アメリカでは5シーズン目を終了した”Downton Abbey”(『ダウントン・アビー』。日本ではシーズン3がNHK総合で毎週日曜日23:00~OA中)。人気は衰えることなく、シーズンごとに確実に上昇しました。6シーズンで終わりになることが発表されてますが、そのファイナル・シーズンの撮影が始まった直後、現場のHigclere Castle、ハイクレア城の訪問が実現して、キャスト全員に合うことができました。
撮影現場をいくつかのグループに分かれて見学させてもらったのですが、その案内をしてくれたのが出演中の俳優たちでした。私のグループは、トム役のアレン・リーチとトーマス役のロブ・ジェームス=コリアーに案内してもらいました。
このシリーズの中心人物、グランサム伯爵とその家族の住まいとなっているダウントン・アビーは、1679年からカーナーヴォン伯爵(Earl Carnarvon)一家の住まいである、1千エーカーの敷地に立つハイクレア城 です。
小雨降る、冬真っ只中の2月16日に目の前に現れたハイクレア城は、意外に小作りに見えたのですが、写真で見るとやはり、私たちの後ろで威厳を持ってそびえ立っています。
現在は8代目カーナーヴォン伯爵と夫人と3人の息子さんが住んでます。もっとも、ハイクレア城と呼ばれる巨大な邸宅ではなく、すぐそばにある別邸(それでもベッドルームが10はありそうな邸宅)ですが。これだけのサイズの家(城?)を維持するなんて今では考えられない事です。 維持するだけで膨大な経費がかかることは明白です。撮影現場に居たクルーの一人が「『ダウントン・アビー』の撮影に使われて、カーナーヴォン伯爵は本当にラッキーだよ」と言ってました。
このサイズの貴族の館で、昔ながらの豪華さ美しさを残しているものは、今では英国でも数えるほどしかないそうです。このシリーズに登場する貴族の生活は、とっくに歴史の一部になってしまっているのです。
ジュリアン・フェロウズ(このシリーズのクリエーター)は、最も美しい城と呼ばれるハイクレア城を頭に置いて脚本を書いたそうです。ストーリーを今更説明する必要はないと思いますが、このシリーズが世界的に大ヒットした理由を「貴族と召使いの一人一人を、それぞれの立場で懸命に生きる人間として描いたのが受けたのではないか」と言ってます。
民主主義に傾いて行く政治的変化を背景に、少しづつ 崩壊して行く華麗なる英国貴族社会のサバイバル。貴族のファミリーとその召使たちの両世界で繰り広げられる人間関係とメロドラマ。開放された未来を見つめる若い世代と、 生まれた時から享受して来た特権から開放されない古い世代の確執。女は財産も爵位も相続できない男尊女卑の社会の中で、はっきりした意見と生き方を貫く、貴族社会の強い女たち。
面白いひねりはグランサム伯爵夫人がアメリカ人女性だというところ。貴族社会を背景にしたテレビシリーズを製作しないか、と誘われた時に、フェロウズはちょうど“To Marry an English Lord”(『英国貴族と結婚するには』)という本を読んでいたそうです。1800年代後半、浪費で経済困窮に陥った英国貴族たちの中には、サバイバルの手段としてアメリカの大金持ちの女相続人との結婚を計った人たちがいたのです。その本にインスパイアされて、グランサム伯爵の妻コーラを金持ちのアメリカ人にしようとピーンと来たのが、『ダウントン・アビー』 のアイディアのスタートだったのです。
ジュリアン・フェロウズ自身は貴族出身ではありませんが、エジプト大使だった父を持つかなりハイソな階級に属した生まれで、実際マギー・スミス演じるグランサム伯爵の母バイオレット・クローリーは彼の大叔母さんをモデルにしてるそうです。貴族のお話は無数にありますが、『ダウントン・アビー』は自分がその一部になってるような臨場感が素晴らしいと思います。