい人間像が描かれた後に、こんな出会いを書くと、
「あれ、宮澤さんって実は調子のいいナンパ野郎なんじゃないの!?」
と、眉をひそめられる方もいらっしゃるかもしれません。
はい。誤解を恐れず形容するならば、実際に宮澤は調子のいいナンパ野郎「風」、の一面も持っています。というか、とても多様な顔を持った人で、人懐っこい時もあれば、近寄り難い時もあり、どうしようもなく俗な時もあれば、神々しいほど聖なる存在となる瞬間もあります。
私が宮澤の姿を「神々しい」と感じたのは、出会って程なく彼が、母親に生体肝移植をしたことを話していたときでした。
「聖は俗に宿る」と常々私は思っていますが、宮澤はまさにそんな両義性を備えた存在なのでした。
そんな彼の「聖」の部分に光を当てたのが、今回のドラマ『絆のペダル』でした。
「やんちゃ」さの中に隠れた思い
実際、彼はやんちゃな一面でもよく知られています。ルール破りが得意で自由奔放に生きる宮澤。自転車界では「輪界の暴れん坊将軍」とあだ名され、空気を読まないストレートな言動から時として批判も浴びます。
ただ、彼は単に自分の好きなようにしたくて発言するのではなく、組織や人のために良いと思うことであればこそ、批判されても言い続ける、そうしたタイプの人間です。
「トリックスター」という言葉があります。それはいたずら者として社会を撹乱し、時に罰せられたり、社会から追放されたりしながらも、既成概念や社会規範を破壊することによってパラダイムシフトを起こす者を指します。
私は宮澤が、まさにトリックスターの役割を果たす人間なのだと確信しています。社会を変える者、として。
勝負にこだわるエネルギッシュさと、我欲を捨てた清々しさ。相反するものを内に秘める宮澤
自由奔放な一方で、弱ってる人や困っている人を見ると自分を放り出してでも全力で助けにいく優しさも持っています。去年フランスのライドイベントに参加した時、足が攣って唸っている人を見ると駆け寄ってマッサージをして治してあげたり、よろめいている人を支えたりと、見も知らぬ人達を助けることに終始していました。
プロ競技スポーツ界に身を置き、強い者だけが生き残れるという「強さ=正義」の世界で生きてきた人ですが、彼は往往にして人の目につかないところで弱った人を助け、当然のことのように「他者貢献」をしているのです。
見返りを一切求めず、ひたすら与え続ける人。
これが宮澤の本質です。
以上、宮澤の人となりをご紹介させて頂きました。そつなく生きることが得意ではない宮澤が、存分に社会貢献できるようにさせてあげるのが、私のミッションの一つであり、そのための出会いだったと思っています。
あの時、私があの動画をクリックしなかったら? あの時、宮澤が外苑西通りを数秒早く通り過ぎてたら? スタート地点の反対側に立っていたら? …… そんなことを言い出せば、私を最初に自転車に乗せたあの人に出会ってなかったら? この人に出会ってなかったら? と遡っていくと、そもそも私がこの世に生まれてなかったら? というところまで辿り着きます。
人が誰しも生きているだけでかけがえのない価値を持つのは、必ず誰かの運命を決定づける役割を相互に果たすから、だと思っている私。
これからさらにどんな出会いがあって、どんなに胸がときめく未来が待っているのか。考えるだけでわくわくします。
同じく2017年ジャパンカップで。テントから出て熱く応援!
ランチはレストラン・オギノとオステリア・クロチェッタのケータリング