今年本好きと言われる人たちがこぞって絶賛した小説、それが木内昇(きうちのぼり)さんの『櫛挽道守(くしひきちもり)』。幕末の木曽山中を舞台に、神業的な腕を持つ父の背中を追って、櫛職人を目指す少女・登瀬の物語です。
私が読んだのは、夏の初め頃だったでしょうか。いつもは同時進行で2、3冊読むのに、そのときは「今はこの小説の世界に浸っていたい!」と思って、どんどんページをめくっていった記憶があります。
読み終わるなり、しみじみ思いました。「内容は地味だけど、なんて豊かな小説なんだろう!」と。「豊かな」というのは、この場合「いろいろな味わい方ができる」という意味なんですけど。
つまり、女性がそれまでになかった生き方をする話だし、職人が技を究める厳しさと喜びが描かれているし、変わりゆく家族の物語でもあるし、庶民が肌で感じた幕末という側面もあるし、報われない恋という悲劇的要素もある。さらには、ある人物の真意が最後になって明かされるという、ちょっとミステリーっぽいニュアンスまで。そういったものを、見事なバランスでまとめ上げた作者に脱帽! と同時に、「通好みの小説だけど、多くの人に読んで欲しいな。読み始めたら絶対夢中になるはず」と確信したのでした。
そうしたら……
『櫛挽道守』はなんと、柴田錬三郎賞、中央公論文芸賞、親鸞賞を受賞し、「三つの文学賞に決まった木内昇さん」と新聞記事にもなったではありませんか! それを読んだときの私は、ちょっとドヤ顔になっていたと思います。「ほら、やっぱりね」と(笑)。
そんな心中を察したかのように、OurAgeのふみっちーから「柴田錬三郎賞を含む集英社四賞の贈賞式がありますよ。よかったらご一緒に」とのお誘いが。喜んで参加させていただくことにしました。
11月14日夕方、場所は帝国ホテル。ふみっちーと席に着くと、前方には各賞の選考委員の方々が。伊集院静さん、林真理子さん、江國香織さん、角田光代さん、北方謙三さん、姜尚中さん……他にも大勢、そうそうたる顔ぶれです。
『櫛挽道守』について講評を述べられたのは、伊集院静さん。職人や方言の描写を例に挙げて、「取材がすばらしい」と絶賛された伊集院さんは、「木内さんは寡作ですが、これからは量を」とリクエスト。それに応えて木内さんは、「選評を読んでとても勉強になった。これからは“力は抜けているけれどいいプレー”をしていきたい」と力強く語っていらっしゃいました。
ところで、なぜ木内さんは“力は抜けているけれどいいプレー”という言い方をされたのか?
実は木内さんは、高校・大学とソフトボール部のエースピッチャーだったんだそうです。本当にびっくりしました!
話は贈賞式から小説に戻りますが……
この作品の「家族の物語」という面に一番共感するのは、ひと通りの人生経験をしてきたOurAge世代かもしれません。
頑固な父、父に似てひたむきな長女、そんな姉に反抗心を抱く次女、目の前のことに一喜一憂する母……。ほら、どこかで見たような家族でしょう?
とにかく、いろいろな切り口がある小説なので、読後に読書会みたいなものを開いたら、きっと盛り上がると思います。ぜひお友だちと、おいしいランチつきで、いかがでしょうか。(終わるのは夕方になっちゃうかも!?)